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第17期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「トランスフォーメーション リーダーシップ」

講師:平手晴彦
(武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2017年6月24日

2010年から、武田薬品工業のグローバル化を担うキーパーソンとして活躍している平手さん。現職就任以前にも、さまざまな会社で20年以上社長やエグゼクティブを歴任してきた経歴を持つ。その経験を元に、経営者として、そして人生においても、自分の変化を自分でつくり出すための心得を伺った。

 

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ゴールの設定なしに、人の成長はない

 

まず平手さんが強調したのは、「成功するためには、ゴールを設定することが必要」ということだ。「目標を持たずに生きている人は多いですが、今日私が皆さんにぜひとも伝えたいのは、目標を持って戦略的に取り組んで欲しいということです」。最初にすべきことは目標を定めることであり、ゴールを設定することなしに人の成長はないと断言する。毎日なんとなく生きてしまうと、何に向かってどう動いているのかも分からず、自分の変化を自分でつくり出すことができない。「ゴールを設定し、それを実現するための戦略、ストラテジーをセットし、次にそれを実行するためのプロセスやいろいろな仕組みを考えて、最後はその仕組みをサポートするストラクチャー、組織を作っていくのです」。

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たとえば、ある企業がイノベイティブな研究開発をして新しいものをつくりだすというゴールを設定したとする。そのために<柔らか頭>のクリエイティブな人材を集めて、自由な発想でゴールを目指してもらうというのが戦略となる。そして、そこへのプロセスとして、<柔らか頭>の人材が集まるような、採用や教育の仕組み、あるいは給与体系をつくる必要がある。「よくある失敗例は、目標がはっきりしないまま、何かうまくいかない、売上が伸びないからと組織をいじり始めてしまうパターン。社長が何を考え何のために組織を変えているのかが分からないと、社員はたまったものではありません」。反対に、ゴールが明確であれば、組織の変更があってもそこにいる人たちには納得感があるので、全社一丸となってみんながそちらに向かって動いていく。「企業のリーダーとなる人に頭に入れておいてもらいたいのは、必ず目標を明確に決めて、それを組織の中に懸命にコミュニケーションして分かってもらった上で、社員参加型で戦略、プロセスを決めていけば、全体が一気に動くということです」。

 

 

武田がグローバル化を進める理由

 

現在、武田薬品工業では14人の経営陣のうち日本人は平手さんを含めて3人だけで、社長をはじめ他はすべて外国人だ。「元はコテコテの大阪商人の超ドメスティック企業」が、急速なグローバル化を進める理由は何か。「我々の製薬会社としてのゴールは、革新的な新薬を患者さんに届けること。そのためには莫大な研究開発費がかかります。それでも新薬は1年に1つ出れば良い方なのです」。投資にはリターンが必要だが、昔のように日本やアメリカの市場だけを相手にしていたのではやっていける時代ではない。投資した分を回収するには、今や新興国を含めた世界中のマーケットをカバーする必要がある。すなわち、大きなR&D投資をして革新的な新薬を創り出し、それをグローバル市場で展開し投資の回収を図り、次のR&Dに回していく。そのためには大規模R&Dができる財務力、十分な回収をすばやく実現できるグローバル市場の確保が両輪となる。この10年ぐらいの間にいろいろな会社の買収を進め、28カ国だった販売網は70カ国以上に拡大し、全世界の市場の90%をカバーすることとなった。「これを先ほど説明した目標→戦略→プロセス→組織という図式で整理すると、イノベイティブな薬品を患者さんに届けるというゴールを決め、そのために研究開発への投資を徹底的に行うという戦略があって、その回収にはグローバル化というプロセスが必然であり、それをサポートするためのプロの集団組織を結成したということになります」。

 
目標を設定し現状を把握すれば、課題が見える

 

企業の経営に限らず、人生においても目標を設定することが大事だと平手さんは考えている。「目標を設定した上で自分の現状を考えてみると、その差が課題です。目標がハッキリしていて現状が把握できている人は、そのギャップが課題だからシンプルで分かりやすいのです。しかし自分の現状を認識できない人は課題を引き出すことができません。だから、目標をしっかり置いて現状を把握する。これを100回でも200回でも繰り返す。これは本当に大事だと思っています」。

 

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自分の現状を把握するということは、平手さんの言葉でいうと自らの<身体像>を知ることだ。「たとえば自分はすごく優秀だと思っている社員がいたとします。誰かのアドバイスをもらったときに、それを取り込んで自分のやり方を改善しようとする人はどんどん伸びます。でも、あの上司は見る目がないなどと馬鹿にしている自信過剰な人は、二度とアドバイスをもらえなくなります。謙虚に人の話を聞いて自分のことを確実に知ることが、自分の人生において大事なことなのです」。

 

最もローリスクハイリターンなのは、自分への投資

 

死に物狂いで勉強して自分に力を付けた20代、管理職となり人を扱うことの難しさを学んだ30代。40代から代表取締役社長を務めるようになり、50代で武田に入社し、急速な国際化に向けて邁進してきた。これらの経験を経て、人を育てることが会社経営の骨子だと信じるようになったという平手さんには、「国際的に大暴れできる経営人材を作りたい」という思いがある。「日本経済にとっても大事なことなので、それが武田の中でも外でもかまわない。今日、ここに来て皆さんにお話をしているのも、将来日本の経営者として活躍してくれる人がひとりでも2人でも生まれてくれればいいなと願うからです」。

 

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平手さんが強調するのは、自分の人生のうちの10年間をどう過ごすかについて明確な意識を持つということだ。「この10年間で何かの目標を達成しようと思って過ごすのか、なんとなく過ごすかで、5年後7年後には大きな差がついてきます。がんばるかがんばらないかの結果として出る格差はアンフェアではないと私は思っています。実際にがんばった人に報われる社会を作りたい。その思いで私は社長をやってきました」。

 

目標を設定してそれを実現するための戦略を考えるのは、個人の人生にもあてはまる。「自分の人生をハイリスクハイリターンで行くのか、ローリスクローリターンでいくのか。性格ややりたいことで選択肢は違うでしょうが、理想はローリスクハイリターンです」。そう考えたとき、最も確かな投資は自分への投資だという。「価値のある本を読むなど自分に知識経験能力をつけていく努力をするというのは、一番ローリスクでハイリターンがとれる投資です。自分に力を付けるということはが自分の人生を広げ、今まで考えられなかった目標を置くことができるのだということを、ぜひとも覚えておいてください」。

 

<質疑応答>

 

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【塾生】

自分自身を作ってきた軸のようなものがありますか?

【平手さん】

20代の頃、1年に1つは何か新しいことをやろうと決めました。ウィンドサーフィン、スポーツカイト、ゴーカート、なんでもいいからやったことのないことをやってみるのです。4,5年ぐらい経つと、およそ自分がやらないタイプのところにまで手を出さないとネタがなくなります。ある年、困った私は公民館でそこにいたおじいさんと将棋を指しました。するとおじいさんの話がおもしろいのです。お酒を飲まない私は人間関係の構築に苦労することもあったのですが、おじいさんから聞いた話が仕事で付き合いのある教授との話で役に立ったこともありました。その経験から、普段付き合わない人を含めて、人のアドバイスを聞くことの重要性を痛感したのです。人の話を活かして行動したときの反応の良さを知ってしまうと、謙虚に耳を傾けられるようになります。たくさんの人の話を聞くことは、自分を成長させてくれるのだと思いました。

 

【塾生】

自分に自信が持てないと、謙虚というよりは人のいいなりになってしまいます。自信過剰にならずに自信を持つにはどうしたらいいでしょうか。

【平手さん】

私自身、長所も短所も自信過剰だと思っています。短所としての側面はあれど、過剰なぐらい自信を持つことが人生を切り開いていく上で重要だということも痛感しています。だから、自信は持ちすぎるぐらいあっていいんです。自信過剰になるなというよりは、人の意見をちゃんと聞ければいい。リーダーが小山の大将、裸の王様になってしまうと、意見してくれる人がいなくなって、その会社はダメになるケースがあります。そうではなくて人の意見はきちんと聞く。「よし、分かった。でも、俺の意見はこれだ」と判断ができる人になっていれば良いのだと思います。

 

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【塾生】

社長というフィードバックを受けづらいポジションで、どうやって自らの身体像を把握するのですか?

【平手さん】

社長になってしまうと、確かに下からのフィードバックは難しくなります。だからこそ、社長には任期があって、代わる必要があるのです。ただ、社長の中にも人の意見を聞こうと努力する人たちはいます。経済同友会や経団連、その他いろいろな委員会など日本には財界というコミュニティがあり、そういうところに行くと、まわりは社長ばかりなので社長同士のフィードバックを得ることができます。私も足繁く通うようにしています。

 

【塾生】

ドメスティックな会社をグローバル化するために、買収後の組織のデザインにおいて、何を残し、何を残さないのか、何を持って判断していますか。

【平手さん】

その企業の基本的な理念、バリューステイトメントみたいなもの、ミッション、ビジョンは絶対に譲りません。武田も235年の歴史、日本の伝統的な良さを以て世界に打って出るということをしています。グローバル化することが目的なのではなく、画期的な新薬開発という目標に向けて研究開発への投資、それを回収するためのグローバルマーケット開拓という、あくまでひとつの戦略です。グローバル化するということだけを目標にしてしまったら、なんでグローバル化したんだっけ?と砂漠の真ん中で途方に暮れることになってしまいます。だから、目標を持つということが何より大事なのです。

 

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【塾生】

ゴールの実行に向かって行く中で、一番のモチベーションは何ですか?

【平手さん】

自分自身が成長しているというモチベーションです。ある調査によると、会社を辞めた人のうち「自分が成長していない」という理由を挙げる人が45%もいたそうです。5年前と比べて成長してないと気づくと、今後も成長していけないのではないかと心配になり、ここにいてはいけないと思って辞める。反対に、自分に投資をして自分が成長し、3年前にできなかったことができるようになっていると実感できれば、ますます勉強する気になるし、より高いゴールを持つようになります。ゴールを決めるときはすぐ届くところや、ジャンプしても届かないところではダメで、ちょっと背伸びすると届くようなところに置くのがポイントです。去年より少しがんばれば届くようなゴールを設定することで、今年は新たな工夫をする。何かしないと届かないような目標を設定することで自分が成長するのです。

 

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<クロージングメッセージ>

目標を持てば人生が楽しくなる

 

「自分の人生を楽しく生きる」。これが何より大事です。仕事は義務でやるのではなく、自分からやるんだという思いでやっていきたいと思います。そのためには目標を持っていること。それが楽しさの実現につながるからです。もっともローリスクハイリターンが狙える自分への投資、そして1年にひとつ新しいことをやってみるというのは、私の経験からいうとすごく人脈を広げ、自分が考えもしなかったようなことに手を出すことにつながったので、とてもおもしろかったと思います。ぜひ、いろいろな人と話をして、幅を広げて、自分に合った目標、自分にあったやり方を見つけていただきたいと思います。

 

<編集後記>

目標を明確に持つこと。リーダーとしても個人の幸せを追求する上でも、すべてはそこから始まるのだという、非常にシンプルで力強いメッセージを頂いた。塾生の質問に真摯に答える一つひとつの言葉には、ブレがまったくない。「頼れるリーダー」としての強烈なイメージを受け取ったと思う。

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