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第17期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「観光先進国日本の進むべき道」

講師:伊達美和子
(森トラスト株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2017年6月22日

最近、訪日外国人観光客の増加がしばしば話題になる。日本を代表するディベロッパー森トラストの3代目社長である伊達さんも、「観光先進国日本」という目標に向かって事業を展開しているひとりだ。グローバルホテルの誘致、そして日本の良さも活かしたラグジュアリーホテルを増やしていくというビジネスを進める中で、走り続ける若きリーダーが実践しているリーダーシップとはどんなものなのだろうか。

 

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 信念とビジネスモデルが事業の両輪

 

ビジネスにおけるリーダーシップの重要なポイントとして、伊達さんが最初に挙げたのは信念だ。「事業をしていく上で、その社会的意義を自覚することは大事です。それがどんな価値や意味を持つのかという点に信念を持っていなければ、続けていけないからです」。一方で、信念だけで事業を継続していくことはできない。事業として持続していくには、生産性を上げることも考える必要がある。「それには信念だけでなく、バックボーンとしてしっかりしたビジネスモデルが存在しないと成立しません。信念とビジネスモデル、あるいは社会的意義と持続性というのは、事業を行っていく上での両輪になると考えています」。

 

自社の現在の得意分野を「良質な宿泊施設を作ること」と語る伊達さん。そこに至る流れを振り返ると、1970年代に二代目社長である父が始めたリゾート事業に遡る。企業が福利厚生用に使う保養所として契約してもらうという法人会員制ホテルだ。ホテル側と企業側にWin Winのビジネススキームを確立したが、バブル崩壊後に企業の福利厚生に余裕がなくなってきたことなどを受け、会社はホテル事業を捉え直そうという方向に向かう。伊達さんが入社したのはそんなときだった。

 

グローバルホテルのフランチャイズという選択

 

そこで考えたのはグローバルホテルを誘致することだった。ビッグバンによって外資系の金融機関が日本に進出を始める時期でもあり、ニューヨーク、ロンドンに対抗できるように東京をグローバル化する必要があると言われていた。しかし、当時の東京には外資系ホテルが3つほどしかなかった。香港やシンガポールなどアジアのライバル都市にはアメリカのホテルチェーンのほとんどが進出しているのに比べると、グローバル化は大きく遅れているという状況だった。「自分たちが東京という都市に貢献するためには、外資系のホテルを誘致すれば外に向けたPRができると考えたのです」。

 

 

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同時に注目したのは外国人客だ。以前のようにB to Bで国内の客を取ってくるのではなく、外国人を呼び込む必要があると考えた。そのためにもグローバルチェーンを誘致しようというのだ。「日本のホテルが持っている会員数がせいぜい10万、20万なのに比べ、ヒルトンは5700万人、マリオットなら8500万人とケタ違いです。このガリバーチャネルに対抗するよりは、活用した方が生産性は高いと判断しました」。その結果、2005年にヒルトンの最高峰ホテルブランドであるコンラッド東京を汐留に、さらにシャングリラホテルを丸の内オフィスの上に誘致した。「2000年から2010年にかけては、外資系ホテルの建物を建てていくプロセスを体験する中で、施設構成などさまざまなノウハウを学びました」。

 

その流れが一段落した後に考えたのは、フランチャイズ経営とコレクションブランドだった。「先方のリスクでやっている状態ではおもしろくないので、どうせなら自分たちでつくったものを自分たちの手で運営したいと思いました」。そこで先方のノウハウを習得する方法として、フランチャイズという形で営業許可を取得した。さらに、ブランド名も自由に選べるコレクションブランドという形で、マリオットグループとフランチャイズ契約を展開。現在は10のフランチャイズ経営を行いながら、グローバルホテルのチャネルやノウハウを活かしつつ、自分たちのスタイルを築き上げて確立していくことを目指している

 

ラグジュアリーホテルで富裕層を狙う

 

日本政府の目標は、2030年の訪日外国人が6000万人、旅行消費額が15兆円と言われている。「15兆円にするには今の商品単価を1.8倍か1.9倍ぐらいにする必要があります。15兆円は、日本の輸出産業にあてはめると自動車を越えて1位となる数字です。そし現在の数字で比べると、アメリカに次いで世界2位のインバウンド収入ということになります。個人的にはとても夢のある数字であり、ぜひ実現したいなと思います」。

 

 

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一方で、国別の五つ星ホテルの数はアメリカの762に対し、日本は28と大差がある。「観光収入と五つ星ホテルの数には大きな相関関係があるともいわれており、この目標値を達成するには富裕層マーケットが重要になってくると捉えています」。ひとりあたりの消費単価を上げるには、予算の多い人にたくさん来てもらう必要がある。ここ数年、日本のホテルの客室不足が叫ばれているが、既に発表されている計画では9割以上がバジェットホテルと呼ばれるリーズナブルな施設だ。「バジェットホテルももちろん必要ですが、それしか提供されない状況に私は危機感を感じています。日本にももっと上質な宿泊施設を増やしていく必要がある。そこで、ラグジュアリーホテルを日本各地につくっていきたいと考えています」。

 

伊達さんの考える富裕層向けラグジュアリーとは何か。「富裕層のニーズは、感動やストーリー性のある特別な経験をすること。その経験を経済価値に変える、つまりマーケット化するには、従来の旅の4要素と言われる気候、風土、文化、食に加えて、娯楽性、教育的要素、美的要素、脱日常という4つの要素をプラスして提唱していくことがカギになります。それができるホテルを作ろう。そんな試みをスタートさせていきます」。

 

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この10年間、五つ星以上のスーパーラグジュアリーといわれるホテルがアジアを中心に数多く登場している。大自然の中にありながらエアコンもトイレも完備したラグジュアリーなテントやパオなどでは、快適性は確保された上で自分たちの普段の暮らしにはまったくない経験ができる。「では日本で何が提供できるのか。それが今の私たちのテーマです。消費者は常に、伝統、文化というトラディショナルなもののおもしろさと、新しいもののおもしろさとの両方を求めています。それを組み合わせたビジネスを順番に展開していきたいです。同じことを繰り返すのではなく、潮目を見ながら将来を見越して次の布石を打っていきます」。

 

信念、意思、戦略と戦術、そして持続性

 

2017年現在で5つのホテル(850室)を開業し、2030年までにはさらにラグジュアリーホテルを10ぐらい計画しており、部屋数は約1000室になる予定だ。事業費にすると1000億円で、現在のホテル売上の約2倍となる。その大きな決断をリーダーとしていかに実行するのか。「さまざまなことを分析しながら一つひとつを積み上げて確信を持つ。未来のために必要なことなのか、自分がやるべきことなのかを問いながら、決断するようにしています」。ただし、景気の先行きは不透明であり、ラグジュアリーホテルになるほどリスクも大きい。「決断に不可欠なのは財務基盤です。会社を経営する立場としては、その基盤を作りながら新しいことをやっていくという繰り返しです。不動産は資金をいかに安定的に安いレートで調達できるかで勝負が決まります。幸い、現在の自己資本率は36.1%と非常に安定した状態となっています。我々非上場の会社は外から資金が入ってこない分、ベースは絶対に崩さないようにやっていかねばなりません」。

 

さらに、今グループ全体で時価表額1兆7000億円程度の不動産を所有しているが、その50%ぐらいは含み益となっている。つまり、かつていろいろな形で買ったものに、さまざまなアイディアをつぎ込んで商品化することで価値を上げ、次の投資につなげていくのだ。「そこを考えていくのが経営です。それができるビジネススキームを作る。でも同じことの繰り返しではなく、新たなところにどう参入して拡大していくかを常に考えることが必要なのです」。

 

これらのことを踏まえて伊達さんの考えるビジネスリーダーに求められる条件とは、以下の4つだ。まずはビジョン、信念をもっていること。お金を稼ぐだけではなく、社会に対して何を提供できるかという気持ちを常に持つということだ。2点目は強い意志。さまざまな意見があると分かっていても、重要だからやるという強い意志。「そのためには数字的な分析をしながら確信を持つという方法を私はとっていますが、感覚的にやるというのも不可能ではないと思います」。3つ目は戦略とそれに基づく戦術を描けること。「ビジネススキームを描ける能力がないとリーダーにはなれないと思います」。そして最後は収益、持続性を確保すること。「経営には安定性、持続性、成長性の3つが必要です。安定しながらも成長も持続もしなくてはいけないという矛盾の中で、価値を見出して突き進んでいく。それがビジネスリーダーに求められる条件だと思います」。

 

 

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<質疑応答>

【塾生】

ラグジュアリーホテルに注目するなど、既存にない価値を生み出すために、人に見えていないのを見るポイントとは何でしょう?

【伊達さん】

自分のビジネスに直接関係ないものを含めて、いろいろな物を見ることです。何か成功しているものがあったら、必ず「なんでだろう?」と思い、「なるほどこういうビジネススキームか」と。それをどこかの引き出しにしまっておきます。ひとつの判断をするときにも、幅広く調査をして、選択肢も本当は決まっているのにあえて広げてみたりする。そして、比較をしながらやっぱりこれだよねと時間をかけて納得すると、その後でぶれることがありません。そこで捨てられたものも、後になってつながったりするものです。いろいろな物を見て、目標としてやりたいことを持つなかで、「絶対これだ」と確信を持つためには、相当分析をしているつもりです。マーケットから見たらどの部分がニーズなのか。他の要素から見るともっと先にはこういうことが起こるのではないかと予測しながら、それにみあったものを見つけ出すということの繰り返しです。

【塾生】

メンターや、迷ったときに相談する人はいますか?

【伊達さん】

いろいろな人の良いところはスゴイなぁ、どうしてそうなるのかなぁとは思いますが、参考にする程度で、誰かを目標にするということはしません。多額の投資をするときなど自分で判断をしなくてはならないところは悩みますが、実績の数字などを見ながら、松竹梅のリストバランスを見て、最小限と最大限のところの中で「これだ!」という数字が見える瞬間があるという感じです。そういう意味では、合議はしません。オーナー企業独特の事情かもしれませんが、すべての責任は自分で取るのだから、合議で決めても意味がないと思っています。私が大学生のとき「どうやって事業判断をするのか」と父に聞いたとき、「ものごとは水晶の玉であって、七色に光る。それは見る角度、光の入り方で違う。答えはあるけれどない。そこでどの見方をしたいのかは、自ら見出ださなくてはいけない」と言われました。その繰り返しだと思っています。

 

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<クロージングメッセージ>

評論家ではなく、実行できる人に

 

私がビジネスをやるときには、自分がやりたいことに必要な環境をどう作っていくか考えてきました。環境は、待っているのではなく自分で整えていくのです。皆さんには、「ここがダメなのではないか」「こうした方がいい」という具体性のないことを言うだけでなく、何をどうすればいいのか、解決策を考えられる人になって欲しいと思います。いくら何を言っても、やらなければ同じ。「実行する人」にならないとリーダーにはなれないのです。評論家ではなく、実行する人になってください。

 

<編集後記>

ビジネスリーダーとして必要なものとして繰り返し「信念」という言葉が出てきたが、話の随所で自分の信じる道をひるむことなく突き進んでいく意思の強さを感じた。常に先を見据えて、自らの思いを実現するために自分の手で環境をも整えて成功を目指す。まさに「実行する人」としてのリーダー像を示してくれたのではないだろうか。

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    ベーシック・ナレッジ
    「活字全盛時代の今、手書きの書が持つ意味とは」

    田坂州代
    (書家)

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