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第17期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「不確実な時代におけるリーダーシップ」

講師:鈴木健一郎
(鈴与株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2017年5月25日

グローバル化が進む現代、刻々と変化する世界情勢の影響と無縁ではいられない。先のことが見通せないそんな時代に経営者は何をすべきなのか。オーナー社長として創業200年を越える会社を率いる鈴木さんを迎え、不確実な時代におけるリーダーシップについて考える。

 

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時代の変化に応じた自己改革が歴史をつくる

鈴木さんが社長を務める鈴与は、1801年に廻船問屋として創業した長寿企業だ。時代の変化に伴い事業を拡大し、現在はコアである物流事業に加え、商社、建設、食品、情報、そして最近始めた航空事業、エスパルスの経営など地域貢献事業の7事業を営み、約140ものグループ会社となっている。「江戸時代から続く企業とはすごいですねとよく言われますが、私自身は歴史の長さ自体にはそれほど価値があるとは思っていません。それよりも、明治維新や太平洋戦争など、幾多の歴史的困難を自己改革によって乗り越えてきた、先輩たちのその積み重ねに意味があるのだと考えています」。

 

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鈴与の長い歴史の中で受け継がれてきたのは、「共生(ともいき)」という精神だ。この考え方には、「社会との共生」「お客様・取引先との共生」「社員同士、グループ各社の共生」という3つの柱がある。「まずは本業を通じて社会貢献をすること、そして取引先と一体になってお客様に本当に喜んでいただけるサービスを提供すること、最後は社員同士が切磋琢磨して成長・自立していくということです」。共通しているのは、個々がしっかりと自立して共に生きていこうという考え方であり、これが鈴与の経営のよりどころとなっている。これをしっかりと胸に刻み、しかしそれ以外の部分は、環境の変化に応じて聖域なく全てを変えていくことこそが、長い歴史から学び、脈々と築いていく鈴与の精神なのだという。

 

リーマンショックから学んだこと

鈴木さん自身が世の中の不確実性を体感したのは、日本郵船でばら積み船のオペレーションに携わっていた時代に体験した2008年のリーマンショックのときだった。2002年頃から海運バブルと呼ばれる時代が続いたが、2008年5月のピークを経て、4カ月後には一気に値動きが200分の1に下落するという事態を目の当たりにした。そんな中、リアルタイムのレートが反映されるスポット取引は大打撃を受けた一方で、長期契約を結んでいる取引はそのリスクを逃れることができた。通常の利幅は少なくても、相手が潰れない限り安定的に利益を上げることのできる長期契約の価値を実感したことは、不確実な時代を生き抜く方法として、その後の経営観にも大きな影響を与えることになった。

 

 

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その半年後に地元の静岡に戻り入社した鈴与にも、リーマンショックによる爪痕は深く残っていた。静岡という土地柄もあり、当時の鈴与の顧客は二輪四輪関連の企業に偏っており、その荷動きが止まると鈴与の売上も一気に減少してしまう。一社、あるいはひとつの業界に依存することは非常にリスクが高いことを痛感した。では、景気変動の影響を受けない安定性のある商品とは何かと見渡すと、グループの中でも食品事業や医療機器の荷動きはダメージからの回復も早かった。「景気が悪くても、人はものを食べるし、治療も必要とされます。こういう安定収益源になり得るものの取引をもっと増やしていった方がいい。そのためには、グループ全体のポートフォリオの中においても、もう少し食品事業を強くすることが持続的成長につながるのではないかと感じました」。

 

目の前のファクトを大切にし、手の届く実を徹底的に刈り取る

その後、物流部門のトップや食品事業の社長を歴任し、持続的成長の状態に戻すことに成功。「そのときに私がやったのは、Low-Hanging Fruitsを刈り取るということ。つまり、高い木の上の方になっている実をよじ登って取るような難しいことはやらず、目の前の手の届くところにあるフルーツを徹底的に刈り取ろうというのです」。そのときのLow-  Hanging Fruitsのひとつが、徹底的な企業研究、顧客研究だった。「社員と話していて感じたのは、我々はお客様のことを全く分かっていなかったということです。Aという荷主さんのところではどんな工場でどんな原料を仕入れどんなものをどのぐらい作って、どこに納めているのか。そして我々のプロダクトやサービスを買ってもらえない理由は何か。そこに明確な答えを得るためには、お客様の現場に降りて徹底的に<ファクト>を集める必要があると思ったのです」。目の前の<ファクト>を大切にする。それを愚直に続けることにこそ、次の商売のヒントがある。その思いで行動した結果、新たな顧客開拓につながっていったという。

 

 

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徹底した企業研究を一社一社繰り返していくと、一定の勝ちパターンが見えてくる。そこで、それをサービスメニュー化して水平展開することを考えた。「ビジネスモデル事業」と呼ばれているその手法は、いわばレディメイド型だ。「一社一社ヒアリングを重ねなくてはいけないテーラーメイド型は時間がかかりますが、このビジネスモデル営業は非常にスピード感があり、即効性があるというのがメリットです」。

 

これらの試みを進める中でこだわってきたのは、ファクトに基づき論理的思考のプロセスを大切にするということだ。「思考プロセスを可視化すれば改めて気づくことがたくさんあります。きちんと整理するのは面倒だし時間もかかるけれども、地道にやることが最終的には近道になるという思いでやっています」。その思いを実現するために、プロの研修会社に相談してオリジナルの研修プログラムを作った。「私を含めて社員全員がそれを受けることで、考えるという習慣を作ると共に、考える型をみんなにしっかり身に付け、その上で仕事で使い倒すことを徹底しています」。“社員全員で”ということにこだわったのは、  ロジカルシンキングを社内の共通言語にしたいという思いがあったから。「自分は研修を受けてないから知らないという逃げ道を作りたくなかったのです。ロジカルシンキングを社内の共通言語化し、さらには我が社のカルチャーにするということに、今取り組んでいる最中です」。

 

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多様性、安定性、優位性で不確実性に対処する

1年半前に鈴与の社長に就任した後、社員とディスカッションしながら2020年に向けたグループ全体の中長期計画をまとめた。「リーマンショックと同じようなことを経験してもビクともしない会社にしたい。そのためには、ここで不確実性を整理する必要がありました」。不確実性の要因として、ボラティリティ(volatility=資産価格の変動性)や地政学的リスクと共に注目しているのが、現代社会ならではの変化の速さと大きさだ。「世界中の不特定な人たちと瞬時にコミュニケーションを取ることが可能になる中で、変化のスピードも速くなり、同時にビッグデータやAIなどテクノロジーの進展により社会全体が大きく変わろうとしています。その結果、今まで通用していたビジネスモデルがいきなり陳腐化してしまったり、壊れてしまったりするリスクがあると感じています」。

 

それらの不確実性にどう対処していくのか。その答えとして鈴木さんが考えるのは、多様性、安定

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性、優位性の3つを育むことだ。「どこに地政学リスクが発生するか分からないので、いろいろな場所で商売をする地理的な多様性だけでなく、取引先や事業の多様化という形でのリスク分散も必要です。2つ目は、景気変動の小さい、安定収益源を地道に積み上げて安定性を確保すること。3つ目の優位性は、どんな時代、環境においても必要とされる会社となるようなサービス、プロダクトを確立していこうということです」。その実行段階においては、むずかしいことではなく基本的なこと、手の届くLow-Hanging Fruitsとは何かを明確にして徹底的にやることが大事。

 

 

そして、最後に大事なことはブレない軸を持つこと。どんな時代においても不変的にやらなければならないことはある。また変化対応する中で、道に迷った時に立ち返る原点も必要。それがブレない軸であり、中長期的には2020年に向けた中長期計画であり、長期的な視点での軸は、脈々と受け継がれてきた「共生」の精神だ。「いつも共生の精神に照らし合わせる。そういうブレない軸を持つことが、不確実な時代を生きるためには必要なのだと考えています」。

 

<質疑応答>

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【塾生】

自分のリーダーシップをどう発展させていこうと考えていますか?

【鈴木さん】

リーダーシップとは人それぞれであって、環境変化によっても変わっていくべきものだと思います。今は自らグイグイひっぱっていくようなリーダーシップをやっているが、理想形はボトムアップ。もっとみんなが自分で考えて、真正面からぶつかり合うような、下からガンガン突き上げてもらえるような組織が理想です。自然とそれができるような人材を育成していきたいし、関係性をつくっていきたいです。

 

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【塾生】

社内における、人、物、カネの優先順位の付け方はどう決めていますか?

【鈴木さん】

金額ベースではなく思いの大きさという意味では、人の育成への投資は大事にしています。たとえば全社員が何かを毎年学ぶという制度を作りましたが、倉庫を作れば20億30億円かかることを考えると、コストはいくらもかかりません。それでも、人への投資こそ一番リターンが大きいと私は考えています。人間には無限大の可能性があるからです。ゼロかもしれないけれど場合によってはものすごく大きなリターンになる。ロジカルシンキングにしても、それをやったことで大きく社員が成長して組織が変わるというのを目の当たりにしました。その人たちがたくさんの売上、利益をもたらしてくれるというクールな視点もありますが、ひとり一人が成長してボトムアップするような集団になっていないと会社の成長もおぼつかないし、おもしろくないとも思っています。

 

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【塾生】

リーダーは孤独で、最後の意思決定者です。解決するための相談相手がいなくなる場面でどうそれを乗り越えるのですか?

【鈴木さん】

おっしゃる通り最後は孤独だとは感じますが、あまりそこで悩んだことはありません。私は、経営、ビジネスの一番おもしろいところは、基本何度でもやり直せるという点にあると感じています。だから、真剣に考えるけれども、あまり失敗を恐れてないので、そこまで追い詰められたことはないですね。失敗したらまたやり直して取り返してやろうという思いでいます。

 

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【塾生】

罰や決まりではなく、モチベーションを与えて人を動かすにはどうしたらいいでしょうか?

【鈴木さん】

仕事の楽しみ、やりがいを実感してもらうことですね。仕事が楽しいと思えば、どんどんポジティブになるというのが私の考えです。そのためには、小さくてもいいからいろいろな成功体験をしてもらえるような仕掛けをつくること。失敗から学ぶことも大事だが、成功するという経験はモチベーションという意味ではすごく大事だとこの8年間で感じています。

 

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<クロージングメッセージ>

1日1mmでもいい、継続的に前に進む

私が8年間で痛感したことは、ひとつの事をやり抜くのはものすごく大変で、簡単にはできないし時間がかかるということです。みなさんも将来においていろいろな立場でリーダーとなるときに、困難なこと、うまくいかないことはたくさんあるでしょうが、くじけずあきらめず、粘り強くやり続けてほしいと思います。

 

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今日のこの場には、大変意欲のあるみなさんが集まっていると思います。日本を、特に地方をもう1回元気にする、明るい未来をつくるためには、みなさんのような人が絶対に必要です。今持っている、「もっと向上したい」という気持ちや、「成し遂げたい」という志を忘れずに、継続してがんばってください。一瞬一瞬ではなくて、それを継続的にやることがすごく大事で、昨日より今日、今日より明日、1mmでも前進するということ。1日100m前進してやめてしまうことよりも、1mm、1cmでもいいからずっと継続的に前に進むことの方が、私はすごく大事だと思っています。ぜひ少しでも良い日本、特にもう一回地方を活性化するというところを、いつかみなさんといっしょにやっていければと思います。

 

<編集後記>

「地道に」「愚直に」という言葉がたびたび出てきたが、自らの体験から学んだことをコツコツと積み上げながら生み出されたノウハウには説得力があった。まさに地に足の着いた人間味あふれるリーダー像を見せていただき、実践的、かつ現実的な示唆に富むセッションだったと思う。

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次回予告

  • 第17期コア・プログラム
    ベーシック・ナレッジ
    「活字全盛時代の今、手書きの書が持つ意味とは」

    田坂州代
    (書家)

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「トランスフォーメーション リーダーシップ」

    平手晴彦
    (武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー)

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