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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第16期コア・プログラム
ベーシック・ナレッジ
「経営者の心と体」

講師:栗原志功
(株式会社あなたの幸せが私の幸せ 代表取締役)
インタビュアー:前野 隆司(慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2016年12月3日

路上の携帯電話販売から始めて約20年で、今や年商130億円を超える会社を営む栗原さん。その社名の略称は「株式会社あなたの幸せが私の幸せ」だが、正式名称は137文字にもなる長大なものだ。社名だけに留まらない、奇をてらったかに見える行動の裏には、どんな思いが込められているのだろうか。

 

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前進を阻む抵抗勢力は、自分自身の中にある

 

路上にレジャーシートを広げて始めた栗原さんのビジネスは、在庫資金もない究極のゼロスタートだった。「最初から完璧なビジネスプランなど考えて、あれこれとお金のかかることが分かったら心が萎えてしまいます。だったら、まずやれるところから始めて、お金が貯まったらその都度考えるやり方の方が、オリジナリティも生まれると思ったんです。教科書通りのプランでは、同じようなことを考える多くの相手との泥沼の闘いになりがち。大手がやらないようなところを狙って、自分らしくやりたかったのです」。

 

 

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自らを「ぐうたらで、面倒くさがりで、楽をしたい人間」と称する栗原さん。そんな自分を認めた上で、じゃあどうするか。「大事なのは、<~からの?>というところをどうするか。しょうがないよねとダメな自分をそのままにしておいたら何も変わりません」。自分の欠点を指摘されたとき、「自分の何が分かるのか」と逆ギレする人、「自分はこういう人間だから」と開き直る人、「分かっちゃいるけどね」と言い訳する人。「結局、自分の悪い所から前に進めない障害や抵抗勢力は、自分の中にあるのです。たまたま目の前に障害があると<だから今はやるべきではない>などと諦めてしまう。そうやって何かに乗っかってしまっているだけで、根本的な理由は自分の中にある弱さなのだと思います」。大人になると自分を叱ってくれる人は少なくなってくる。まして社長ともなれば誰も叱ってはくれない。「自分をどうマネージメントするかは、非常に重要なことです」。

 

 

熱い思いのまま突っ走れ。帳尻は後で合わせればいい

 

元は「もしもん株式会社」だった社名を現在のものに変更したのは、2014年のことだ。社内で唱和していた経営理念を世の中に声を大にして伝えたいと思ったからだ。そこで、従来の経営理念をゼロベースで練り直して完成したのが、以下の137文字だ。

 

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株式会社あなたの幸せが私の幸せ世の為人の為人類幸福繋がり創造即ち我らの使命なり今まさに変革の時ここに熱き魂と愛と情鉄の勇気と利他の精神を持つ者が結集せり日々感謝喜び笑顔繋がりを確かな一歩とし地球の永続を約束する公益の志溢れる我らの足跡に歴史の花が咲くいざゆかん浪漫輝く航海へ

 

この社名には、栗原さん自身の生き様がメッセージとして込められている。「会社と社長の生き様はイコールであって、絶対に分けられないと思っています。自分の生き方はこうなのだと社名にしてしまった以上、ぐうたらな自分でももう後には引けない。世間様が監視の目を向けてくれることで、自分のモチベーションにもなる。内発的に盛り上がるのが難しければ、そうやって外部の目を利用していく方法もあります」。

 

この社名は深夜のファミレスでたった一人で考え、その場でスタッフに送った。「大きな変更をするときは、思いつきのまま実行することが多いです。なぜなら、昼間机上で考えたプランは非常につまらないから。冷静に考えてしまうと、他人の目や実現性を気にして最初の思いが歪んで、結局は<実行しやすい>プランになってしまう。それはつまり成功確率を下げることになるので、最初の熱い思いのままガーッと突っ走って、帳尻は後で合わせればいい。それが私のやり方です」。

 

 

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栗原さんはこれを<深夜のラブレター作戦>と呼ぶ。夜中にドキドキしながら書いた歯の浮くようなセリフは、朝起きて見返すと封印してしまいたくなる。でも、書いたときにそう感じたのも自分の本心。だったらその勢いのままポストに投函してしまおうというのだ。「朝になって、自分の中の抵抗勢力が起きてくる前に事を進めてしまうのです」。

 

失敗が存在しない「勝ち確定マン」は最強

 

このような考え方に対して、「思いつきで行動して失敗したらどうするのか?」という反論もある。しかし、それこそが成功確率を下げる要因なのだと栗原さんは考えている。「そもそも失敗とは何なのか。日本のロケット開発の父と呼ばれる糸川博士は、度重なる打ち上げ失敗に対しても<失敗ではなく、この方法ではうまくいかないというのが分かった成果である>と語ったそうです。私も、世の中に失敗ということはないのだと思っています」。

 

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そう考えれば迷いがなくなる。「どっちへ行っても失敗しない私は<勝ち確定マン>。これは最強です。うまくいってもいかなくても、怒られても、損しても、全部が勝ちなのですから」。迷わないことで、ライバルよりもすばやいスタートダッシュができる。相手が迷い、時間をかけてプランを練ったり、市場調査をしたりしている間に、先に行った者が利益を取れる。だから成功確率が高まるという理論だ。

 

目標をモチベーションにせず、経過を楽しむ

 

栗原さんの会社では、5年前から売上げ目標を作るのをやめた。するとそれ以後、むしろ売上は伸びているのだという。「以前はやらされている感があったのが、今では自発的にスイッチが切り替わり、新規事業もどんどん生まれてきました」。目標を設定しない理由は、プロセスを重視しているからだ。「今どういう道筋を通って何をやっているのか。そこさえ合っていれば、たとえすぐに結果は出なくても、絶対にいつかは結果が出ると信じているからです。逆に<結果がすべてだ>と言って経過を見ずにいると、偶然ラッキーで得た成果を実力と勘違いしてしまうかもしれません」。

 

プロセスの重要性を伝えるために、栗原さんの会社では毎年富士登山を行っている。それは、<辛い険しい道を一生懸命歩けば、最後はすばらしい景色が待っている>ということを学ぶためではない。「人生においては、がんばっても報われないことはたくさんあります。だから、頂上の景色を目的にするのではなく、そこまでの過程そのものを楽しんでほしい。頂上の景色だけをモチベーションにしていたら、山頂で晴れなかったときに失望してしまうけれど、そうなってほしくない。登る時間そのものを楽しんでいれば、景色が見えなくてもガッカリしないし、もし見えたらプラスαのラッキーだと思える。だから、そのプロセスをいかに楽しむか。それはちょっとした考え方やものの見方で変えられるはずなのです」。

 

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売上目標のみならず、歩合制を導入しないのも、まさに同じ発想だ。数字という偽物の達成感に惑わされることなく、経営理念に掲げている<世の中の人みんなを幸せにする>ということの達成に向かっていってほしい。そんな思いを抱いているからだ。

 

必死に楽しみ、マジメにバカをする

 

「私が提案したいのは、<ヘラヘラ必死に生きよう><マジメにバカをやろう>ということ。世の中ではマジメな人、必死で生きている人ばかりがちやほやされるけれど、それが本当に正しいのでしょうか? ヘラヘラしながらも、楽しみながらでも、自分を出し切ってフルスイングすればいい。相反する言葉をくっつけているようだけれども、ちょっと見方を変えたり、少しスパイスを加えたりするだけで、<楽しく>と<一生懸命>は両立できるはずです」。

 

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セルフマネージメントを行う上で、栗原さんは「怒りは再生エネルギーである」と考えている。巷では怒りをコントロールしたり抑えたりするにはどうするか?という視点で語られることが多いが、それはもったいないと感じている。「そのとき感じた怒りは真実です。自分のエゴかもしれないけれど感情というのは本物。ならば、それを否定するのではなく、どうやってそれを自分の動力に切り替えるかを考えればいい。見返してやろう!と怒りをバネにするとか、ライバルの活躍に奮起するとかして、怒りをパワーに変える。私は小さい怒りでも、それを増殖してどんな力に変えていこうかと考えています」。

 

プロセスを重視するためには、そこを如何に楽しめるか。「必死に楽しんで、マジメにバカをする。それを両立することは絶対に必要だと思っています。みなさんがこれから社会の中で、自分自身のマネージメントをしていく上で、自分のダメな部分を<~からの?>の発想でどうするのか。自分で自分の背中を押して欲しいと思います」。

 

<質疑応答>

【塾生】

「勝ち確定マン」というのは、何に対しての勝ちなんでしょうか?逆に、どういうことが負けなのだと思いますか?

【栗原さん】

勝つ相手は結局自分ですね。後悔して嫌な気持ちを引きずってしまった時点で負け。自分を出し切れてないとか、魂はこっちなのに楽な方を選んでしまったとか。自己嫌悪とかマイナスなニュアンスの感情になったときは、全部負けだと思っています。そして、負けじゃなければ勝ち。嫌な気分になってないということはうまくいっていると解釈する。勝ち負けの判断は自分に有利に甘くしていいんです。

 

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【塾生】

発想力も思い切りもなくて、一歩を踏み出せない人間はどうしたらいいでしょうか?

【栗原さん】

誰かに乗っかってしまえばいいんです。「本当はやりたくないんだけどね」「頼まれたからしょうがない」など、最初は言い訳をしながらでもだんだんやってみると、自分自身のハードルを下げることができますよ。

 

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【塾生】

栗原さんの超ポジティブシンキングは、何か心の中に塞ぎたい感情などがあってその裏返しなんでしょうか?

【栗原さん】

何もない状態から無理矢理スタートしているので、いかに新しいこと、人のやってないことをやるかという差別化が必要でした。でも、普通に考えてもろくなアイディアが浮かばない。人が思いつかないことをやるには、自分で自分をビックリさせないとダメだと思って、自分の行動を変えました。人と違う経験をすることで、まったく違う発想が沸いてくるのではないかと。そうやっているうちにどんどんエスカレートしちゃったわけですが、強烈な個性はアピールにもなります。「あいつだったら何か面白いことをやってくれるのではないか」と、大手ではなくあえてうちの会社に声を掛けてもらえることもあります。その積み重ねで自分が変わってきたのかもしれません。

 

【塾生】

習慣を変えたことで性格は変わりましたか?それは幸せのメカニズムとどう関係すると思いますか?

【栗原さん】

人の性格は変わらないけれど進化はすると思います。恥ずかしさがなくなったぐらいでは変わったうちには入らなくて、まだ自分の範疇の中。せいぜい枠が広がっただけ。バスケットボールのピポットのように、軸はそのままで可動域が広がるという感じでしょうか。それが外から見ると変わったように見えるのかもしれないけれど、元々あるものはそう簡単には変わらないと思います。

 

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【塾生】

ネガティブになっている人、マイナスに苦しんでいる人は、どうやったらプラスの側に持ってくることができるでしょうか?

【栗原さん】

たとえば「倒産してみた」という「まとめ記事」を書くというようなアプローチはどうでしょうか。リアルにあったことを事細かく書き留めて、失敗した原因をまじめに分析してみるのです。なぜそうなったのか、仕方ない部分もあるし、ここでこうすればよかった部分もあるなどと「見える化」することで、楽になります。心を閉ざしている状態では、頭の中が混乱して全部ネガティブになってしまうけれど、それを人に読んでもらうために理路整然と書くと、そこからだんだん切り替わることができるのではないでしょうか。

 

<クロージングメッセージ>

人生いつでもどこでもフルスイング

 

いつでも、どんなところでも、相手が誰でも、とにかく自分が持てるものは出し惜しみせずに全部出して、フルスイングしてほしい。自分の中の全部を出し切ると、何かを入れよう、新しい体験をしようという気持ちになります。しかし、まだ何か残っているとなると、自分からあえて勉強しに行くモチベーションは落ちてしまいます。もっとスキルがアップしたら、役職に就いたら、もう少し経験を積んでからなど思って躊躇しがちだけれど、今の自分には今持っているものしかないのだから、そこで勝負をするしかない。それをフルで出し切って、楽しく戦って、その結果がいろいろな意味での幸せや成功につながっていくのだと思います。

 

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<編集後記>

この日も全身サンタ姿で現れた栗原さん。くだけた口調で笑わせながら、随所に深いメッセージが発せられる。まさに「ヘラヘラと必死」を体現する姿は強烈な印象。「楽しい」あるいは「幸福」とはそもそも何なのか?ということを、根底から問われているようなとても刺激的なセッションだった。

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