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第16期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「一歩踏み出すために~基軸力と構想力~」

講師:朝比奈一郎
(青山社中株式会社 代表取締役/筆頭代表CEO)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2016年12月3日

リーダーとは「指導」ではなく「始動」する人である。それが朝比奈さんの持論だ。日本の社会をよくするために役立ちたいとの思いで、経済産業省の官僚という安定した地位を自ら投げ打ち、政策や人材づくりに奔走する日々。一歩踏み出して「始動」するには、どんなことが必要なのだろうか。

 

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「無理なことを当たり前にする」のがリーダ-である


学生時代、学級委員や生徒会長、キャプテンなどの経験はなく、いわゆるリーダータイプではなかったと振り返る朝比奈さん。「ポジションとしてのリーダーと無縁だっただけでなく、本質的にもリーダー的な生き方ではなかったように思います。中学受験から高校受験、大学受験、そして就職と、常に目標に引きずられる人生で、何かを達成するためにリーダーシップを発揮しようなどとは、考えたこともありませんでした」。

 

 

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そんな朝比奈さんが最初にリーダーシップを意識したのは、大学卒業後に入省した経産省(当時の通産省)に入ってからのことだ。「経産省の役人というのは、野獣系というか、アクティブに動く人が多いということを非常に強く感じました」。たとえば、ロシアから日本企業の石油やガスの権益を取りに行くことをサポートする際、ライバルだった中国に決まりかけている話を、ひっくり返して日本に持ってきてしまう。「絶対無理だと思われることも終わってしまえば当たり前になる。それを見て、一見無理に見えることを当たり前にするのがリーダーなのだと捉えるようになりました」。

 

 

リーダーシップへの意識においてもうひとつのきっかけになったのが、経産省時代に体験したハーバードケネディスクールへの留学だ。そこで学んだのは、リーダーシップは生まれつきの能力や地位とは関係ないということだった。公民権運動の指導者として知られたキング牧師も、最初から「××会長」などというポジションがあったわけではなく、ひとりの牧師にすぎなかった。インド独立の父となったガンジーも、最初は一介の弁護士だった。いずれも、最初は少人数での歩み出しだが、気がつけば仲間が増えているイメージだ。「自分はリーダーとは関係ないと思い込んでいた私でしたが、ハーバードに行ったことで、リーダーにとって何よりも大事なのは<想い>であるということを学びました」。

 

霞ヶ関を変える、日本を良くする


ハーバードでの体験で、<リーダーシップを発揮するような人生を歩いて行きたい>という想いを抱いた朝比奈さんは、さっそく行動を開始する。そのひとつが、<新しい霞ヶ関をつくる若手の会>を立ち上げたことだ。

 

「当時、霞ヶ関という世界は成績の上がらない受験生のようなものだと思いました。優秀な人材が集まり、毎日深夜までがんばって働いている割には、財政、景気、少子高齢化、その他の課題に対して成果が上がらない。受験生だったら勉強時間を増やすか勉強方法を変えるかという選択肢がありますが、官僚はこれ以上働いたら倒れてしまいます。だったら、政策の作り方を変えるべきだと考えたのです」。

 

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朝比奈さんが代表に、環境省の同期が副代表となり、省庁の垣根を越えて集まったメンバーは最終的に21人となった。単に批判するだけではなく、どう変えたらいいのかを研究して霞ヶ関の問題点を洗い出し、目指すべき国家像や具体的な改革案をまとめて政権に提言した。この行動は物議も醸したが、小泉政権や第一次安倍政権において、その想いの一部は実現を果たす。立ち上がったのは朝比奈さんが30歳の時だ。

 

こうした活動で組織内でのリーダーシップを発揮した後、2010年には経産省を退職し、今度はアントレプレナーとしてリーダーシップを発揮することになる。「霞ヶ関を良くすることも大事だけれど、そもそも僕たちが官僚になったのは、日本という国、社会を良くしたいと思ったからです。だから、その想いをもっとダイレクトに発揮できる仕事をやった方がいいのではないかと考えました」。そこで、当時の仲間と「青山社中」という会社を設立。現在は、日本を良くするための人材育成や、政策作り、地方自治体やNPOなどのコンサルティングを手がけている。


正しいと思うことに、始めの一歩を踏み出す力


これらの体験を踏まえ、朝比奈さんが考えるリーダーシップとは何か。「数学の定義と違って正解はありません。みんながそれぞれ自分なりのリーダーシップを考えることが大事なのであって、TPOV(Teachable Point of View)、つまり自分の学びや体験から何か人に教えられるような見解を持つことが、リーダーシップ論の基本なのだと思います」。日本ではリーダーというと「みんなが付いて行きたいと思える人」と捉えられることも多い。「しかし、小泉総理が変人と言われたのは有名ですし、スティーブ・ジョブスもある意味では嫌な人と言われていました。両者の例からも分かるように、人が付いて行きたいと思うかどうかよりも、当たり前ではないこと、無理なことを当たり前にすることこそが、リーダーだといえるのではないでしょうか」。

 

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日本では、ときにリーダーとマネージャーの違いが曖昧に捉えられている傾向があるとも指摘する。「英語の語感では両者は真逆のものです。リーダーとは何かをつくり出す人、パーソナルに人に働きかけ、問題を発見し、変革に対処していく人。一方のマネージャーは、ポジショナルに働きかけ、分析やコントロールをする人です」。両者の違いは、” Management is doing things right, leadership is doing the right things.” ということ。すなわち、マネージャーとは物事が円滑に行くようにする運営者であるのに対し、リーダーは自らが正しいと思うことをする人。したがって、リーダーはそれを成し遂げるためには死んでもいいというような軸を持つことが必要なのだという。

 

そして、リーダーとは「始める」「動く」人でなくてはならない。リーダーのことを日本語では指導者と書くことが多いが、「指導」ではなく「始動」と書く方がふさわしいと朝比奈さんは考えている。「人が付いて行きたいと思えるかどうかよりも、その一歩を踏み出して始動することができる人というのが、私のリーダー像です」。

 

基軸力は伝記から、構想力は幅広い学びから


自らの軸を持ち、始動力を備えた人。そんなリーダーになるためのカギとなる要素は、構想力と基軸力だと朝比奈さんは考えている。「基軸を持つためには伝記を読むことをお薦めします。その人物に感情移入しながら、その人生を貫く軸はなんだったのかを、自分なりに解釈してみるのです」。

 

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もうひとつの構想力とは、自分がこれから何をしたいのかを絵に描いて示すことだ。「何をやりたいのか自分でも何も分からなければ動き出すことはできません。はっきりではなくてもいいから、ぼんやりと描ける力が必要なのです」。構想力が大事とはいっても、構想ばかりが膨らんで構想倒れになってしまうこともある。そうならないためには、「現場×1.2倍、1.5倍ぐらいの構想力」を生み出す練習を重ねておくことだ。「これを続けていけば、現場の2倍3倍という構想力が必要な大きな局面が訪れたとき、人生をかけて勝負ができる。大勝負をいきなりやるのは無理なので、それをいかに意識して訓練を積んでおくかが重要なのです」。

 

構想力で重要なのは、異なるものをつなげることだという。「馬車を何台つなげても電車にはなりません。異質なものをどうつなげられるか。そのためには、一見無駄に思えるようなことも含めていろいろなものに触れたり感じたりすること。そうした積み重ねによって、自分が持っている基軸に、さまざまな異なるものを融合させていくことができるようになります」。理性やサイエンスでさまざまなものを分析することは大事だが、そこにいかにアート的なエッセンスも加えていけるか。「A案とB案、それぞれの長所短所を判断することは理性でできても、ではどちらを選ぶのかという決断をする能力はロジックだけでは学べないのです。そのためには幅広くものを学んでいく必要があると思います」。

 

<質疑応答>

 

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【塾生】

自分の信念を貫く姿勢は必要だと思いますが、リーダーが自分の考えを押し通してしまってもよいものでしょうか?

【朝比奈さん】

確かに、リーダーシップというのはとても危険でもあり、後世からみたら本当にそれでよかったのかということもあります。極端な例で言えば、ヒトラーだって彼なりに良かれと思ってやったのでしょう。自分の信念とはあくまでも相対的なものであって、それは他人から見たら間違っているかもしれない。物事をよく考える人ほど相対的に見ることができるけれども、相対化すればするほど動けなくなります。だから、それを分かっていてもなおかつ突き進むのがリーダーシップだと思います。自分の考えをどこまで信じられるかということではないでしょうか。

 

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【塾生】

ご自身の基軸は何ですか?

【朝比奈さん】

国や社会が少しでも良くなるように、変革に向けてアクションしていくということです。具体的には、青山社中という会社でいかに人材を育成するか、地方をどう活性化していくか。あるいは国の政策をどうするか、日本と世界をどうつなげていくか。いずれにしろ、「少しでも社会を良くするために」ということを意識しています。

 

【塾生】

構想力を養うために日々意識していることはありますか?

【朝比奈さん】

忙しくて実践できていない部分もありますが、意識しているのは「万巻の書を読む、千里の旅をする、百人の仲間と議論する」という3点です。万巻の書というのは、書物に限らず耳学問でもいいから、できるかぎりいろいろとインプットすること。千里の旅というのは、さまざまな違う環境に行くと自分の内面を意識しできるので、それによってインプットしたものを自分の考えとしてまとめ、言葉にするということです。そして、百人の友というのは、自分の考えをいろいろな人にぶつけてみて、そこから返ってくる反応から学ぶということです。

 

 

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【塾生】

 

最初の一歩を踏み出すための、具体的な方法を教えて下さい。

【朝比奈さん】

アプローチは2通りあります。ひとつは、これをやったら面白いよねというワクワクアプローチ。もう一つは真逆で、ちょっとおかしいんじゃないかと違和感を抱くことです。ワクワクアプローチができれば楽しいのですが、それができるのは一部の天才だけです。凡人が変革に向けてアクションをするなら、違和感から育てることを考えるといいと思います。コツは仲間を見つけること。たとえば、「満員電車はおかしい」と一人で叫んでも変な人だと思われるだけです。でも、仲間を作ってその場に5人ぐらいサクラを仕込んでおき、それぞれ「おかしい」と反応してもらえば、他の人も「そうだよね、おかしいよね」となるかもしれない。仲間を作るためには、自分がまずメッセージを発信すること。あとはタイミングですね。見知らぬ人がいきなり言ってもダメなので、なんとなくあいつは信じられる奴だというように、信用を蓄積しておくことも大事です。

 

【塾生】

リーダーになりたい人が気をつけるべきことは、どんなことでしょうか。

【朝比奈さん】

リーダーには自然発生的に生まれるリーダーと、選挙などで選ばれる人、任命される人などの違いがありますが、どちらかといえばポジションに関係なく、「こういう思いでやっていきませんか?」という構想力、ビジョン力でリーダーになっていく人になって欲しいと思います。みなさんは少し良い子過ぎるかもしれません。そういうタイプが必要な時代もありますが、この激動の時代には良い子でいるよりも、地位とは関係なく、いかに自分の基軸を持ったリーダーになれるかということが大事だと思います。

 

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<クロージングメッセージ>

今日みなさんに強調したいのは、「自分の信念は相対的なものかもしれないけれど、それでも始動力を持って突き抜けるんだ!」という思いでやって欲しいということです。それには、ひとりでは難しいので仲間が必要です。幕末に明治維新を起こした人たちは江戸の道場に集まって日々いろいろ議論を重ねていました。当時「処士横議」という言葉が流行ったように、身分や出身などバックグラウンドの違う人たちが集まって語り合い、ときには斬り合いに近いことをしていた。そんなダイナミズムが世の中を変えていったのです。今、まさにここには処士が集まっているのですから、真剣に議論をしてもらって、処士横議で何かをつくり出してほしいと思います。

 

<編集後記>

リーダーとは人を導くのではなく、自ら思いを持って動き出す人。官僚という安住の地から起業家としての荒波に乗りだしたキャリアは、まさにそれを体現したものだ。朝比奈さんの言葉からは、それを可能にするための具体的なノウハウだけでなく、熱い想いそのものもダイレクトに伝わったように思う。

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    「観光先進国日本の進むべき道」

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    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

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