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第16期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「戦国武将に学ぶ経営とリーダーシップ」

講師:貝沼 由久
(ミネベアミツミ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2016年12月1日

貝沼さんが社長を務めるミネベアは、世界中に10万人の従業員を抱え、機械加工部品や電子部品において世界のトップシェアを誇る。弁護士出身でビジネスの世界に挑んだ貝沼さんの経営手法には、戦国武将に学ぶものが多いという。そこにはどんな共通点があるのだろうか?

 

貝沼様全景

 

「経営」とは長く存続させることである

  

貝沼さんが同社の社長に就任したのは2009年の4月。前年のリーマンショックで会社は約40年ぶりの月次赤字を出すという辛い状況でのスタートだった。さらに、2011年には多くの工場を持つタイで大洪水に見舞われる。「まさに踏んだり蹴ったりという中からいかに脱出するかを毎日考えているうちに、ふと、経営の<経>はお経の<経>だということに気がつきました。ということは、経営とは修行なのではないかと思い当たったのです」。僧侶になった昔の同級生にその話をすると、まさに経営という言葉の語源は仏教にあり、お寺が長く残るようにすること、という意味があるのだと教えてくれた。「それまで私は、日本型と欧米型の経営はなぜ違うのか疑問に思っていましたが、その話を聞いてその謎が解けたような気がしました」。

 

日本には300年続く会社が1万社、100年続く会社が3万社あるといわれる。そのように歴史の長い会社が多いのは、近江商人のいう、売り手良し、買い手良し、世間良しの<三方良し>で初めて商売が成り立つと考えられてきた土壌によるのではないか。「自分の会社を長く続けるために、日本では自然とそういう考え方が生まれてきたのだと思うのです」。

 

一方で、英語の<マネージメント>の語源は<手綱さばき>である。すなわち、西洋のマネージメントとは、短期的に会社の舵を右左に切っていくこと。<長く続かせること>を考える日本型経営と西洋型マネージメントとの大きな違いはここにある。「社長である私の使命は、自分の会社を潰さずに健全に次の世代に渡すことであると腑に落ちたとき、まさに視界がパッと開けたように感じました」。

 

戦国武将も「経営」をしていた 


経営とは次の世代へつながるように存続させること。そう思い至った貝沼さんは、会社の経営は戦国武将のやっていたことに重なるという思いを抱くようになった。戦国武将達もいかに自分の「家」を長く存続させるかを考えながら戦っていた。だから、「戦国の武将たちがやっていた調略も、今でいうM&Aでその体制を代々伝えて長らえていくための手法です。その体制をできる限り長く続けるために考え抜いてやっていたことは、まさに<経営>だったのです。それならば、成功した戦国武将について学ぶことが、これからのいろいろな判断をする上で役立つのではないかと思うのです」。

 

貝沼様2枚目

 

ミネベアの従業員は、現在欧米に6500人いる他、タイに4万人、フィリピンに3万人、中国に1万5000人、カンボジアに7000人と、アジアにも多い。「我々がどこよりも早く東南アジアに進出したのは、戦国武将流にいうといかに競争相手よりも先に良い陣地を取るかを考えてのことです。カンボジアに進出したときにまず首相に会ってアピールしたのも、武将たちが地方の豪族たちを味方につけてその地の情報や協力を得たことと通じるものがあります。そう考えると、家や会社を守り続けるために考えた結果にやることは、何百年の昔も今も変わらないのです」。

 

日本型経営の本質はサスティナビリティである 


そうした視点からCSRを考えてみる。前述のように西洋人にとっての経営は手綱さばきであり、自分が今できることをやって短期間に成果を出すことで報酬を得ようとする。それは非常にアグレッシブに目先の利益のみを追求するような土壌を生み、その結果サスティナビリティが問題視されるようになってきた。「つまり、サスティナビリティとは会社を長く存続させるために必要な経営の道具であり、その裏返しがCSRなのだと捉えています」

 

貝沼様3枚目

 

 

戦国武将も長くお家の安泰を保つためには領民の支持が必要だ。「農民たちが不満を持って一揆を起こしたりしないよう治水などに励んだのも、まさにCSRです。すなわち、日本型の経営の本質とはサスティナビリティだと思うのです。企業別組合、終身雇用、年功制のという三種の神器も、会社を長く存続させるために必然的に生まれた制度なのでしょう」。戦国時代も今でも、自分の藩や会社にいた人が競争相手のところへ行って内情を暴露すれば相手に有利になる。それこそが今まさに日本の一部のメーカーなどに起きていることなのだと指摘する。「日本型経営への批判をいとも簡単に受け取って人員をカットした結果、彼らが中国や韓国の競争相手の会社に行ってしまった。これは日本型経営を中途半端に捨てたことに起因するのだと思います。決定が遅い、考えてばかりで行動しないなど近年何かと批判されることの多い日本型経営ですが、そう悪いことばかりではなく、この小さな国を長く存続、繁栄させるためには必要なものだったのではないでしょうか」。

 

弁護士時代、「金儲けは下劣なもの」と感じていたという貝沼さん。しかし経営者となった今、会社を大きくすること、そして利益を上げられているということは、社会的な意義があると認められている証しであり、それが達成できるということはサスティナブルであると理解するようになった。そして、企業の本質的なサスティナビリティは多角化にあるとも考えている。「映画会社やファイナンスなど多角化を進めたソニーは、本業が悪いときもそれらのビジネスで支えることができました。私は、アメリカで経営の本質としてよく言われる<選択と集中>はリスクを高めると考えています」。

 

自分の運命を決めるのは、自分の性格である 


CEOに必要とされる要素は、戦略立案能力、自分の会社に関する知識、財務諸表が読めること、リーダーシップなどいろいろある。すべてが揃えばパーフェクトだが、一番重要なのはサバイバル術だと、貝沼さんは考えている。「危機に対してどう短期的に決断してサバイバルできるか。トップになればなるほど、こんなことがありえるのか?というような事態に毎日遭遇します。企業の成功者が必ずしも高学歴の人に限らないのは、子供の頃腕白だった人ほど、ありとあらゆる手を使ってなんとかするという力が身についているのかもしれません」。

 

2016_12_01_0047.JPG

 

最後に挙げたのは「運命とは性格なり」というアリストテレスの言葉だ。「自分の人生を振り返ったとき、今ここに私があるのは、運命などではなく全部自分の性格が導いたものです。運がいいとか悪いとかではなく、そのときの自分の性格ひとつで、運を掴める人と掴めない人がいるのだと思うのです」。人生にはいろいろな岐路がある中で、人は結局、自分の性格が表れる選択をした方へ向かっていく。それはすなわち、自分の選択でどちらにも進めるということでもある。そして、リーダーには、とっさの判断でいつも前に進む姿勢が不可欠なのだという。

 

「大学時代あまり授業に出なかった私が司法試験を受けると言ったとき、ゼミの先生には笑われました。でも、どうやったら受かるか必死で考えて努力し、合格することができました。皆さんも、自分で無理と決めてしまわず、高い目標を持って前に進んでいって欲しいと思います」

 

<質疑応答>

【塾生】

継承自体を目的にしてしまうと目的を見失いそうな気がします。最近よくある不祥事も組織としての存続が目的となってしまったからではないでしょうか?

 

 

【貝沼さん】

継承したい一心で、付け焼き刃的に乗り切ろうというのではなく、正しいことをきちっとやることが、結果的に会社を長らえることになるという考え方をもつことが重要です。環境問題にきちんと向き合うとか、発表したくない材料も隠さずに早く発表するとか。小手先ではなく、そういう正しい方法で継続させるということです。

【塾生】

CSRとはどうあるべきだと思いますか?

【貝沼さん】

そもそもは長く続けていくために知らず知らずのうちにCSR的なものをやってきた、それが日本型経営なのだと思います。CSRだのサスティナビリティだのと取って付けたようにやるのではなく、毎日の投資行動や会社の行動一つひとつに自然にそういう考え方が入っているのが、まさに日本型のCSRです。何十年も続いている工場では、社長がやれと言ったわけでもないのに、昔から花火を上げたり金魚すくいをやったりして近所の人と交流を図っています。そんな行いも、地域に何かを還元しないとサスティナブルではありえないという思いの結果であり、CSRであるともいえるのでしょう。

【塾生】

どうやったら、常に迷わずブレずに自分を貫いて突き進んでいけますか?

【貝沼さん】

私は全力で走りながらも「これで本当に大丈夫か?」と常に考えています。そしてダメだと思ったら逃げる。逃げるのは大得意です。徳川家康だって何回も逃げているし、最後までここで戦って討ち死にするなんて言っている武将は勝てないのです。一度言ったことでも、メンツを気にせず変えればいい。君子豹変するといいますが、朝令暮改で大いに結構。考え方が変わるのは、そちらが正しいと思うからです。

【塾生】

強い人間は反発を招くこともありそうですが、相手に受け入れてもらうために心がけていることは?

貝沼様6枚目

【貝沼さん】

10人のうち10人全員に受け入れてもらえなくても、4人で大成功、3人でもすごいと思います。若い人の中には組織の人間関係に悩む人は多いでしょう。特に上司は選べないけれど、嫌な上司にいかに可愛がってもらうかもひとつのスキルです。うまくいかないなら、自分のことをきちんと説明してみては如何でしょうか?戦うか、籠城するか、和睦するか、武将の作戦も3つにひとつ。選択肢は限られていると思えば、「今やるべきことはこれしかないな」と分かるはずです。自分が悩むことで良くなるのならとことん悩めばいいけれど、どんなに悩んでも変わらないものは、悩むだけ損です。多くの人がどうしようもないと分かっているのに悩んでしまいがちですが、「しょうがない」と気持ちを切り替えることも必要です。

【塾生】

人間関係の作り方についてもう少し教えてください。

【貝沼さん】

世の中、かわいがられる人とそうでない人とでは人生は大きな差があると思います。だから、かわいがられる立場に立つことです。味方は多い方がいいし、敵に回してはいけない人をいかに味方に付けるかが大事です。そのためには素直になり、格好を付けずに下から出ることも必要です。私は大事な相手へのお土産は秘書に任せずに自分自身で選び、買いに行きます。そういう気持ちは言わなくても相手にも伝わり、そんな毎日の細かい積み重ねが人間関係を作っていくのです。裏切る人は裏切るけれど、残る人は残るし、何かのときに助けてくれる。私は今日のような場でも面倒と思わずに呼ばれたら出てくることで、私もいつか皆さんの中の誰かに助けられるときがくるかもしれません。そんな風に考えて毎日を送るといいのではないでしょうか。

【塾生】

考え方が変わったターニングポイントというのはありますか?

 

貝沼様5枚目

 

【貝沼さん】

特に変わったということはなく、ずっと同じようにやっているつもりです。いつも思っているのは、悔いのないようにしたいということですね。一番悔いが残るのは、やらなかったこと。あのときあの誘いを受けていたら、あの人に会っていたら、あの会社を見ておけば……と後悔したくないので、どんな話でも一応は受けて、行動するようにしています。

【塾生】

性格は変えられると思いますか?

【貝沼さん】

性格は変えられないけれども、志を変えることはできます。社員たちにもいつも高い志を持つように言ってしますし、私自身もそう心がけています。

 

<クロージングメッセージ>

困難な状況で自分を突き動かしているのは、「絶対にバカにされたくない、負けたくない」という思いです。「思いは叶う」と言いますが、本当にその思いを強く持って人よりも頑張る。なんとしてもやり遂げるというおもいがあれば、それは私にとっては努力だとは感じません。

 

今日の私の言葉やそれを聞いて自分が感じたことを、20年後も覚えていてくれる人がこの中にひとりでもいればうれしいです。これからの日本は、すばらしい人材がどんどん出てきて引っ張っていくことが必要です。ぜひ高い志を持って、あきらめずに自分の夢を追いかけて欲しいと思います。

 

<編集後記>

「お家の存続」を使命とした戦国武将におもいを馳せ、サスティナビリティ重視という本来の日本型経営の良さを見直そうという提言は、さすが弁護士出身というロジカルな流れで説得力があった。毅然と語られる言葉からは、成功への最良の手段を探し続ける情熱もリーダーとしてのあるべき姿であると心に刻まれたと思う。

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    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

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