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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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ホーム > ベーシックナレッジ > 第15期コア・プログラム ベーシック・ナレッジ「森が開く、感じる力」

第15期コア・プログラム
ベーシック・ナレッジ
「森が開く、感じる力」

講師:山田博
(株式会社「森へ」代表取締役)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2016年6月16日

真善美をテーマにした今期のベーシック・ナレッジ。今回は「森のリトリート」という活動をしている山田さんを講師に迎え、「感覚を開く」体験を通じて自らの感じる力を広げるというのがテーマだ。ワークショップも交えながら、心と体を開くことの意味と、そこから生まれる可能性について考える。

 

 

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「森との対話」で得られるもの

 

 

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企業に勤めていた山田さんは、自らが受けた研修をきっかけにコーチングを学び、資格を取得して独立。2011年に「株式会社 森へ」を設立し、「森のリトリート」という2泊3日の体験型プログラムを実施している。このプログラムは、山中湖近くの原生林に身を置き深く内省し、本質的な深いレベルの洞察力を深めるというものだ。「森の中で心と体を使って感じ、その感じたことを返すと森も返してくれる。これを私たちは<森との対話>と言っています」。

 

森に入り、裸足で歩いたり、寝転がってみたりしながら自分自身と向き合い、夜にはたき火を囲んで参加者同士で語り合ったりする。そんな体験を通して、自分の今後についてアイディアが生まれたり、思い悩んでいたことがちっぽけだったと気づいたりするのだと言う。

「森のリトリート」には一般の人を対象にした「ライフ編」と、ビジネスパーソンを対象にした「ビジネス編」とがある。「ビジネス編」では経営者の参加も多い。山田さんは、ものを作ったり何かを動かしたりしようというとき、考える力と感じる力との両方が必要なのだと捉えている。「考えてばかりでは煮詰まってしまうし、感じるだけでは何も生まれないので、どちらも大事です。ただ、都会にいるとどうしても考えることが多くなってしまいがちなので、今日は考えることは横に置いて、身体感覚を思い出しながら、感じる方にフォーカスしてみてください」。

 

体をセンサーにして感じる力にフォーカスする

 

この日のセッションでは、「これまでの人生の中で思い出に残る自然の体験を、文章で鮮やかに描写する」という事前課題が与えられていた。「皆さんが書いて下さった文章には、<風が心地よい><虫の声><満点の星空>など、五感で感じたことを言葉にしている部分が必ず何カ所か出てきていると思います。その体験をしたとき、皆さんは自然と対話をして、何かを感じ取っていたのです。これを読むときには、文章を頭で理解しようとするのではなく、体をセンサーにして、読んだときに何をイメージするか、体のどの辺がムズムズするのかを感じてみて下さい」。

説明を聞いた後は、さっそくワークの開始だ。参加者全員がペアを組み、お互いの事前課題の文章中の五感で感じている部分について、「これはどこで?」「どんな風に?」など詳細をインタビューする。さらに、インタビューされている人は、質問に答えるうちにそのときのことが思い出されてきたら、今体で感じていることを体で表現してみる。「ここでの大事なコツは、恥ずかしがらないこと。羞恥心を捨てて思い出して下さい」。

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ワーク後は、「記憶が蘇って、そのときの解放感を感じた」という感想が聞かれるなど、会場内は一気にリラックスムードに。「15分前とは皆さんの顔が明らかに違っていますね。笑顔が多いしリラックスしている。皆さんには感じる力があるということです。そしてそれは無限大なので、出せば出すほど開いてきます」。

 

「感じる力」を開くことには、楽しい、生き生きする、エネルギーが高まるという効果があると言う。「森に行くと免疫力が上がったり、ストレスホルモンが激減したりするというデータもあります。健康にいいし、リラックスすればパフォーマンスも上がるし、いいことがいっぱいです」。

 

五感を開いて見つけたサインが、自分へのメッセージ

 

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次に、会場内のスクリーンに森の写真を映し出し、それを見た瞬間に直感的に何が一番印象に残ったかを感じ取るという試みを行った。「なぜ、それが目に止まったかという理由が分からなくても、誰もが何かを見るはずです。これを私たちはその人の<サイン>と呼んでいます」。それは、その人の心と体が開いたときに、自分にとっての今のタイミングで重要なものを感じ取る力なのだそうだ。「たとえば、<あのときのあの光>というようにそのサインを心の中に残しておくと、後から何かのときに、あ!あれだ、と結びつき、直感やひらめきという形で自分へのメッセージが突然降ってくるのです」。

 

都会に暮らす私たちは、自分の身を守るという本能から、普段は五感を閉じて暮らしているのだと言う。「開いていると臭いし、うるさいし、危ないからです。しかし、今、こうやって自然と接したときの話をしたり写真を見たりするだけでも、五感の器官はふやけてくるのです」。「森のトリート」プログラムでは、参加者のほぼ全員がそれを体感すると言う。この感覚は、30分で開く人もいれば、3日かかる人もいるなど時間はそれぞれだが、すでに参加した何百人もの方の中で、開かなかった人はいないそうだ。

「本来、人は誰でも感じる力を持っているのです。それを森でムクムク開くことで、人生や仕事の中で活かしていけば、今よりも幅広いものに対応できる力が付いてくると考えています」。

 

<質疑応答>

言葉以外のメッセージを感じ取る

 

 

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【塾生】

 

何かを感じても、それを言葉にすると違うものになってしまうようで難しいです。その辺はどうお考えですか?

 

【山田さん】

 

いい質問ですね。言葉は感覚を載せる器としては小さすぎるので、その限界は私もいつも感じています。でも、人間は言葉を使わないと誰かと分かち合うことができません。そこで私がよく言っているのは、誰かが「私はこういう体験をした」という話を聞くとき、言葉を理解しようとして聞くのではなく、話を聞いているときに「感じること」から言葉に乗ってない部分を受け取るということです。その人が醸し出している雰囲気などノンバーバルなコミュニケーションも、何かしらのメッセージを発しているはずです。言葉以外にも、その間にあるものを感じ取るようにしていくと、言葉の狭さ故にこぼれてしまうものをプラスαとしてキャッチすることができるのかなと思います。

 

ゆっくり動くと感覚が変わる

 

【塾生】

 

森に行くと五感が磨かれて開放的になれるというお話でしたが、森へはなかなか行けません。日常生活でそういう体験ができる方法はありますか?

 

【山田さん】

 

あります。たとえばゆっくり歩くことです。通勤時に毎日同じ道を歩くとき、ほとんど何も見てないでしょうが、半分ぐらいのスピードで歩くと普段は感じないものを感じることができます。ご飯を食べる、歯を磨く、お風呂に入る、こういう日常の動作をするときも、少しゆっくり動いてみて下さい。驚くほど感覚が違うということが、やってみるとすぐに分かると思います。

 

感覚を開けたり閉じたり調整する

 

【塾生】

 

森に行って感覚を開いても、都会に帰ってくるとまわりは毒だらけです。開いた状態で毒の中でもうまくやっていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

 

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【山田さん】


私も10年ほど前に開きすぎてしまって苦しんだことがあります。ピリピリしてしまって日常生活ができないのです。あるとき気がついたのは、開け閉めできればいいんだということでした。開きたいときに開いて、閉じたいときには閉じる、そういう緩い蛇口になればいい。最初はきつく閉めすぎているのでなかなか開かなかったり、開きすぎて栓が壊れてしまったりしますが、開け閉めを繰り返しているうちに調整が効くようになります。今私はかなり開いた状態になっていますが、ここは開かない方がいいと思ったときには、閉めるようにしています。

 

無意識にかけているフィルターの先にあるもの

 

 

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【塾生】

 

森だから開くというところが、少しよく分かりません。森には熊やスズメバチなどの危険もあるかもしれないし、注意が必要なこともたくさんあります。森だからリラックスできるというのは、少し違うような感じがします。

 

【山田さん】

 

直接の答えになるかどうかは分かりませんが、現代社会の私たちはある種の刷り込みの中に生きている面があると思います。熊は襲う、スズメバチは刺すと。本当はそうとは限らないのに、事故のニュースなどを見聞きしてそういう回路が出来上がっている。危険を感じることは身を守る上では大事なことだけれども、我々が掛けているフィルターの先には違う世界があるかもしれないということです。私は森でいろいろな経験をするうちに、自分が全く知らなかった世界、常識では計り知れない世界があるということを感じました。刷り込みの世界が悪いというわけではなくて、こちらの世界もあれば、また違う世界もある、両方あるのだという捉え方で、森に入ってもらうと、違う感じがあるかもしれません。

 

決断力とひらめきは確実に鋭くなる

 

【塾生】

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森でのプログラムを体験することで対話力や対応力が上がるというお話でしたが、都会に戻ると閉じてしまうのに、それでも対応力を発揮できるというのは、内から出てくるエネルギーによるものなのか、都会でもここぞというときに感覚を開けるようになるのか、どのようにお考えですか?

 

【山田さん】

 

都会では閉じているとはいっても、完全に閉めているわけではないのです。たとえばすごく閉じている相手を前にして、自分だけが開きすぎていると相手が違和感を持ちます。だから、相手に合わせていく。経営者としての対応力という点で言えば、このプログラムで抜群に効果が見られるのはひらめきと決断力です。理想としては、自分のビジネスは生態系の中でしか成り立たないのだということを、本当の意味で理解した上で経営して欲しい。生態系の循環の中でしか成り立たないのだということを分かっていれば、どういう商品をつくるか、どんなサービスを提供するか、どういう社員教育をするかということも全部変わってくると思うからです。私はこのプログラムを通じてそれを理解して欲しいと願っています。わずか3日間の経験ではなかなか難しいようですが、決断力とひらめきに関しては、かなりのレベルで鋭くなっていきます。

 

問題意識を持っている人には響く

 

【塾生】

 

自分はいろいろな会社の人にソリューションを提案するという仕事をしています。経営者の方の悩みに対して、森へ行くというのもひとつのソリューションになり得るでしょうか?

 

【山田さん】

 

相手の求めているものによって、実際に響く人とそうでない人がいます。感じる力やひらめき、生態系のエコシステムを認識するということに興味があり、そこがまさに今欠けているピースであるという自覚を持っている状態の人であれば、響くはずです。このままでは限界かもしれない、地球はひとつなのにどうしたらいいの?という問題意識があって、でもやり方を知らない、次に何を作れば解決できるのかが分からないという問題意識を持っている人には、ヒントになるのだと思います。

 

人間も生態系の一部であることを思い出す

 

 

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【塾生】

 

 

人間も生態系の中の一部であるはずなのに、なぜそれを崩すような生き方をしてしまうのでしょうか。そもそも人間とは何なのでしょうか。

 

【山田さん】

 

森の中でいろいろなことを考えますが、究極的にはその問題にたどり着くことが多いです。それはいろいろな問題を考え尽くしたときにたどり着く哲学的な問いかもしれません。私なりの答えとしては、人間は自分が生態系の中の一部であるということを、いつかの時点で忘れてしまったからだと感じています。ある意味マインドコントロールというか幻想の中に入ってしまった。ネイティブアメリカンの原住民の人たちと話すと、すべてはつながっているのであって、つながっていない世界なんてあり得ないと、彼らは考えています。同じ人間なのに、私たちはそれを忘れてしまった。その理由は、農耕を始めたからなど諸説あるようですがよく分かりません。その夢から覚めて、忘れ去っていたものを思い出した瞬間に、壊すことはできなくなると信じていますが、それがいつなのかは誰も分かりません。人間とは何なのかについては、ネイティブアメリカンの人たちがいった「人間は、地球が美しくあるためのCare taker(お守り役)なのだ」という考え方を、私は気に入って信じています。

 

<編集後記>

一人ひとりの目を見ながら、穏やかな笑顔で一言一言ゆっくり語りかける山田さん。その暗示に掛かったかの如く、会場のムードがゆるゆると溶けていくように感じられた。理詰めで考えて煮詰まることも多い日常において、五感を開いて感じる力を磨くというのは、まったく新しい視点であり、大きなヒントをいただいたように思う。

 

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次回予告

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    「観光先進国日本の進むべき道」

    伊達美和子
    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「不確実な時代におけるリーダーシップ」

    鈴木健一郎
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