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第15期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「起業における、リスクとの向き合い方」

講師:吉野慶一
(Dari K株式会社代表取締役)
インタビュアー:田村次朗 (慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2016年5月26日

カカオ豆の産地といえばアフリカや中南米の国というイメージが強いが、実はインドネシアが世界のトップ3に入る生産国だということはあまり知られていない。吉野さんはその意外な事実に関心を持ったことをきっかけに、チョコレートの製造販売会社を起業した。自ら「無謀」と語るその挑戦には、どんな想いが込められているのか。そこから学ぶ「リスクとの向き合い方」が今回のテーマだ。

 

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金融業界から一転、チョコレート販売へ

 

吉野さんがチョコレート専門店Dari Kを設立したのは2011年3月。それまでモルガン・スタンレー証券などの金融業界で活躍していた吉野さんにとっては、まったく異分野への転身だった。「たまたま旅行先のカフェで見かけたカカオ豆の産地を示した世界地図で、インドネシアでもカカオが採れることに驚いたのが始まりでした」。気になって検索してみると、世界有数のカカオ豆生産国であるにも関わらず、インドネシア産のカカオは日本にはほとんど輸入されていないということを知った。「遠いアフリカから買うよりもずっと運賃は安いはずなのになぜ?という疑問と共に、これはビジネスチャンスかもしれないとも感じました」。

さっそく現地に飛び、苦労して見つけたツテをたどって調べて分かったのは、インドネシアのカカオ豆は発酵の手間をかけずに出荷していたため、品質に劣るという現状だった。それならばその品質を上げればいい。そう考えた吉野さんは、現地の農家に発酵の技術を教えることにした。とはいえ、自分自身も素人。ベストな方法を探り、1から勉強して試行錯誤を重ねる日々が続いた。

その努力が実り、インドネシアの農家に高品質なカカオ豆を生産してもらうことに成功し、それを原料とした高級チョコレートの製造販売を開始。現在は京都に2軒の店舗を展開するほか、百貨店やホテルなど取引先も拡大している。

 

カカオを通して「がんばれば報われる」社会をつくりたい

 

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吉野さんがチョコレートづくりに挑んだ理由のひとつに、このビジネスを通してある社会課題を解決したいという想いがあった。それは、インドネシアの農家に「品質を上げれば所得が上がる」という体験を通して、「がんばれば報われる」というやりがいを知ってほしいということだ。

 

世界的な市場において、カカオの価格は景気が良くなると下がり、景気が悪くなると上がるという傾向があるのだと言う。その理由は、株価が落ちると市場から引き上げられたお金の投資先として、カカオやコーヒー、石油、金などコモディティと呼ばれるものに向かうからだ。景気が良くなるとこれらの資金は再び株や債券に戻っていくため、カカオの価格は下落する。

こうした自分とは無縁の市場原理によって買い取り価格が振り回される状況では、生産者にやりがいは生まれない。この現実を変えるため、農家に寄り添い生産物に付加価値を付けることでより高い適正な価格で買い取る。そういう仕組みを構築したいと考えたのだ。

吉野さんの取り組みは、フェアトレードとして紹介されることも多い。「フェアトレードとは、その概念に共感した消費者がちょっと高いけど買ってあげるという、いわば消費者から生産者への施しのようなものです。そうではなくて、付加価値の付いた良質なものを高く買うというDariKのビジネスモデルは、いわゆるフェアトレードとは違うと認識しています」。

吉野さんの挑戦は国内外の各種メディアでも取り上げられたほか、2015年にはフランスで開催される世界最大のチョコレートの祭典「Salon du Chocolat」に出展するなど、その品質でも大きく評価されるに至っている。

さらに、現在はカカオ豆の殻を使った発電事業の可能性を模索している。「カカオ豆の産地であるスラウェジ島は、無電化地域が40%もあります。今はゴミとなっているカカオ豆の殻で発電して無電化地域をなくせたらすばらしい。自分たちだけではむずかしいので、声を上げていくことで、それができる人とつながっていける。そんな社会になっていくといいなと期待しています」。

 

<インタビューセッション>

ラオスの村で学んだ「言い訳しない人生」

 

【田村さん】

組織の中で金融アナリストをしていた方が自ら組織をつくることには、どんな苦労がありましたか?

 

【吉野さん】

最近感じているのは、リーダーと経営者は別ものだということです。実は、創業3年目に1年に10人もの社員が辞めるという事態を招きました。その頃、私はカカオ豆の殻を使った発電のプロジェクトの調査で1年の半分ぐらいは現地に行っている状態でした。創業当初の社員は、インドネシアの農家を救うという社会的な意義に共感して集まってきた人たちでしたが、会社の拡大に伴い加わった、純粋にチョコレートを作りたい、いずれは自分の店を持ちたいというような人たちは、会社の方向性に疑問を感じたのでしょう。私としては、リーダーであり続けるために会社の理念を貫いてきたつもりでしたが、フェーズが代わって経営者として従業員をまとめていくためには、彼らの要望も聞かなくてはいけない。そこはすごく苦労したし、今もなお苦労しているところです。

 

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【田村さん】

普通のビジネスと社会ビジネスとの、立ち位置の違いはどんなところでしょうか?

 

【吉野さん】

会社員時代の不満は、組織に属する以上は組織の箱という制約から逃れられないことでした。会社が求めるのは、会社のリソースを使って会社のための成果を出し続けること。いわば利潤をあげることが目的であり、それは企業が存続するための絶対条件でもあります。しかし、社会的課題を解決するためのビジネスは、利潤が上がっても課題が解決するかどうかは別問題だし、それを原資にしてさらなる課題に向かってステップアップしなくてはいけません。利潤は手段にすぎないけれども、それがないと挑戦できない。そこは本当にむずかしいし、大きなリスクだと言えるでしょう。

 

【田村さん】

学生時代はどんな方だったんですか?

 

【吉野さん】

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学生時代は金髪モヒカンで、バックパックで60カ国ほど回りました。その途中、ラオスの少数民族の村で物売りの女の子が英語、フランス語、スペイン語、日本語を覚えていたことに衝撃を受けました。学校にも行けない状態でもそれを言い訳にせずに、生きるためにがんばっている。それに引き替え、言い訳ばかりしている自分に、そして日本全体に怒りを覚えました。「決まりだから」「予算がないから」などと理由を付けてやらないのは、自分自身の人生をダメにするのだと感じたんです。その体験が私の人生のひとつの転機になったと思います。

 

 

<質疑応答>

失敗も、学びにすればプラスになる

 

【塾生】

大学時代に育んだ思いを維持するのはむずかしいと思いますが、実際に行動に踏み出すための、第二の着火点になったような出来事があったのですか?

 

【吉野さん】

昔の自分だったら、情熱を持って仕事を続けるのはむずかしかったかもしれませんが、今は、始めた頃よりもむしろ、常にやりがいが大きくなり続けています。金融にいた頃は、自分の仕事の成果を喜んでくれるのは、上司や同僚ぐらいでした。でも今は、インドネシアでがんばってカカオ豆の生産性を上げれば、農家の収入が上がる。自分が直接指導した人以外でも、それを伝え聞いて実践した人も含めれば、何百人、何千人という人にインパクトを与えることができます。以前だったら「自分の部署の仕事ではない」「決裁を取らないと」というやらない理由を見つけてできずにいたことも、思いつきベースで何でも試せる。それが成功するかどうかは分からないけれど、自分次第でいつでも挑戦できる。そしてそのリターンが、ものすごくたくさんの人のものになるというところが、やりがいや情熱を持ち続けられる理由かなと思います。

 

それと、私自身のリスクというものの捉え方として、第一段階で失敗してもそれをマイナスとは考えません。そこで辞めてしまえばマイナスのままで終わってしまうけれども、このマイナスは成功するための学びだったのだと思えば、それはプラスだということです。

 

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組織の中で動けずにいるなら、外に出てアクションを起こす

 

【塾生】

「できない理由を探さない」という信条を持ちながら、一方でビジョンを達成するために自分がいた大企業の経営資源を使ってやろうとしなかったのはなぜですか?

 

【吉野さん】

まわりの人を変えていくのはとてもむずかしいです。大きな組織であればあるほど、何十人、何百人の人を説得し、理解してサポートしてもらうためには、膨大な時間やエネルギーが必要です。その間やろうとしていることに手が付けられないでいるよりは、自分が外に出て、まず自分の力で流れをつくってそれから働きかけるという方法もありだと思いました。私の作ったDari Kというのは小さな会社ですが、今は業界の大手とも話をさせてもらえるようにもなりました。それは、具体的にアクションを起こしたからこそ説得力が増したということです。組織の中でアクションも起こせずに「こういうことが大切だと思う」と言っているよりは、まず目に見える形で作るという方向を選んだのだと思います。

 

できない理由ばかり言っているのは、もったいない

 

【塾生】

インドネシアの農家を救いたいという想いでビジネスを始められたわけですが、日本人に対してはどんな思いを持っていますか?

 

【吉野さん】

日本が嫌いというわけではありませんが、すごくもったいないと歯がゆく感じます。たとえば、就活では自分の強みは何かということを考えるでしょう。でも、それはずっと変わらないものではないと思うのです。学生時代に陸上部の中では足が遅かったとしても、社会に出たら普通の人よりは速いはず。そのように、同じ事実でも自分がどこにいるかで強みにも弱みにもなるのです。日本人はそこのところを相対視できていない人が多いように感じます。それなのに「~だからできない」と言って、できない理由ばかりを、すごく時間をかけてやっているのはもったいないです。今は海外に目を向けていますが、その成功体験をいずれ日本にも還元したいなと考えています。

 

<クロージングメッセージ>

リスクをとらないことが、最大のリスクである

 

 

 

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何かをやろうとするとき、不確実なことはたくさんあります。何が起きるのか、本当にそういうことが起きるのか、起きたときのインパクトはどのぐらいなのか。それを考えていたら、きっと何もできないと思うのです。だから、皆さんには、もし何かをやろうと思ったら、とりあえずやってみた方がいいと言いたいです。

 

やってみれば、結局後からなんとかなることは多いし、なんとかしなくてはいけない。とにかく一歩踏み出してみることで、ダメだったとしてもそれは「学び」だと考えれば、結果的にはプラスになるのです。

 

やる前には最悪のことを想定して心配しがちですが、「最高でどこまで行くだろう?」とはあまり考えないものです。でも、もしかしたらDari Kも廃棄物の殻の発電で今後ブレークしてものすごく大きな会社に成長しているかもしれません。それは最初カカオでチョコレートを作るということを始めなかったら、あり得ないことなのです。つまり、何かを変えて実際に行動を起こさないと、そういうチャンスも逃してしまうのです。

 

実際に踏み出してみた私の実感としては、「がんばった人に対して社会は優しい」ということです。無謀なところに挑戦をしている人に対して、世間は注目してくれる。そういう力をうまく使っていけば、できないことはないと思います。「こういうことをやりたい」と声に出して言ってがんばっていれば、社会は応援してくれるものだと感じています。

 

何かをやろうとするときに感じるリスクというのはリスクではないが、リスクを取らないことこそが最大のリスクである。それが私の皆さんへのメッセージです。

 

<編集後記>

どんな質問に対しても、瞬時に的確なメッセージを返してくれた吉野さん。穏やかな雰囲気の中にも、これから行動を起こそうという志の背中を押したいという想いが感じられた。あまり年も変わらない現在進行中の若きリーダーの言葉は、塾生たちの心に確かな覚悟を植え付けてくれたことだろう。

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次回予告

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「観光先進国日本の進むべき道」

    伊達美和子
    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「不確実な時代におけるリーダーシップ」

    鈴木健一郎
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