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第14期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「これからの時代に必要なリーダーとは -変化する時代と意識改革-」

講師:横尾敬介
(経済同友会 副代表幹事・専務理事)
インタビュアー:田村次朗 (慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2015年11月7日

日本経済団体連合会(経団連)・日本商工会議所(日商)と並び、日本の経済三団体のひとつとして知られるのが、経済同友会だ。今回はその副代表幹事・専務理事を務める横尾さんを講師に迎え、持続可能な社会をつくっていくためのリーダーの資質を考えるセッションが行われた。

<インタビューセッション>

目先の利益や規模を追うだけでいいのか?

 

横尾02.JPG
【田村さん】
経済三団体のうち、経済同友会にはどんな特徴があるのでしょうか?
【横尾さん】
経団連は大手企業を中心とした各業界団体の集まり、日商は中小企業の業界団体の集まりで、それぞれが所属するメンバーの意見を集約して提言していくものです。それに対して私たち経済同友会のメンバーは、会社の肩書きはありますが各経営者個人が集まった団体であるところが大きな特徴です。そのため一切の政治献金もしないし、業界の利益には一切関与しないという立場でやっています。これは、終戦の翌年に設立されたときの趣意書にもハッキリと書かれています。いわばどの政党にも与しないが政策には関与するという政策集団で、立ち位置はむずかしいのですが、それでも言いたいことを言いやりたいことをやっているという集団です。
【田村さん】
経済同友会では現在は主にどんな活動をされているのでしょうか?
【横尾さん】
簡単に言うと、「これからの日本は利益や規模を追うだけでいいのか」という問題提起をしています。それだけではない新しい尺度があってもよいのではないかということです。目先の話で言えば、政府は2020年頃までにGDPを600兆円にすると言っています。GDPでは実質2%、名目成長で3%を前提としていますが、これがずっと続くことはありえないと私たちは考えています。現在の体制を変えるような劇的な生産性の改革があれば可能かもしれませんが、そうしたことを前提としているわけです。そのあたりに、この600兆円という目標の問題はあるのだと思います。2020年までは5年ありますがこれはいわば準備段階です。そういう目先の問題ではなくて2020年以後10年、20年、30年といったスパンで考えたとき、そこには技術革新などもあるでしょうし、次の世代がどういう社会をつくるのかということをもう少し取り入れていくべきでしょう。これらの問題については、今議論しているところですが、発表までにはまだ少し時間がかかりそうです。再来年の春ぐらいには発表できればいいと思っています。
【田村さん】
経済三団体のうち、経済同友会にはどんな特徴があるのでしょうか?

【横尾さん】
経団連は大手企業を中心とした各業界団体の集まり、日商は中小企業の業界団体の集まりで、それぞれが所属するメンバーの意見を集約して提言していくものです。それに対して私たち経済同友会のメンバーは、会社の肩書きはありますが各経営者個人が集まった団体であるところが大きな特徴です。そのため一切の政治献金もしないし、業界の利益には一切関与しないという立場でやっています。これは、終戦の翌年に設立されたときの趣意書にもハッキリと書かれています。いわばどの政党にも与しないが政策には関与するという政策集団で、立ち位置はむずかしいのですが、それでも言いたいことを言いやりたいことをやっているという集団です。

【田村さん】
経済同友会では現在は主にどんな活動をされているのでしょうか?

【横尾さん】
簡単に言うと、「これからの日本は利益や規模を追うだけでいいのか」という問題提起をしています。それだけではない新しい尺度があってもよいのではないかということです。目先の話で言えば、政府は2020年頃までにGDPを600兆円にすると言っています。GDPでは実質2%、名目成長で3%を前提としていますが、これがずっと続くことはありえないと私たちは考えています。現在の体制を変えるような劇的な生産性の改革があれば可能かもしれませんが、そうしたことを前提としているわけです。そのあたりに、この600兆円という目標の問題はあるのだと思います。2020年までは5年ありますがこれはいわば準備段階です。そういう目先の問題ではなくて2020年以後10年、20年、30年といったスパンで考えたとき、そこには技術革新などもあるでしょうし、次の世代がどういう社会をつくるのかということをもう少し取り入れていくべきでしょう。これらの問題については、今議論しているところですが、発表までにはまだ少し時間がかかりそうです。再来年の春ぐらいには発表できればいいと思っています。

経営者として対峙した、巨額損失という危機


横尾03.JPG【田村さん】

 大学卒業後、日本興業銀行に入行され、その後みずほ証券に移られていますが、その間はどんなお仕事をされていたのですか?


【横尾さん】

 大学時代には政治家を志したこともあったのですが、父の反対で断念し、大学のゼミの先生の勧めもあって興銀に入りました。30歳でニューヨーク支店に勤務したときに、現地のインベストメントバンクの人たちと知り合ったことが、私にとっての証券ビジネスとの出会いでした。その後、希望して証券に行きましたが、私がみずほ証券で社長、会長をやっていたのは、まさにバブルが崩壊した金融危機の時代でした。


横尾04.JPGリーマンショックの1年前にサブプライムショックというのがありました。2007年6月に、ニューヨーク勤務時代の知り合いであるロンドンの金融マンから、「このサブプライムが原因で市場が危ない状況になるかもしれない」という情報を入手したことを受けて、翌週の経営会議で、危機に備えて株式も債券もポジションを落とせと命じました。ところが、この指示は実行されず、2カ月後の8月に株価が大暴落したことで巨額の損失を出すことになってしまったのです。


10月にグループ全体の経営会議が行われた際、私は辞表を携えて出席しました。私を慮ってくれたのか、部下が作った資料では800億円の損失となっていました。しかし、長年の勘からそんなものではすまないと感じ、損失はおそらく4000億円になるであろうということを正直に報告し、謝罪しました。そして、従業員の退職金などに充てる20億円を用意してくれれば、自分が責任を持って後始末をすると告げました。社長を続けて会社を建て直せというのなら4000億円の増資が必要になるので、どちらにするか判断してほしいと一任したのです。結果的には、「みずほグループから証券業務をなくすことはありえない」という理由で、増資が決まりました。そのとき、当時のグループトップから言われたのは「マーケットを壊したのは君じゃない。4000億円は出すから、なんとしても再建することが君の責任だ」という言葉でした。



当時の私の気持ちとしては、経営者としての責任を強く感じていました。自分自身のことよりもグループとしてどうするのかという判断が重要。経営会議の前日に辞表を書きながら、そう感じていたのを覚えています。このときのことは、私にとってはひとつの大きな経験となっています。

 

<質疑応答>

 

危機管理に必要な大局観は、歴史から学べ

 


横尾05.JPG【塾生】
仕事をしていく中で、大事にしてきたこと、哲学などがあれば教えてください。

【横尾さん】
ニューヨークで5年間勤務したときに、ウォール街を中心としてアメリカという国を見たこと、そしてアメリカから日本を見たという経験が、私の精神構造や仕事の仕方を変えました。日本の場合は、会社組織に入るとどうしてもサラリーマン化していきますが、アメリカでは労働市場の流動性が高いこともあり、自分自身で生きていくのだと考えている人が多いです。仕事の仕方も、私たちの世代の日本人は24時間働くというぐらい残業漬けの毎日でしたが、向こうの人は違います。忙しいときは1週間ぐらい徹夜でがんばりますが、その後は必ず2週間ぐらいの休暇を取るというように、非常にメリハリの利いた生活をしていました。そういうのを見ていて、このままでは日本は勝てない、自分の生き方を変えようと思いました。

【塾生】
リーダーというのは先を読む能力が大事だと思いますが、どういう形でそれを身に着けてきたと思われますか?
横尾06.JPG 

【横尾さん】
経営者にとって、特に危機管理は理屈ではなく勘です。勘を養うためには、大局観を常に持っていることです。今回は事前課題として「日本には歴史上どんな社会的な大変革があったか」ということを皆さんに考えてもらいましたが、歴史観はとても大事です。「こういうときに過去の人は、たとえば明治維新のあの人はどう考えたか?」と思いを馳せることが、大きなきっかけになるのです。みずほ証券の社長時代も、新入社員への訓示では「歴史を勉強せよ」という話をしてきました。
さらに、金融だけではなく世の中のいろいろな動きに関する情報をキャッチして自分の頭の中に入れておくことも重要です。経営者としてトップでいるためには気力と記憶力が不可欠であり、これが衰えてきたらトップを降りるべきだというのが私の考えです。私自身は、前日の夜どんなに遅くても毎朝4時半には起きて、1時間半は世界中の情報を収集することに費やしています。そして6時までにはそれを終えて家を出て、会社には7時前には出社するという生活をずっと続けてきました。そのぐらいしないと勘は養われないと思います。ボーッとしていないで、何かしないとダメなのです。

「やっておけ」ではなく、社長自身が思いを伝える


横尾07.JPG【塾生】
リーマンショックのときに社長として得た教訓は何ですか?

【横尾さん】
部下は悪いことは上に隠そうとするものだと、受け止めておく必要があります。指示に従わない部下をそのポジションに置いていたのは私自身の問題であり、それが一番悔やんでいるところです。

【塾生】
みずほ証券の社長、会長時代は失われるものが多い大変な時期だったと思いますが、その中でモチベーションを保って一枚岩になるようなマネージメントとは?

【横尾さん】
特殊な方法はまったくありません。リーマンショックのとき4000億円の損失などという数字が出てくると、当然社員は大きく動揺します。そういうときは私自身が、グループや部単位で各現場に説明をしました。責任者に来てもらうのではなく末端の新入社員に至るまで、私の肉声で体験や思いを伝えることが大事だと思ったからです。
また、東日本大震災のときには、仙台、水戸、郡山の支店が被害を受けました。翌日にはトラック2台で必要な物資を運んだほか、被災した社員の家族を都内の研修所で受け入れたりもしました。そして、不足しているものがないか私自身が出向いて話を聞きました。非常に細かいことの積み重ねですが、「やっておけ」というのではなく、社長自身が動かないとダメなのです。

横尾08.JPG【塾生】
同友会という各会社の経営者が集まる組織において、メンバーをまとめていく秘けつはなんですか?

【横尾さん】
まとめるということは考えません。それぞれが一国一城の主なのですから、まとめられるわけもありません。セミナーや全体会議をやるときには、まとめるというよりは、何がポイントなのか、どの人のどの発言が一番ポイントなのかというところをピックアップしながら、それに対してのみなさんの同意をその場で得ていくようにしています。そういうやり方で、「今回はこのやり方でいきますよ」という念を押して
おくという感じです。

福澤先生が官に求めず民に従い、民を貫いたという建学の精神がありますが、メンバーの姿勢としてはまさにこれが大事だと思っています。政府におもねることなく、民は民として言うべきことをしっかり言う、やるべきことをしっかりやるというのが、私たちのスタンスなのです。

お金だけではなく、心の豊かさを循環していける社会へ


【塾生】
横尾さんが理想とするのはどんな国家ですか?

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【横尾さん】
理想の国家像というのはまだはっきりしませんが、規模や利益を追求するだけではなく、心の豊かさという尺度も大事だと感じています。お金も必要ですが、お金があれば心が豊かになるのではないでしょうから、心の豊かさや家族の絆のようなものを、近未来の社会にどうやって引き継いでいくのかというのが永遠のテーマなのかもしれません。
そういう意味では、今のGDPの計算方法がどうなのかという問題もあると思います。計算方法が変われば数字も変わってくるからです。最近はブータンのGNH(Gross National Happiness/国民総幸福量)などが注目されていますが、豊かさの尺度をどう捉えるか。政治経済社会の中で、そういう目に見えないものを潤滑油や血液のように循環していける国家というのが、ひとつの理想像ですね。

<クロージングメッセージ> 

 

自分のあり方は、自分自身で見つけてほしい


最後に経営者の資質について、私の考える条件をお話します。


横尾09.JPG第一に、リスクとオポチュニティについての姿勢です。危機の後には必ずチャンスが来ます。その危機を乗り越えられればチャンスが来るのだということを、経営者は絶対に忘れてはいけないのです。


第二に、私心をなくすこと。私利私欲は経営者にあってはならないものです。人間は欲の塊なのでむずかしいことではありますが、欲をどう打ち消すかは自分自身との闘いです。私心がなければ保身にもつながらない。ここがすごく大事なのです。そして、事実ときちんと対話すること。「そんなことを言ったって」と社長が言ってしまったら、みんな話をしなくなります。そうではなくて、事実を事実として向き合い、どんなに都合の悪い事実でもきちんと聞くことが必要です。


最後に、経営者というのは決断を迫られるものなので、常に心身が健康であらねばなりません。そのためにはいつでもどこでも食事がきちっとできることも、経営者の大事な資質だと思います。


福澤先生が言った独立自尊という精神は、社会に出ても通用するものです。その精神は自分の中に宿るのであって、人から言われるものではありません。この独立自尊の精神を自分自身としてどう捉えるのか。自分の置かれた生い立ちや環境の中で、自分自身のあり方をどう見つけるかというのは、すごく大事だと思います。どうすれば見つかるかというような簡単なものではありませんが、皆さんにはそこのところをぜひ心がけて欲しいと思います。ご自分の人生は、上司のものでも親のものでも友だちのものでもなく自分自身のものであるということを常に念頭において、前を向いていけば必ず道は開けると信じています。


<編集後記>

 

経済同友会という立場から持続可能な経営を目指し社会の変革に挑む姿は、田村さんの言う「メインストリームにいながら変革を続けるリーダー」のロールモデルだ。第一線で難局を乗り切ってきた経験を語る言葉は迫力とリアリティがあり、心に響くものだった。

 

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    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

  • 第17期コア・プログラム
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    (鈴与株式会社 代表取締役社長)

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