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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第13期コア・プログラム
特別セッション
「"不平不満"のエネルギーから"夢"をつくりだす」

講師:くらた まなぶ
(株式会社あそぶとまなぶ 代表取締役)
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2015年4月23日

くらたまなぶさんは、リクルート時代に『とらばーゆ』『abroad (エイビーロード)』『FromA (フロム・エー)』『じゃらん』など14ものメディアを立ち上げた実績から、「創刊男」の異名を持つ。斬新なアイディアをどのように形にしてきたのか。常に新時代を切り開いてきた経験から練り上げられた独自のマニュアルをベースに、そのスキルを学ぶセッションが繰り広げられた。

 

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ブレストで、できる限り大風呂敷を広げる

 

自身が手がけてきた14のメディア立ち上げを「14の事業を起業したようなものだ」と振り返るくらたさん。新規メディアを通してそれまでにないビジネスを開拓してきた経験から力説するのは「“夢”をつくりだすのは、“不平不満のエネルギー”である」ということだ。「現状の不平不満をベースにして、それをひっくり返せば世の中はよくなる。私はそうやってたくさんの新しいメディアを作ってきました」。kurata_5.jpg
くらたさん自作のマニュアルによると、その基本は「気持ちを聞く」「言葉にする」「カタチにする」というプロセスだ。具体的には、ヒアリングを重ね、それを元にブレイン・ストーミングを繰り返し、最後に実際にどれを採用するかを決定する。後半の決裁会議の段階は左脳を使ったソロバン・金のモードだが、前半のヒアリングとブレストの段階は右脳を使ったロマン・夢のモードだ。「決めるための会議も必要ですが、それ以上に重要なのが、ブレストなのです。20年間にわたって私がつくり出してきたメディアはすべてブレストで生み出したもの。これまでの経験を通して、私はこのブレスト力を高めるための技能を作り上げてきました。物事を決めるためのロジカルな手法については他の講師の方からもお話があると思うので、今日はブレストの技能を、体育の授業のごとく鍛えてもらいたいと思います」。
そもそも、ブレストとは1950年代にアメリカの広告会社の創業者であるアレックス・F・オズボーン氏が提唱した集団発想手法で、「絶対に他人の発言を否定しない」、「ばかげた発言ほどいい」、「全員がなるべく多く発言する」、「ひとの発言にどんどん上乗せしていく」という4つのルールがある。「要するに全員が自由にたくさん発言しようということです。重要なのは、どれだけカッコイイ大風呂敷を広げられるかということ。きわめて楽観的に、出して、出して、出しまくりましょう」。

 

 

大枠の概念ではなく、リアルな情景を思い描く

 

ブレスト中の発言の仕方を身に着けるための初歩的なエクササイズとして、この日全員で取り組んだのが「~じゃないゲーム」だ。kurata_3.jpg与えられたお題は「Tシャツを洋服として着る以外の定義で<Tシャツじゃない利用法>を考える」というもの。ゲームの説明もそこそこに、49人の出席者全員に次々とマイクが渡されていく。「旗」と答えた塾生に対してすかさず「それは誰が持ってるの?」などと尋ねるくらたさん。一つひとつの発言をホワイトボードに書き留めながら、「じゃあ、自分が持っていることにします。」「それどこで?」「外です」「外のどこ?」「公園」「どこの公園?」と間髪入れずに鋭い問いを投げかけていく。
「まず意識するべきなのは、大枠の概念から入らないことです。実際のブレストをやっていても、発言に詰まりそうになるとつい「介護」とか「高齢者問題」というような大枠の概念に寄ってしまいがちです。そうではなく、できるだけリアルな描写を心がけることが大事なのです」。
このゲームにおいても、単に外というのではなく、どこの公園なのか。門から何メートルぐらいのところなのか、という具合に、どんどん具体的に描写していくよう求められる。漠然と「外」と言っていたときにはぼやけていた映像が、「日比谷公園の虎ノ門に近い入口から13m入ったところ」などと具体化することで、映画の1シーンのごとくはっきりイメージできるようなる。「細かいテクニックとしては、“10m”よりも“13m43cm”というように、例に挙げる数字はできるだけ半端なものを目指してみましょう。映像表現となるようなシーンやストーリーを瞬時に描けるようなスキルを鍛えてください」。

 

事実をベースにフィクションを加える

 

最初は戸惑い気味だった塾生たちも、次第にこのゲームの意図を理解し、「水風船」「メモ用紙」「使い捨て包帯」「ブラインド」「コースター」など、各自が頭をひねったさまざまな斬新な「Tシャツじゃない利用法」がテンポよく披露されていく。kurata_11.jpgしかし、くらたさんのツッコミも留まることがない。「“じゃあ、~ということにします”とか“仮定の話なんですけど”などという前置きはいりません。みなさん、ロジカルに正しいことを言おうとマジメに考えすぎ。これはブレストのためのレッスンなのだから、嘘八百でいい。100%嘘では無理があるだろうから、現実の体験をベースにしてフィクションを加えていけばいいのです。事実にフィクションをプラスするというのは、小説家が当たり前にやっていること。概念から入ると個人がなくなってしまいがちですが、ブレストでアイディアを広げるときには、本音を出すということがすごく重要なのです」。kurata_10.jpg
次に指摘されたのは、前の人の発言のパターンを踏襲しないことだ。「“私は~に使います”というパターンが続いていますね。そんなルールはないので、主語は自分以外の誰かでもいいし、違う言い方を考えてください」。
ダメ出しだけではなく、「滑舌が良い」「ジェスチャー入りが良かった」「笑い声がいい」など、いいところを褒めることで、「ブレスト時の良い発言例」にも触れていく。「自分は無意識でやっているかもしれないが、褒められたことによって今後はそれを自覚してください」。

 

 

あいづちの四段活用

 

セッションの後半で取り上げられたのは、ブレストの基本4ルールのひとつである「他人の発言を否定しない」というポイントについてだ。どんなに馬鹿げていると思われる発言に対しても他のメンバーはそれを否定してはいけない。そこで、否定できないことを苦しく感じる場合のテクニックとして、くらたさんはあいづちの活用を推奨する。kurata_7.jpg
「あいづちの打ち方にも初心者から理想形まで4段階あります。私はこれをあいづち四段活用と呼んでいます」。まずは首を縦に振ってうなづくだけのあいづち。次に「あ行」「は行」を使ってあいづちを打つ。一般的には「あ~」「は~」「お~」「ほ~」を使う人が全体の85~90%を占めるという。「これらの音を使ったあいづちは普段から使い慣れているのに対して、同じ「あ行」「は行」でも「い」「ひ」「ふ」などを使ったあいづちはハードルが高くなります。ブレストでは、こういう普段使わないあいづちも意識してなるべく使った方がいいのです。なぜなら、その方が非日常でおもしろいからです」。
ブレストから新しいものを作り出そうとするからには、今ないものを考えださなくてはならない。その場で普通は「ああ」とか「ほー」とかいうところを「ひいぃ」などという変わったあいづちを打つ人がいたら、それだけで笑いだしてしまう。ありがちなあいづちだけではなく、さまざまな音を取り入れてバリエーションを持たせることが効果的なのだ。
あいづちの3段目の活用は、「そうですねぇ」「なるほど!」など言葉を使ったあいづちだ。「私の仕事相手の中に普段の日常会話から“なるほど”ばかり言っている男がいました。ブレストでも何度も言う。これは彼をけなしているわけではなく、ブレスト相手としてとてもやりやすかったという例です。なぜなら、彼の“なるほど”はひとつとして同じものがない。“なるほどー”、“なーるほど”、など、イントネーションや声色などで実にたくさんのバリエーションがあるのです。今私がこうやってマネしてだけでも皆さん笑いますよね。これがブレストの場だとしたら、とてもポジティブな空気になります。明るくなるし、楽しくなる。こういう空気を作ってくれる人はパートナーとしてとてもやりやすいです」。
最後の4段目の活用は、とにかく相手を褒めること。「すごいね~」「さすがだなぁ」などと言葉で褒めるのもよし、笑い声でリアクションするもよし。「演技でもかまいません。素でできる人はそれを自覚して意識的な技術として使ってください。相手の言っていることを褒めるのがむずかしければ、髪型や靴など相手の身なりなどを褒めてもいい。最初は照れくさくても、やっているうちに慣れていくし、自分が褒められる側になれば、どれだけそのシャワーが気持ちいいかが分かります」。

 

質疑応答

 

【塾生】
自分も職場で世の中の人の夢を叶えるような仕事をしています。しかし、気がつくと、叶えるための夢を探しているようで、手段と目的が逆になってしまっているようにも感じています。くらたさんは、何を見て夢を形にしているのでしょうか。
【くらたさん】
あなたは、最初から夢が勝ちすぎているんだと思います。まずは夢ではなく不平不満です。不平不満を外から探してきてそれをひっくり返して現実にしていくための解決策を探していく。ヒアリングを通して夢のかけらを集めるのです。次なる夢に向かっていくためのガソリンは現状の不平不満なのです。

【塾生】
ヒアリングで、相手自身が気付いていない不平不満を聞き出すにはどうしたらいいでしょうか?
【くらたさん】
ヒアリングで一番聞きたいのは、その人のネガティブな「気持ち」です。でも、いきなりそんなことを聞けないし、相手も答えられません。最初は人間の一番外側にある属性、つまり、名前、年齢、職業などから始めるのが、聞きやすいし、相手も答えやすいでしょう。そこから始めて次にテーマに関係する体験を聞く。たとえば旅がテーマなら、誰と?どこに?何をした?食事は?などどんどん聞いていく。次に以前はどんな旅をした?今後はどんな旅をしたい?と過去や未来を聞く。そして初めて、なぜそこに行ったか?不満なことはない?と展開していき、「天気が悪くて景色が楽しめなかった」などということから、旅行会社や旅館への不平不満が出てくれば成功です。kurata_8.jpg

【塾生】
ブレストのテーマは、抽象的なこと具体的なこと、どちらがふさわしいのでしょうか?
【くらたさん】
どちらでもいいです。ブレストとは大風呂敷を広げるためのノウハウなのですから、看板は何であろうと広い方がいい。そして、とにかく質より量なので、数をこなすことを考えると抽象論だけでは無理で、いやでも具象がたくさん出てくるはずです。今のあなたの質問の裏には、そういう疑問を持つこと自体、ミーティングでは何かを決めなくてはいけないという思い込みがあるのだと思います。

【塾生】
ブレストの次の、決めるためのステップでは、最終的にどれかの案を残して他を削ったり結合したりすることになると思います。そのときには否定的な発言も出てもいいのでしょうか?
【くらたさん】
否定しないというのはブレストにおけるルールです。決済会議はブレストとは違って対極にあるものです。ブレストで広げた大風呂敷をたたんでいくのが決裁会議であって、決めることが目的なので、悪いところを探して否定しまくってかまいません。

【塾生】
ブレストの続きを居酒屋でやるというのはどうでしょうか?
【くらたさん】
結果のためには、できるだけ公私混同するのがいいと思っています。ただし、アルコールは脳を麻痺させ、飲めば飲むほど言葉の技術を低下させます。ブレストは覚醒する作業なので、そういう意味ではあまりよくないかもしれません。

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<クロージングメッセージ>

 

 今日ご紹介したマニュアルは、私自身がメンバーたちとブレストを重ねる中で、今の言い方はどうだったということを話し合いながらつくり上げてきたものです。「~じゃないゲーム」を通して、みなさんにブレストのエクササイズを体験してもらう中で、私はさまざまなアドバイスをしました。初めてのことなので戸惑いもあったでしょうが、「とにかく言われた通りにやってみる」というトレーニングでした。世の中には論理性でばかり考えて、やりもしないで「そんなことをやってどうする?」と言う人がいますが、とにかく騙されたと思ってやってみてください。そして、このブレストのための私のマニュアルを、みなさんがこの文明塾で今後行うグループ発表に向けて役立ててもらえればと思います。

 

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<編集後記>

 

とても個性的なキャラクターを持つくらたさんに圧倒されながらも、次第にその魅力に引き付けられていった塾生たち。今後、いろいろな場面で新しいアイディアを生み出す際に応用できそうな一つの手法として、具体的な示唆に富むワークだった。

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次回予告

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