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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第12期 コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「自分のキャリアディベロップメントを考える」

講師:笹本 裕
(株式会社WESYM取締役会長 株式会社Twitter Japan代表取締役)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2014年11月6日

日本では、定年退職まで同じ会社にずっと勤め上げることが一般的とされてきた。そんな中で笹本さんは、外資企業への転職や起業を繰り返しながらキャリアを積み重ねてきたという経歴を持つ。その歩みを伺いながら、自らのキャリアディベロップメントをどのように考えて行けばよいのかを考えるセッションとなった。

 

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 悩んだときには、止まらずに、とにかく動く


 父親の仕事の関係でタイに生まれ、オーストラリアにも6年住むなど、海外在住経験を持つ笹本さん。語学力を活かして大学在学中はNBCニュースで特派員通訳のアルバイトに没頭した。その経験で感じた「メディアに関わる仕事をしたい」という想いが、その後の自らのキャリアのベースになっていったという。
 大学卒業後はリクルートに入社し、社内の留学制度を利用してニューヨーク大学のビジネススクールに2年間通いネットビジネスの基本を学んだ後、同社のインターネット事業立ち上げに携わる。その後、独立して起業するが道半ばで売却を余儀なくされ、リクルート時代の人脈が縁でMTVジャパンに入社した。sasamoto_10.jpg社内のリストラと売上アップという厳しいミッションもクリアし、充実した日々を過ごしたが、「行くところまで行ってその先には何を貢献できるのだろう」と感じていた頃に、マイクロソフトからネット事業の立て直しをして欲しいとオファーを受け、悩んだ末に転職。日本人として海外でチャレンジしてみたいという夢が叶い、翌年からはシンガポールでアジア太平洋地域の統括を任されることになった。しかし、やはり自分で事業を立ち上げたいという思いが強く、2011年には再び独立。クラウドファンディングの事業を手がけると共に、2014年からはTwitter Japanの代表取締役にも就任している。
 こうした自らの歩みについて笹本さんは、「直線的な右肩上がりではなかった」と振り返る。「特に、最初に起業した会社を手放さざるをえなくなったときは、本当に落ち込みました。自分の人生は終わったとも感じましたが、そこから先はセカンドチャンスのつもりで臨みました」。
 様々な経験を通じて学んだのは、「悩んだらとにかく動く」ことなのだという。「動いているうちに答えが出てくるのです。それは人と話をするだけでもいい。悩んでいるときに人と話すと、直接答えを求めなくても、言葉の中から自分の頭が整理されていくことも多いもの。だから、とにかく止まらないことは大事だと思います」。
 そして、これまでの歩みの中で精神的に大きな影響を与えているのは、リクルート時代の社訓であった「自らの機会を作り出し、その機会によって自らを変えよ」という言葉だ。「今までの歩みを振り返ってみても、自分で機会を作り出すことで自分が変わってきたという実感があります。そして、自分が変わると次のステージが見えてくる、そんな気がしています」。

 

 

どんな風に人生を終えたいか、そのために今はなにをすべきか


 笹本さんは、自分のキャリアディベロップメントを考えるとき、「自分は人生の最後をどんな風に終えたいのか」ということを自問自答する。30歳の頃に友人との会話の中で出てきたこの問いは、自分の歩むべき道を考える際の基本になるのだという。「一度きりの人生、どんな風に終えられれば自分は幸せだと思えるのか。そして、そのためには、今は何をすべきなのか。決断を迫られたときは、常にこのことを考えるようにしています」。sasamoto_3.jpg
 転職すべきか、起業すべきか、決断に迷ったときには、メンターとしての叔父の存在も大きかった。「人生に必要なのは財力・家族・健康の3つ」というのが、叔父から受けた教えの基本だ。財力とは金銭的なものだけでなく、人も経験も含む。「そういう意味で投資をしろということは若い頃から言われていました」。
 MTVからマイクロソフトに移るときも、相談した10人中9人が反対する中で、唯一叔父だけが賛成したという。「野球でいえばマイクロソフトは大リーグ。ビジネス界で松井やイチローになりたいと思うなら、大リーグに行くべきだ」というのが叔父のアドバイスだった。「実際に行ってみるとさすがに大リーグは寝る間もないほどの忙しさでしたが、海外でチャレンジしてみたいという念願が叶ったのはうれしかったですね」。

 

 

マイクロソフトで学んだもの


 マイクロソフト時代には、キャリアディベロップメントを考える上でも多くのことを学んだという。たとえば、「First 30, 60, and 90 daysを策定する」という考え方。最初の3カ月で何をやるのか。そのためには最初の30日で何をし、次の60日目までに何をし、そして90日目までにこれをやるというプランを考える。sasamoto_2.jpg「その中で私が工夫したのは、エクセルの横軸に時間を、縦軸には人、モノ、カネを入れ、この30日間で人との関係はどうするのか、自分の扱う製品はどう対応するのか、資金はどうするのかということを考えます。これをやると、少なくとも最初の90日間のキャリアのあり方が見えてくるのです。これは、3年、6年、9年というスパンでの考え方にも応用できるのではないでしょうか」。
 さらに、後継者を策定するというミッションを経験したことも勉強になった。会社のリスクヘッジのため、自分が倒れたときにその任務を引き継げる人物を考えるよう要求されたのだ。「後継者には誰がふさわしいか、彼はまだこの部分が不足しているなどと考える中で、自分自身に欠けている部分も見えてきました」。
 さらに、苦境に陥って精神力を試されていると感じるときに思い出すのは、ビル・ゲイツからもらった「誰でも1万時間の情熱をずっと変わらずに続けられれば成功する」という言葉だ。寝食や休憩時間を考慮して単純に計算すると、1万時間は3年分ぐらいに相当する。まさに石の上にも3年だ。「私自身も資金調達ができるまで3年ぐらいかかりましたが、本当にもうダメだ、あきらめようかと思ったときにこの言葉を思い出し、我慢を続けていたら、ちょうど3年目にエンジェルが現れるという幸運に恵まれました。ネットなどでもよく見かける言葉ではありますが、直接ビル・ゲイツ本人からその言葉を聞ける機会を持ったことは私にとっての財産になっています」。

 

 

「世のため人のため」をベンチマークに


 さまざまな職歴を経験した後、2011年には、WESYMというクラウンドファンディング事業を立ち上げ、現在に至っている。WESYMとはWe seed your missionの頭文字を取った造語である。「さまざまな製品やアイディアがある中で、世の中に出回るのは上位の1%しかないと言われています。それなら、無駄になってしまっている99%に応援なり資金なりで光を与えることできれば、未来はもっと豊かになっていくのではないか。そんな思いで始めた事業です」。同時に、他人の人生のミッションを応援しているうちに、自分の目指しているものも顕在化されてくるのではという期待も持っている。sasamoto_8.jpg
 それまでの経験から、起業の決断にはタイミングも大事だとも感じていた。「つまり、適材適時適所です。判断の軸には常に時間という軸が必要だと思います」。このときの年齢が48歳。「体力は運動で維持できても、50を過ぎたら精神力が続かないだろうと思いました。実際に精神力が必要とされる場面は多いので、もし50歳を過ぎて始めていたら、半年ほどであきらめていたかもしれません」。
 笹本さんが、今後の自分がどうありたいかを考える上で思い出すのは、日本赤十字の院長を務めた祖父の姿だ。「祖父は常に余のため人のためになれと言っていました。WESYMを立ち上げた背景には、そういう思いもありました。この言葉は、今後の私のキャリアの中で、正しい道を歩んでいるかどうかを問うベンチマークとなっていくのだと感じています。

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質疑応答


【塾生】
違う会社でキャリアを重ねる中で、メディアにかける思いは変わってきましたか?
【笹本さん】
メディアというのは情報を伝える手段だと考えています。所属している会社やサービスは違っても、自分自身の中にあるのは、映像やインターネット、情報誌さまざまな媒体を通して情報を伝える手段への興味関心であることは変わりません。

【塾生】
「石の上にも3年」とは言っても、キツイ状況の中での3年はとても長く感じると思います。それは情熱だけで乗り越えられるものでしょうか?
【笹本さん】
プライドもあると思います。私の場合は、一度起業で失敗した経験があったので、それを繰り返したくないという思いがあったし、マイクロソフトという自分にとって魅力的な仕事を捨ててまでこれに賭けたのだという気持ちもありました。結局は「もっと続ければ何か答えが見つかるのではないか」という粘りのようなものが情熱なのだと思います。単に熱くなればいいということではなくて、あきらめない気持ちを持ち続けることができるか?ということではないでしょうか。

sasamoto_11.jpg【塾生】
ご自身がいろいろな会社から引き抜きのオファーを受けている理由はなんだと思いますか?

【笹本さん】
ひとつは、物事をフレームワークで説明できるということでしょうか。先ほどの30,60,90 daysの話でいうと、人・モノ・カネで最初の30日に何をしていくべきかというフレームワークで自分の仕事を考えて説明できること。そこが面接のときに大きく評価されているのかなと思います。もうひとつは行動力。石の上にも3年という3年が、ただ我慢している3年ではなくて、常に行動をしてきた3年であり、それがどういう結果を引き起こしてきたかというのは、大いに評価の対象になったと思っています。コイツなら石を動かしてくれるのではと見込まれたのかと思います。

転職には、その企業のカルチャーにフィットするかどうかという問題も大きいでしょう。そういう意味では、自分の持っている内面が、その企業の持っている価値と一致していたのでしょうね。

【塾生】
MTVでもマイクロソフトでも、中途入社した立場でポジションを上げている秘けつはなんでしょうか。
【笹本さん】
自分がどういう風に行動をしたか、将来それがどうつながっていくかということを、ひとつのストーリーとしてしっかり見せていくことが、結果的に次のポジションを与えられるきっかけになったように思います。sasamoto_5.jpg

【塾生】
フレームワークを描くという話がありましたが、笹本さんの場合、それは既存のものを応用しているのか、それとも自分の経験から作り出したものなのか、どちらでしょうか。
【笹本さん】
両方の組み合わせだと思います。そもそもフレームワークという考え方自体は学んだことですし、ビジネススクールではたくさんのフレームワークを見せてもらいました。ただ、それをどう応用して自分なりのフレームワークを描けるかは自分自身の内面の問題です。伝えたいという強い思いをどうやったら相手に分かりやくできるか。その伝え方のひとつとしてフレームワークを活用しているということです。

【塾生】
企業のトップの立場として、中途で入社する人材のメリットとデメリットをどう感じていますか?
【笹本さん】
中途採用にあたって評価するのは、まずは経験です。その人が持っている経験が会社にどう活かされるかを見ます。また、ひとつの所に長い間いた人が違う会社で働くことはとても勇気のいることなので、違うカルチャーへの順応性も大事なポイントになってきます。

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クロージング


人生もキャリアも、計算して組み立てられるものではないかもしれませんが、それでもある程度は、自分がこうありたいという方向性を持っていれば、叶うものもあるのだと思います。ぜひ皆さんの今後の人生とキャリアが最高なものになることを願っています。

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編集後記


華麗なるステップアップの裏には、そのときどきで弱気や迷いもあったことを包み隠さず語ってくれた笹本さん。リアルな心情を伺うことができ、より人間的なリーダー像として身近に感じられると同時に、それでも前に進んでいくための心持ちも学べる貴重な体験となったと思う。

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