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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第11期 コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
新しい働き方と、そこで求められるグローバルリーダーとは

講師:橘 フクシマ 咲江
(G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2014年6月26日

 

大企業のトップに外部の人材が抜擢される事例が増えてきた。本日の講師であるフクシマさんは、そうした企業から依頼を受けたヘッドハンティングで多くの実績を持ち、ご自身も複数の企業の社外取締役を務めている。国際的な現場での豊富な経験から、グローバル化が進む今、必要とされるリーダー像についてお話を伺った。
人材とは人財である
冒頭にまずフクシマさんが指摘したのは、「人材」とは「人財」であるという点だ。「人には市場価値という値段があります。そして流動性のある人財市場が存在するのです」。しかし、1990年代にフクシマさんが仕事を始めた頃の日本社会には、人に値段を付けることに大きな抵抗があった。最初の著書『売れる人材』(2000年)を出したときも、「財」の字を用いることはできなかったという。
その後、2007年に出版した本には『人財革命』というタイトルを付けることができた。「この7年間で、日本の社会でも人に対する考え方が変化してきたことを感じています」。
もうひとつ、フクシマさんがこだわるのは「ダイバーシティ」という言葉の定義だ。「性別を対象に使われることが多いですが、今では国籍、人種、宗教、年齢、その他さまざまなダイバーシティの要素を議論する時代なのです」。
たとえば、性別は女性、国籍はアメリカ人、人種はアジア系、宗教はキリスト教、年齢は70歳、住んでいるのは日本という人がいたとする。ひとりの人の中にも、これだけのダイバーシティの要素があるということだ。「私が20年間さまざまな国の人たちと仕事をしてきて得た結論は、国籍や性別はその人のひとつの個性に過ぎないということです。ですから、『女性だから』『アメリカ人だから』など、カテゴリで他人を判断しないことを自分自身に課しています」。一人ひとりを数多くの要素を併せ持った個人として見ることで初めて、国籍・性別などに関係なく最適な配置や育成が可能になるのだという。「ただし、現実には女性の登用がまだ進んでいないので、しばらくは女性をカテゴリとして施策を進めていく必要はあるでしょう」。
さらにもうひとつこだわっているのは、適材適所に人を配置し、育成し、活用、登用することが、企業の成功にとっては一番重要だということだ。現在の日本の企業は、可能性を持った新卒を採用し、育成のための適所につけながら育てていくという考え方が強い。つまり、人を中心とした適材適所という考え方だ。
「私は、これに加えて適所適材という考え方を日本企業も取り入れた方がいいと考えています」。適所適材とは、ポジションがすでにあり、そこに必要な要件も分かっているところへ、それを兼ね備えた人を連れてくるということだ。それは、社内からもしれないし、社外からの場合もある。それは、まさにフクシマさんがヘッドハンターとして手がけてきたことにもつながる。「ただ、この場合、その人財がすでにそのポジションに最適の要件を持ち、市場価値があることが前提ですので、かなり上のポジションに限った話にはなります」。
アジア型・欧米型のハイブリッドなリーダーシップ
最近の経済状況は、従来の欧米中心から急速に新興国へとシフトしている。今後も、世界のGDPに占める割合はOECDの国々が減り、非OECDの国が上がると予測されている。
こうした経済の変化は、人財市場にも大きな影響を与えており、リーダーシップ自体のあり方についても、変化がみられるという。アジアと欧米とではリーダーシップに求める要素に若干違いがあり、欧米では戦略や財務、論理性などを重んじるのに対して、アジアでは戦術や人間関係、感情や心を大切にする傾向がある。また、欧米では起業家精神が尊ばれるのに対し、アジアでは組織の利益への思い入れが強いともいわれる。
こうした違いがある中で、以前は欧米型のリーダーシップを持っている人に市場価値があった。しかし、最近は欧米型、アジア型どちらの要素も兼ね備えた人を求めるようになっている、あるいはそうなっていくだろと考えるエグゼクティブが増えているという。「どこの国に行ってもきちっと結果を出すには、アジア型、欧米型どちらも持ち合わせたハイブリッドなリーダーシップが求められるのです」。
今、日本で求められるグローバル人財とは
こうした人財市場の動向の中で、日本で求められているのはどんな人財なのか。広く認知されているマクロな課題としては、労働人口の減少という問題がある。それに加えてミクロの課題としてフクシマさんが指摘するのは、「適財」としてのグローバル人財の不足と、人財のダイバーシティ不足という2点だ。
今日本の企業が実際に求めているグローバル人財とは、変革者的な人財なのだという。ところが、日本にいる潜在的な候補者は、ドメスティックな知識人か管理者的人財ばかりで、需要と供給のミスマッチがある。「でも、ここ5年ぐらいは大分変わってきてはいるようです」。
グローバルに求められる人財をもう少し具体的にみてみよう。「まずはグローバルに国境を越えて活躍できる人です。それは単に体の問題ではなく、大事なのはマインドセットです」。
たとえば、韓国の企業などは、そもそも大陸と地続きであることもあり、中国の市場を自分たちの第二の母国市場だと捉えている。ところが島国である日本は、どうしても国内と海外の市場を分けて考える傾向がある。「これだけICTが発達した時代には、政治は国境が残りますが、皆さんもネットで海外から買い物をされるなど、経済活動は国境の存在が薄くなっています。」
2つ目は、「特定の組織に属さない、汎用性の高いプロフェッショナルなスキルを持つ起業家的人財」だ。日本の場合、ひとつの会社にずっと勤めるケースが多いこともあり、ひとつの組織で非常に優秀だと言われた人が、転職して他の組織、インフラに行くと思ったほど実力を発揮できないというケースも少なくない。「分かりやすい例でいうと、包丁一本でどこでもおいしい料理を作れる板前さんのような人が、汎用性の高いプロフェッショナルなスキルを持った人ということです」。
3つ目は「変革のための創造的問題解決能力を持つ人財」。創造的問題解決能力というのは、今までの人間関係が通用しないアフリカの奥地に行っても、1から自分の経験を引き出して問題解決できる人のことを指す。国籍や性別に関係なく、これらの特質を備えた人こそがプロフェッショナルな変革者的な人財だと、フクシマさんは定義している。
日本の場合は、いろいろなポジションを回って適材適所で育成をし、ジェネラリストが育つケースが多い。「しかし、私の定義しているプロフェッショナルとは、一つの領域で誰にも負けないという専門的スキルを持ちながら、マネージメント力も持った、いわば社長にもなれる人です。先ほどの板前さんの例でいえば、戦略性や経営力もある料理人という意味です」。
日本人の弱みと強みとは
フクシマさんがクライアントの案件を受けたときは、人財要件を整理した枠組みを作り優先順位を付けてもらった。その枠組みとは、まず「個人的資質」と「専門的資質」に分けられる。「個人的資質」とは大学を卒業するまでに培われる「基礎的能力」と「性格」であり、「専門的資質」とは「職務体験」とそこから培われ「職務能力」だ。人財としての人は個人的資質を持って企業に入り、職務経験を通じて職務能力を身に付け、その一部が基礎的能力となって定着し、キャリアを築いているとのこと。
このうち、日本企業であまり育ててこなかった要件は、たとえば「戦略的思考」だ。傾聴力はあるが「説得力」が少ない。また自分で自己完結型の仕事をしたり、自らキャリアを作っていったりという意味での「二つのジリツ(自立、自律))が弱い。さらに「起業家精神」や「ダイバーシティへの感性や関係構築力」も不足していたという。実際にフクシマさんが人財を探していて一番苦労するのは、多様性、ダイバーシティへの対応力だったという。
フクシマさんが提唱するのは、「外柔内剛」という姿勢だ。自分の信念を譲らすに、外には柔軟に、したたかに対応していく。「日本人は大変インテグリティが高いと言われています。私自身も日本の企業は真面目だと感じています。その誠実さという部分は決して譲らすに、しかし世界にはさまざまな国があり、さまざまな価値観があるので、したたかに対応していくことが必要なのだと思います」。
対話と議論
【塾生】日本人は戦略的思考が弱いという指摘がありましたが、どうすれば培っていけるものでしょうか。
【フクシマさん】
戦略的思考とは、ひとつはロジックをどう積み立てていくかということす。日常生活の中でも、起承転結で考えていくとよいでしょう。それから、本でもWebでもよいので、MBAで教えているような概念を身に着けることです。MBAの概念というのは世界共通のものであり、それぞれのビジネスの構成領域で骨になるものを教えてくれます。戦略的思考に重要な仮説検証のトレーニングにもなるし、いろいろな選択肢の中から意思決定をしていく方法も学べます。こうした方法でビジネスの全体像をつかんで、バリューチェーンの流れを整理して、その中での自分の仕事の位置づけを頭に入れて仕事をすると、仕事がしやすくなると思います。
基礎概念が頭に入ったら、さまざまな課題をシミュレーションしてみるとよいでしょう。たとえば、今自分が東電の社長だったらどうするのか。自分の会社の課題を自分ならどう解決するのか。そういうことを「自分ごと化」して考えてみることで、戦略性は育っていくと思います。
【塾生】女性の力を発揮していくためには、具体的にどんな策が考えられますか?
【フクシマさん】
日本は今、制度的なことは国際的に見ても整備されているのですが、問題はマインドセットです。特に中間管理職のマインドがなかなか変わらなかったのです。企業のトップの方はかなり認識されていますし、みなさんのような若い方も、男女共同参画の意識をしっかり共有していると思います。是非、特に若い男性にはご自分の「育児権」を主張して欲しいと思います。ただ、女性を登用したくても、ロールモデルとなる人が自分のまわりにいないので、どうしたらいいのか分からないという声も今でもあります。経済同友会では経営者の女性登用の行動宣言を出したり、女性と共に参加するリーダーシッププログラムを用意したりしていますが、そう言う方法で男性にも優秀な女性との協働に慣れていってもらうということも有効だと思います。
【塾生】現場で働いていると、どんなに何かを変えようとしてもまったく変えることができません。やはり日本の特殊性のようなものがあると感じるのですが、どう考えますか?
【フクシマさん】
日本人は横並びが好きなので、誰かが変わって成功しないと誰もやりません。企業も、じっと眺めていて、誰かがやりだし手成功したらうちもやろうとなります。そう言う意味では、確かに変化するまで時間がかかりますが、横並びが良い方向へ作用して、いったん進み出すと意外に早いと思います。私は、この課題については最近、「半分しかない」と思うよりも「半分もある」という捉え方をするようにしています。
【塾生】迷ったときに立ち戻るような、フクシマさんが持っている信念について教えてください。
【フクシマさん】
私の場合は、できるだけ人にも自分にも誠実でありたいと思っています。単純な例で言えば、ウソをつかない、言い訳をしない、人のせいにしないといったことです。実際にできているかどうかは分かりませんが、その辺は自分の「外柔内剛」のコアになっているし、非常に大事に思っています。
【塾生】インテグレティを高めるために、日々心がけていることはありますか?
【フクシマさん】
毎日ひとつでも新しいことを知りたいと思っています。たとえば新聞を読んでよく知らない領域のことがあったら調べてみるとか。すぐに忘れてしまうのでなかなか蓄積できないのですが、それでも、何か新しい知識が自分の中に毎日積み重なるように努力はしています。
<クロージングメッセージ>
自分のキャリアは自分でつくる
今日は皆さんにいろいろなご質問をいただいて、私自身も考えさせられ、勉強になりました。これから働く場はますますグローバルになっていく中で、皆さんにはぜひ、新しい働き方を見つけていってもらいたいと思います。ワークとライフのバランスではなく、両者をインテグレーションして、長期的に続けられるような、幸せになれるようなワーク・ライフ・マネジメントの出来るキャリアを築いてほしいというのが、私の願いです。そのためには、プロジェクトベースで働くとか、会社に縛られない働き方も考えられるでしょう。組織に所属しないことに不安を感じる人もいると思いますが、それを補えるようなビジネスモデルもどんどん出てくると思います。そういうものをよく研究をして、自分のキャリアは自分でつくるという発想でがんばってください。
<編集後記>
グローバルビジネスの最前線で活躍する敏腕ヘッドハンター。そんな肩書きからは想像できない柔らかな語り口は、まさに内柔外剛そのものという印象だ。現場を知るからこその鋭い分析は、ビジネスの現場での「人財市場」をリアルに伝えてくれるものだったと思う。

大企業のトップに外部の人材が抜擢される事例が増えてきた。本日の講師であるフクシマさんは、そうした企業から依頼を受けたヘッドハンティングで多くの実績を持ち、ご自身も複数の企業の社外取締役を務めている。国際的な現場での豊富な経験から、グローバル化が進む今、必要とされるリーダー像についてお話を伺った。

 

 

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人材とは人財である

 

 

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冒頭にまずフクシマさんが指摘したのは、「人材」とは「人財」であるという点だ。「人には市場価値という値段があります。そして流動性のある人財市場が存在するのです」。しかし、1990年代にフクシマさんが仕事を始めた頃の日本社会には、人に値段を付けることに大きな抵抗があった。最初の著書『売れる人材』(2000年)を出したときも、「財」の字を用いることはできなかったという。

 

その後、2007年に出版した本には『人財革命』というタイトルを付けることができた。「この7年間で、日本の社会でも人に対する考え方が変化してきたことを感じています」。

もうひとつ、フクシマさんがこだわるのは「ダイバーシティ」という言葉の定義だ。「性別を対象に使われることが多いですが、今では国籍、人種、宗教、年齢、その他さまざまなダイバーシティの要素を議論する時代なのです」。

たとえば、性別は女性、国籍はアメリカ人、人種はアジア系、宗教はキリスト教、年齢は70歳、住んでいるのは日本という人がいたとする。ひとりの人の中にも、これだけのダイバーシティの要素があるということだ。「私が20年間さまざまな国の人たちと仕事をしてきて得た結論は、国籍や性別はその人のひとつの個性に過ぎないということです。ですから、『女性だから』『アメリカ人だから』など、カテゴリで他人を判断しないことを自分自身に課しています」。一人ひとりを数多くの要素を併せ持った個人として見ることで初めて、国籍・性別などに関係なく最適な配置や育成が可能になるのだという。「ただし、現実には女性の登用がまだ進んでいないので、しばらくは女性をカテゴリとして施策を進めていく必要はあるでしょう」。

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さらにもうひとつこだわっているのは、適材適所に人を配置し、育成し、活用、登用することが、企業の成功にとっては一番重要だということだ。現在の日本の企業は、可能性を持った新卒を採用し、育成のための適所につけながら育てていくという考え方が強い。つまり、人を中心とした適材適所という考え方だ。

 

「私は、これに加えて適所適材という考え方を日本企業も取り入れた方がいいと考えています」。適所適材とは、ポジションがすでにあり、そこに必要な要件も分かっているところへ、それを兼ね備えた人を連れてくるということだ。それは、社内からもしれないし、社外からの場合もある。それは、まさにフクシマさんがヘッドハンターとして手がけてきたことにもつながる。「ただ、この場合、その人財がすでにそのポジションに最適の要件を持ち、市場価値があることが前提ですので、かなり上のポジションに限った話にはなります」。

 

 

アジア型・欧米型のハイブリッドなリーダーシップ

 

最近の経済状況は、従来の欧米中心から急速に新興国へとシフトしている。今後も、世界のGDPに占める割合はOECDの国々が減り、非OECDの国が上がると予測されている。

こうした経済の変化は、人財市場にも大きな影響を与えており、リーダーシップ自体のあり方についても、変化がみられるという。アジアと欧米とではリーダーシップに求める要素に若干違いがあり、欧米では戦略や財務、論理性などを重んじるのに対して、アジアでは戦術や人間関係、感情や心を大切にする傾向がある。また、欧米では起業家精神が尊ばれるのに対し、アジアでは組織の利益への思い入れが強いともいわれる。

こうした違いがある中で、以前は欧米型のリーダーシップを持っている人に市場価値があった。しかし、最近は欧米型、アジア型どちらの要素も兼ね備えた人を求めるようになっている、あるいはそうなっていくだろと考えるエグゼクティブが増えているという。「どこの国に行ってもきちっと結果を出すには、アジア型、欧米型どちらも持ち合わせたハイブリッドなリーダーシップが求められるのです」。

 

 

今、日本で求められるグローバル人財とは

 

 

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こうした人財市場の動向の中で、日本で求められているのはどんな人財なのか。広く認知されているマクロな課題としては、労働人口の減少という問題がある。それに加えてミクロの課題としてフクシマさんが指摘するのは、「適財」としてのグローバル人財の不足と、人財のダイバーシティ不足という2点だ。

 

今日本の企業が実際に求めているグローバル人財とは、変革者的な人財なのだという。ところが、日本にいる潜在的な候補者は、ドメスティックな知識人か管理者的人財ばかりで、需要と供給のミスマッチがある。「でも、ここ5年ぐらいは大分変わってきてはいるようです」。

グローバルに求められる人財をもう少し具体的にみてみよう。「まずはグローバルに国境を越えて活躍できる人です。それは単に体の問題ではなく、大事なのはマインドセットです」。

たとえば、韓国の企業などは、そもそも大陸と地続きであることもあり、中国の市場を自分たちの第二の母国市場だと捉えている。ところが島国である日本は、どうしても国内と海外の市場を分けて考える傾向がある。「これだけICTが発達した時代には、政治は国境が残りますが、皆さんもネットで海外から買い物をされるなど、経済活動は国境の存在が薄くなっています。」

2つ目は、「特定の組織に属さない、汎用性の高いプロフェッショナルなスキルを持つ起業家的人財」だ。日本の場合、ひとつの会社にずっと勤めるケースが多いこともあり、ひとつの組織で非常に優秀だと言われた人が、転職して他の組織、インフラに行くと思ったほど実力を発揮できないというケースも少なくない。「分かりやすい例でいうと、包丁一本でどこでもおいしい料理を作れる板前さんのような人が、汎用性の高いプロフェッショナルなスキルを持った人ということです」。

 

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3つ目は「変革のための創造的問題解決能力を持つ人財」。創造的問題解決能力というのは、今までの人間関係が通用しないアフリカの奥地に行っても、1から自分の経験を引き出して問題解決できる人のことを指す。国籍や性別に関係なく、これらの特質を備えた人こそがプロフェッショナルな変革者的な人財だと、フクシマさんは定義している。

 

日本の場合は、いろいろなポジションを回って適材適所で育成をし、ジェネラリストが育つケースが多い。「しかし、私の定義しているプロフェッショナルとは、一つの領域で誰にも負けないという専門的スキルを持ちながら、マネージメント力も持った、いわば社長にもなれる人です。先ほどの板前さんの例でいえば、戦略性や経営力もある料理人という意味です」。

 

 

日本人の弱みと強みとは

フクシマさんがクライアントの案件を受けたときは、人財要件を整理した枠組みを作り優先順位を付けてもらった。その枠組みとは、まず「個人的資質」と「専門的資質」に分けられる。「個人的資質」とは大学を卒業するまでに培われる「基礎的能力」と「性格」であり、「専門的資質」とは「職務体験」とそこから培われ「職務能力」だ。人財としての人は個人的資質を持って企業に入り、職務経験を通じて職務能力を身に付け、その一部が基礎的能力となって定着し、キャリアを築いているとのこと。

このうち、日本企業であまり育ててこなかった要件は、たとえば「戦略的思考」だ。傾聴力はあるが「説得力」が少ない。また自分で自己完結型の仕事をしたり、自らキャリアを作っていったりという意味での「二つのジリツ(自立、自律))が弱い。さらに「起業家精神」や「ダイバーシティへの感性や関係構築力」も不足していたという。実際にフクシマさんが人財を探していて一番苦労するのは、多様性、ダイバーシティへの対応力だったという。

フクシマさんが提唱するのは、「外柔内剛」という姿勢だ。自分の信念を譲らすに、外には柔軟に、したたかに対応していく。「日本人は大変インテグリティが高いと言われています。私自身も日本の企業は真面目だと感じています。その誠実さという部分は決して譲らすに、しかし世界にはさまざまな国があり、さまざまな価値観があるので、したたかに対応していくことが必要なのだと思います」。

 

 

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対話と議論

 

【塾生】日本人は戦略的思考が弱いという指摘がありましたが、どうすれば培っていけるものでしょうか。

 

【フクシマさん】

戦略的思考とは、ひとつはロジックをどう積み立てていくかということす。日常生活の中でも、起承転結で考えていくとよいでしょう。それから、本でもWebでもよいので、MBAで教えているような概念を身に着けることです。MBAの概念というのは世界共通のものであり、それぞれのビジネスの構成領域で骨になるものを教えてくれます。戦略的思考に重要な仮説検証のトレーニングにもなるし、いろいろな選択肢の中から意思決定をしていく方法も学べます。こうした方法でビジネスの全体像をつかんで、バリューチェーンの流れを整理して、その中での自分の仕事の位置づけを頭に入れて仕事をすると、仕事がしやすくなると思います。

基礎概念が頭に入ったら、さまざまな課題をシミュレーションしてみるとよいでしょう。たとえば、今自分が東電の社長だったらどうするのか。自分の会社の課題を自分ならどう解決するのか。そういうことを「自分ごと化」して考えてみることで、戦略性は育っていくと思います。

 

 

 

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【塾生】女性の力を発揮していくためには、具体的にどんな策が考えられますか?

 

 

【フクシマさん】

日本は今、制度的なことは国際的に見ても整備されているのですが、問題はマインドセットです。特に中間管理職のマインドがなかなか変わらなかったのです。企業のトップの方はかなり認識されていますし、みなさんのような若い方も、男女共同参画の意識をしっかり共有していると思います。是非、特に若い男性にはご自分の「育児権」を主張して欲しいと思います。ただ、女性を登用したくても、ロールモデルとなる人が自分のまわりにいないので、どうしたらいいのか分からないという声も今でもあります。経済同友会では経営者の女性登用の行動宣言を出したり、女性と共に参加するリーダーシッププログラムを用意したりしていますが、そう言う方法で男性にも優秀な女性との協働に慣れていってもらうということも有効だと思います。

 

 

【塾生】現場で働いていると、どんなに何かを変えようとしてもまったく変えることができません。やはり日本の特殊性のようなものがあると感じるのですが、どう考えますか?

 

【フクシマさん】

日本人は横並びが好きなので、誰かが変わって成功しないと誰もやりません。企業も、じっと眺めていて、誰かがやりだし手成功したらうちもやろうとなります。そう言う意味では、確かに変化するまで時間がかかりますが、横並びが良い方向へ作用して、いったん進み出すと意外に早いと思います。私は、この課題については最近、「半分しかない」と思うよりも「半分もある」という捉え方をするようにしています。

 

 

【塾生】迷ったときに立ち戻るような、フクシマさんが持っている信念について教えてください。

 

【フクシマさん】

私の場合は、できるだけ人にも自分にも誠実でありたいと思っています。単純な例で言えば、ウソをつかない、言い訳をしない、人のせいにしないといったことです。実際にできているかどうかは分かりませんが、その辺は自分の「外柔内剛」のコアになっているし、非常に大事に思っています。

 

 

【塾生】インテグレティを高めるために、日々心がけていることはありますか?

 

【フクシマさん】

毎日ひとつでも新しいことを知りたいと思っています。たとえば新聞を読んでよく知らない領域のことがあったら調べてみるとか。すぐに忘れてしまうのでなかなか蓄積できないのですが、それでも、何か新しい知識が自分の中に毎日積み重なるように努力はしています。

 

 

<クロージングメッセージ>

自分のキャリアは自分でつくる

 

 

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今日は皆さんにいろいろなご質問をいただいて、私自身も考えさせられ、勉強になりました。これから働く場はますますグローバルになっていく中で、皆さんにはぜひ、新しい働き方を見つけていってもらいたいと思います。ワークとライフのバランスではなく、両者をインテグレーションして、長期的に続けられるような、幸せになれるようなワーク・ライフ・マネジメントの出来るキャリアを築いてほしいというのが、私の願いです。そのためには、プロジェクトベースで働くとか、会社に縛られない働き方も考えられるでしょう。組織に所属しないことに不安を感じる人もいると思いますが、それを補えるようなビジネスモデルもどんどん出てくると思います。そういうものをよく研究をして、自分のキャリアは自分でつくるという発想でがんばってください。

 

 

 

<編集後記>

グローバルビジネスの最前線で活躍する敏腕ヘッドハンター。そんな肩書きからは想像できない柔らかな語り口は、まさに外柔内剛そのものという印象だ。現場を知るからこその鋭い分析は、ビジネスの現場での「人財市場」をリアルに伝えてくれるものだったと思う。

 

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