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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第11期 コア・プログラム
プロフェッショナル・トレーニング
グループとしての成果に貢献できる議論のスキルを磨く

講師:隅田 浩司
福澤諭吉記念文明塾 ファシリテーター、東京富士大学 教授
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2014年4月26日

 

文明塾における学びの基本は対話と議論。それを深めるために必要なスキルを養うのが、このプロフェッショナル・トレーニングだ。グループとして成果を出すには、どんな点に留意して議論に臨めばよいのか。5時間半に及ぶセッションでは、実際にグループで議論を行いながら実践的なノウハウを身に付けるトレーニングが行われた。
議論の進め方をメタ認知する
プロフェッショナル・トレーニングの目的は、知識を習得することではなく、コミュニケーションや議論のスキルを習得することだ。冒頭、隅田さんが掲げたこの日のポイントは、自分の思考の癖を自己認識し、直すべき所を直すきっかけや気づきを得ること。そして、言葉の使い方や語り方の持つ大きな意味を自覚することだ。議論のテーマとして与えられた中身について考え、議論を進めると同時に、自分たちの議論の仕方、方法論についてのメタ認知、すなわち客観的に認識することを目指していく。
 「これらを徹底的に理解してもらうために、今日は頭が疲れてヘトヘトになるまで議論してもらいます。今日、私はみなさんの議論を喚起するためのファシリテーターとしてここにいるので、活発な議論をみなさん自身が体験してください。」。
セッションでは、提示されたいくつかの課題について4~5人のグループで5分程度ずつ議論するという試みが幾度となく繰り返された。議論をすること自体が目的のため、この課題には正解はない。むしろ、答えがない、正解がない中で、どこまで一生懸命議論するか、少なくとも自分たちとしては納得できるところまで持っていけるか。「正解がないから何も決められないという虚無的な話ではなく、だからこそ自分たちができることを決めていこうという姿勢で、結論を出していくことが大事です」。
グループ内の議論で意見を出していく過程では「ものの言い方」にもフォーカスすべきだと隅田さんは指摘した。「レトリック、修辞学と言われるような言葉の使い方や話し方は、単に表現上の問題ではなく、言語を操る人間の本質的な部分に関わるものです。グループダイナミクスにおいては、会話したり人に何かを伝えたりするとき、その語り自体がいろいろな問題を含んでいたり、語り方によって真実として受け止められるかどうかの判断まで変わってしまったりするものだとうことを、理解してください」。
たとえば、文明塾における対話では、Positive Framingという思考技法が提唱されている。「彼の論文は、独創的だが、論証に難がある」という言い方と、「彼の論文は、論証に難があるが、独創的だ」という言い方とでは、明らかに後者の方が肯定的に評価しているという印象を受ける。「本来は評価しているのにそれが伝わらないということになってしまわないよう、文脈的な意味の捉え方の違いを意識して使い分けるようにしましょう」。
議論の前に、ひとりで深く考える
この日は、議論のプロセスのひとつのポイントとして、各ディスカッションタイムの直前に自分ひとりで考えるThinking Timeが設けられた。「ノーアイディア、あるいは考えが曖昧なままでグループでの議論に参加したのでは、マイナスの影響しかもたらしません。クオリティの高い議論をするには、まず一人ひとりがしっかり考えてから臨むことがとても重要なのです」。
実りある議論につながるような思考を深めるには、一定の時間ひとりで集中して考え続けられる資質が必要となる。「10分間考え続けることができれば、いろいろなことを考えつきます。しかし、実際はそこに至る前に途中でやめてしまうことが多い。それはもったいないことです」。
その集中して考える力を養うトレーニングが、このThinking Timeだ。制限時間内に、他のことに惑わされずにどれだけ集中して考えることができるかを自己評価してみる。「早い段階で結論が出てしまい手持ちぶさたになる、あるいはいくら考えても結論が出ないというのは、どちらも危険な兆候です。また、他のことに意識がそれるという癖を放っておくと、大事な場面で意思決定の質が落ちてしまいます。今日のThinking Timeは、与えられた時間の中で集中して深く考える訓練だということを意識してください」。
議論への貢献度を振り返る
Thinking Timeにひとりでじっくり考えた上でグループディスカッションを行った後は、今自分たちが行った議論の進め方を振り返ってみる。「同じ立場の者同士での議論では、周囲への貢献度を意識することが重要です。自分は議論に貢献できていたか。できなかったならその理由は何かを考えてみてください」。
チェックポイントとしては、与えられた制限時間を認識した上でグループ全員の意見を引き出すように配慮できたか、自分ばかり話しすぎていなかったか、話し手の目を見て集中して聞いていたか、などの観点で振り返ってみる。ひとりが話しすぎるのを防ぐために、ひとり30秒という時間的な目安も設定した。これは30秒で自分の言いたいことをピンポイントで伝えるという訓練にもなる。「逆にあまり発言できなかったという人は、発言させてもらえなかったと捉えるのではなく、なぜ自分は貢献できなかったのかを考えてください」。
グループ内で自分たち議論について振り返った後は、その結果をまとめて代表者が全員の前で発表をした。他のグループがどんな方法で議論したのか知ることによって、議論の進め方のパターンを学ぶためだ。「その方法がいいものであるかどうかはともかく、議論の型を数多く知っていることは有効な議論をするために役立つのです」。
各グループの報告から、それぞれの反省を踏まえた質問を抜粋してみよう。
【塾生】発言しながら、つい人を説得しようとしてしまう傾向が見られた。
【隅田さん】
そもそも人間が言語を使って意見を表明するというのは、その時点で人を説得しようということなので、それ自体は悪いことではありません。大事なのは、「説得しようとしているのだ」と認識することです。自分は説得しようとしている、相手も説得しようとしている。言語というもの自体がそういう性質のものであり、だから言葉を工夫して印象をよくしようとする、それがレトリックです。
【塾生】課題の中の言葉の定義付けについての共有ができていなかった。
【隅田さん】
言葉の定義というのは非常に重要です。今、その言葉をどういう意味で使っているのかという点についての感度を高める意識を持ってください。英語の契約書などではdefinitionについて何ページも割かれているように、言葉の定義は非常に重視されており、交渉はまずそこから始まります。
【塾生】言いたいことがいくつもあって、30秒では時間が足りなかった。
【隅田さん】
グループとしての意見を出す議論で一番考えるべきなのは、ここで出る議論はグループの意見だということです。グループダイナミクスの一番のポイントは、人の力を借りてみんなでやるということ。だから、「自分の意見が正しいのだから、ぜひ聴いてください」というのではなく、みんなの議論を喚起するという思いで発言する。つまり、言いたいことのすべてを1回で言い尽くさなくていいという意識を持ってください。
【塾生】参加者一人ひとりがどんな意見だったのかを、自分の頭の中で整理できない。
【隅田さん】
自分ひとりで抱えこむことなく、みんなの力を借りて全員で整理してください。質問をすれば、フォローし合うことでみんなが整理できます。「プロセスが分かりにくいからどうしよう?」と議論して、ホワイトボードを使う、紙に書く、マインドマップを使うなど、そのグループにフィットする方法で整理すればいいのです。チームワークですから、人の力を借りるのだというところにマインドセットを切り替えるのです。
新しい価値観を生み出す対話のスキルを磨く
次のステップでは、ロジックの力で相手をねじふせるというトレーニングが行われた。与えられた課題に対して、個人的な意見とは無関係に、肯定か否定かグループとしての立場を決め、それぞれの理由、根拠をできるだけたくさん考え出し、いかに説得力のある立論ができるかをみんなで議論する。
さらに、肯定否定のそれぞれの立場で一対一の議論をし、徹底的に相手に反論するという訓練をする。議論終了後には、双方で相手の議論の方法について意見交換をする。「この点を突かれたのがキツかった」「もっとこういう論理の組み立て方があったのではないか」など、相手の良かった点、弱かった点などを指摘し合う。
このように議論を正面からぶつけ合う訓練の目的は、違う意見に慌てない力をつけるためだ。議論において会話は潤滑油となりうるが、会話の要素が強まると同調圧力によって反論がしにくくなる。「特に日本の組織においては会話(conversation)と対話(dialog)の区別が曖昧になりがちですが、対話とは意見が違うことを認め、それをぶつけ合って新しいものを作っていくことです。新しい価値観は対話によってこそ生まれるのであり、我々は対話をするためにここに来ているのです」。
さらに、人の議論を批判するときには、「相手は合理的に考えているのだ」という仮定を持つことが重要なのだという。これはPrinciple of Charityといって、明らかにおかしいと思う理屈に直面したときに、それを最初から不合理だと決めつけず、「実は合理的なのではないか」と考えてみるという概念だ。「相手の言っていることは不合理だというレッテルを貼ってしまうと、それ以上議論が進まないばかりか、批判の質が浅くなります。まずは合理的であるという前提で、その合理性や根拠という視点で徹底的に考えてみることで、新しいアイディアが生まれてくることがあるのです」。
相手の論理を正しいものとして分析するために有効なのが、相手の言うことを自分で要約してみるという方法だ。「あなたの言いたいことはこういうことですよね?」と要約して話してみることで、相手に近づくことができる。これは、互いに対立している者同士を調停や和解に持ち込むときに弁護士が使う手法としても知られている。互いの発言を要約させ合うことで、誤解が解け、両者の距離が縮まっていく。すなわち、要約力もコミュニケーションにおける重要なスキルであるということだ。
反論を喚起して同質の議論から抜け出す
こうした反論のトレーニングの仕上げとして、最後は、Devil’s Advocateという手法が取り入れられた。これは、多数派の意見に対して反論を専門とする者を置く議論のテクニックだ。元々はカトリック教会が聖人を選ぶときに用いられた手法で、同一的集団での話し合いが同質的になりすぎるのを避けるために、あえて反対派に徹して発言する「悪魔の代理人」を設けるというものだ。
トレーニングでは、通常に議論した場合と、グループ内にDevil’s Advocateを置いた場合とでの議論の進み方の違いを体感する。「Devil’s Advocateの義務はただひとつ。決して納得せずに反論し続けることです」。これは異論や反論に対してどう反応するかという訓練でもある。Devil’s Advocateがいる状態では、どんな予想外の意見、反論が出てきても、真剣に反論しなければならない。「実際の議論でも、そのぐらい議論しないと何かを生み出すことはできません。相手の論理の甘さを見つけていこうとすることで、議論の質は高まっていきます。今後、皆さんの話し合いの中で、Devil’s Advocateのような状態が起きたとしても、それは良い状態であると認識し、中途半端にまとめようとしないことです」。
<クロージングメッセージ>
レトリックを学び、言葉の武器を持て
今、現代社会で求められているのも、まさに言葉という武器を持つことであり、そこで必要なのはレトリックです。レトリックは本質的な人間の言葉の営みにつながるものであり、これを悪用するのではなく、うまく活用することを覚えてください。不当な批判や非難、おかしな議論に対してきちんと対抗できる力を身に着けることも大事です。今日取り組んださまざまなことを改めて振り返り、文字にしてまとめてみると、自分の思考の癖を自己認識できるでしょう。今すぐには気がつかなくても、数ヶ月後、数年後の自分を助けてくれるはずです。
<塾生の声>
Devil’s Advocate役をやりましたが、思ったように相手の意見を否定できず、ためらいすら抱いていました。これは「人との対立を嫌っている」からだと感じました。そこに気付けたので、時と場合に応じて意見をぶつけることを実践していきたいです。(19歳男性学生)(餅原 圭吾さん)
自分のアイディアの脆い部分を相手に見つけてもらうというのを繰り返すことで、完成度が増していく実感を持てました。(20代?男性学生)(石井 敦浩さん)
未熟な私は自分の考えを言いたくてウズウズすることがよくありますが、「その発言はグループの議論を促進するためになるのか」「自分がリーダーになりたいという虚栄心ではないか」と自問することで、議論は良くなるということを心から実感できました。(20代男性学生)(岡部 耕太郎さん)
<編集後記>
「トレーニング」という名にふさわしい、一人ひとりに積極的な参加が要求される濃密な時間だった。約3カ月に及ぶ文明塾で過ごす時間の初期に設けられたこのトレーニングによって、その後の対話と議論の質が高まり、実りのある成果につながることを予感させてくれるものだった。

福澤文明塾における学びの基本は対話と議論。それを深めるために必要なスキルを養うのが、このプロフェッショナル・トレーニングだ。グループとして成果を出すには、どんな点に留意して議論に臨めばよいのか。5時間半に及ぶセッションでは、実際にグループで議論を行いながら実践的なノウハウを身に付けるトレーニングが行われた。

 

 

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議論の進め方をメタ認知する

 

プロフェッショナル・トレーニングの目的は、知識を習得することではなく、コミュニケーションや議論のスキルを習得することだ。冒頭、隅田さんが掲げたこの日のポイントは、自分の思考の癖を自己認識し、直すべき所を直すきっかけや気づきを得ること。そして、言葉の使い方や語り方の持つ大きな意味を自覚することだ。議論のテーマとして与えられた中身について考え、議論を進めると同時に、自分たちの議論の仕方、方法論についてのメタ認知、すなわち客観的に認識することを目指していく。

 「これらを徹底的に理解してもらうために、今日は頭が疲れてヘトヘトになるまで議論してもらいます。今日、私はみなさんの議論を喚起するためのファシリテーターとしてここにいるので、活発な議論をみなさん自身が体験してください。」。

 

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セッションでは、いくつかの課題について4~5人のグループで5分から10分程度、議論するという試みが幾度となく繰り返された。議論をすること自体が目的のため、この課題には正解はない。むしろ、答えがない、正解がない中で、どこまで一生懸命議論するか、少なくとも自分たちとしては納得できるところまで持っていけるか。「正解がないから何も決められないという虚無的な話ではなく、だからこそ自分たちができることを決めていこうという姿勢で、結論を出していくことが大事です」。

 

グループ内の議論で意見を出していく過程では「ものの言い方」にもフォーカスすべきだと隅田さんは指摘した。「言葉の使い方や話し方(レトリック)は、単に表現上の問題ではなく、言語を操る人間の本質的な部分に関わるものです。グループダイナミクスにおいては、会話したり人に何かを伝えたりするとき、その語り自体がいろいろな問題を含んでいたり、語り方によって真実として受け止められるかどうかの判断まで変わってしまったりするものだとうことを、理解してください」。

たとえば、福澤文明塾における対話では、Positive Framingという思考技法が提唱されている。「彼の提案は、独創的だが、論理が飛躍しているところがある」という言い方と、「彼の提案は、論理が飛躍しているところがあるが、独創的だ」という言い方とでは、明らかに後者の方が肯定的に評価しているという印象を受ける。「本来は評価しているのにそれが伝わらないということになってしまわないよう、文脈的な意味の捉え方の違いを意識して使い分けるようにしましょう」。

 

 

議論の前に、一人で深く考える

 

 

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この日は、議論のプロセスのひとつのポイントとして、各ディスカッションタイムの直前に自分一人で考えるThinking Timeが設けられた。「ノーアイディア、あるいは考えが曖昧なままでグループでの議論に参加したのでは、マイナスの影響しかもたらしません。クオリティの高い議論をするには、まず一人ひとりがしっかり考えてから臨むことがとても重要なのです」。

 

実りある議論につながるような思考を深めるには、一定の時間一人で集中して考え続けられる資質が必要となる。「10分間考え続けることができれば、いろいろなことを考えつきます。しかし、実際はそこに至る前に途中でやめてしまうことが多い。それはもったいないことです」。

その集中して考える力を養うトレーニングが、このThinking Timeだ。制限時間内に、他のことに惑わされずにどれだけ集中して考えることができるかを自己評価してみる。「早い段階で結論が出てしまい手持ちぶさたになる、あるいはいくら考えても結論が出ないというのは、どちらも危険な兆候です。また、他のことに意識がそれるという癖を放っておくと、大事な場面で意思決定の質が落ちてしまいます。今日のThinking Timeは、与えられた時間の中で集中して深く考える訓練だということを意識してください」。

 

 

議論への貢献度を振り返る

 

 

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Thinking Timeに、一人でじっくり考えた上でグループディスカッションを行った後は、今自分たちが行った議論の進め方を振り返ってみる。「同じ立場の者同士での議論では、周囲への貢献度を意識することが重要です。自分は議論に貢献できていたか。できなかったならその理由は何かを考えてみてください」。

 

チェックポイントとしては、与えられた制限時間を認識した上でグループ全員の意見を引き出すように配慮できたか、自分ばかり話しすぎていなかったか、話し手の目を見て集中して聞いていたか、などの観点で振り返ってみる。一人が話しすぎるのを防ぐために、一人30秒という時間的な目安も設定した。これは30秒で自分の言いたいことをピンポイントで伝えるという訓練にもなる。「逆にあまり発言できなかったという人は、発言させてもらえなかったと捉えるのではなく、なぜ自分は貢献できなかったのかを考えてください」。

グループ内で自分たち議論について振り返った後は、その結果をまとめて代表者が全員の前で発表をした。他のグループがどんな方法で議論したのか知ることによって、議論の進め方のパターンを学ぶためだ。「その方法がいいものであるかどうかはともかく、議論の型を数多く知っていることは有効な議論をするために役立つのです」。

各グループの報告から、それぞれの反省を踏まえた質問を抜粋してみよう。

 

 

【塾生】発言しながら、つい人を説得しようとしてしまう傾向が見られた。

 

【隅田さん】

そもそも人間が言語を使って意見を表明するというのは、その時点で人を説得しようということなので、それ自体は悪いことではありません。大事なのは、説得することよりも、心から納得してもらうことにあります。お互いが、自分の意見が正しいと思って説得するだけでは、コミュニケーションは一方通行です。そして、相手が納得できるように言葉を工夫することがレトリックの適切な使い方です。

 

 

【塾生】課題の中の言葉の定義付けについての共有ができていなかった。

 

【隅田さん】

言葉の定義というのは非常に重要です。今、その言葉をどういう意味で使っているのかという点についての感度を高める意識を持ってください。英語の契約書などではdefinitionについて何ページも割かれているように、言葉の定義は非常に重視されており、交渉はまずそこから始まります。

 

 

【塾生】言いたいことがいくつもあって、30秒では時間が足りなかった。

 

【隅田さん】

グループとしての意見を出す議論で一番考えるべきなのは、ここで出る議論はグループの意見だということです。グループダイナミクスの一番のポイントは、人の力を借りてみんなでやるということ。だから、「自分の意見が正しいのだから、ぜひ聴いてください」というのではなく、みんなの議論を喚起するという思いで発言する。つまり、言いたいことのすべてを1回の発言で言い尽くす必要はないのです、対話を重ねていくことで発言を理解してもらうことが大切です。

 

 

【塾生】参加者一人ひとりがどんな意見だったのかを、自分の頭の中で整理できない。

 

【隅田さん】

自分ひとりで抱えこむことなく、みんなの力を借りて全員で整理してください。質問をすれば、フォローし合うことでみんなが整理できます。「プロセスが分かりにくいからどうしよう?」と議論して、ホワイトボードを使う、紙に書く、マインドマップを使うなど、そのグループにフィットする方法で整理すればいいのです。チームワークですから、人の力を借りるのだというところにマインドセットを切り替えるのです。

 

 

新しい価値観を生み出す対話のスキルを磨く

 

次のステップでは、ロジックの力で相手をねじふせるというトレーニングが行われた。与えられた課題に対して、個人的な意見とは無関係に、肯定か否定かグループとしての立場を決め、それぞれの理由、根拠をできるだけたくさん考え出し、いかに説得力のある立論ができるかをみんなで議論する。

 

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さらに、肯定否定のそれぞれの立場で一対一の議論をし、徹底的に相手に反論するという訓練をする。議論終了後には、双方で相手の議論の方法について意見交換をする。「この点を突かれたのがキツかった」「もっとこういう論理の組み立て方があったのではないか」など、相手の良かった点、弱かった点などを指摘し合う。このように議論を正面からぶつけ合う訓練の目的は、違う意見に慌てない力をつけるためだ。議論において会話は潤滑油となりうるが、会話の要素が強まると同調圧力によって反論がしにくくなる。「特に日本の組織においては会話(conversation)と対話(dialog)の区別が曖昧になりがちですが、対話とは意見が違うことを認め、それをぶつけ合って新しいものを作っていくことです。新しい価値観は対話によってこそ生まれるのであり、我々は対話をするためにここに来ているのです」。

さらに、人の議論を批判するときには、「相手は合理的に考えているのだ」という仮定を持つことが重要なのだという。

 

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これはPrinciple of Charityといって、明らかにおかしいと思う理屈に直面したときに、それを最初から不合理だと決めつけず、「実は合理的なのではないか」と考えてみるという概念だ。「相手の言っていることは不合理だというレッテルを貼ってしまうと、それ以上議論が進まないばかりか、批判の質が浅くなります。まずは合理的であるという前提で、その合理性や根拠という視点で徹底的に考えてみることで、新しいアイディアが生まれてくることがあるのです」。

 

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相手の論理を正しいものとして分析するために有効なのが、相手の言うことを自分で要約してみるという方法だ。「あなたの言いたいことはこういうことですよね?」と要約して話してみることで、相手に近づくことができる。これは、互いに対立している者同士を調停や和解に持ち込むときに弁護士が使う手法としても知られている。互いの発言を要約させ合うことで、誤解が解け、両者の距離が縮まっていく。すなわち、要約力もコミュニケーションにおける重要なスキルであるということだ。

 

 

反論を喚起して同質の議論から抜け出す

 

こうした反論のトレーニングの仕上げとして、最後は、Devil’s Advocateという手法が取り入れられた。これは、多数派の意見に対して反論を専門とする者を置く議論のテクニックだ。元々はカトリック教会が聖人を選ぶときに用いられた手法で、同一的集団での話し合いが同質的になりすぎるのを避けるために、あえて反対派に徹して発言する「悪魔の代理人」を設けるというものだ。

トレーニングでは、通常に議論した場合と、グループ内にDevil’s Advocateを置いた場合とでの議論の進み方の違いを体感する。「Devil’s Advocateの義務はただひとつ。決して納得せずに反論し続けることです」。これは異論や反論に対してどう反応するかという訓練でもある。Devil’s Advocateがいる状態では、どんな予想外の意見、反論が出てきても、真剣に反論しなければならない。「実際の議論でも、そのぐらい議論しないと何かを生み出すことはできません。相手の論理の甘さを見つけていこうとすることで、議論の質は高まっていきます。今後、皆さんの話し合いの中で、Devil’s Advocateのような状態が起きたとしても、それは良い状態であると認識し、中途半端にまとめようとしないことです」。

 

 

<クロージングメッセージ>

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言葉には力がある、その力を信じて適切に言葉という武器を使うこと

 

今、現代社会で求められているのも、まさに言葉という武器を持つことです。しかし、言葉の使い方であるレトリックは、いままで表面的な技法ではないかと思われ、誤解されてきました。しかし、レトリックは本質的な人間の言葉の営みにつながるものです。単に相手をやり込める技法として、悪用するものではなく、レトリックの持つ本当の意味を理解し、活用しましょう。最近は、グローバルな社会の中で、不当な批判や非難、おかしな議論に対してきちんと対抗できる力が求めれています。最後に、今日、取り組んだことについて、とこかのタイミングで、文章にまとめてみてください。自分の思考の癖を自己認識する手助けになります。自分の思考の癖は、今すぐには気がつかなくても、数ヶ月後、数年後の自分を助けてくれるはずです。

 

 

<塾生の声>

 

Devil’s Advocate役をやりましたが、思ったように相手の意見を否定できず、ためらいすら抱いていました。これは「人との対立を嫌っている」からだと感じました。そこに気付けたので、時と場合に応じて意見をぶつけることを実践していきたいです。(10代 男性 学生)

 

自分のアイディアの脆い部分を相手に見つけてもらうというのを繰り返すことで、完成度が増していく実感を持てました。(20代 男性 学生)

 

未熟な私は自分の考えを言いたくてウズウズすることがよくありますが、「その発言はグループの議論を促進するためになるのか」「自分がリーダーになりたいという虚栄心ではないか」と自問することで、議論は良くなるということを心から実感できました。(20代 男性 学生)

 

 

<編集後記>

 

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「トレーニング」という名にふさわしい、一人ひとりに積極的な参加が要求される濃密な時間だった。約3カ月に及ぶ文明塾で過ごす時間の初期に設けられたこのトレーニングによって、その後の対話と議論の質が高まり、実りのある成果につながることを予感させてくれるものだった。

 

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