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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第9期 コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
グローバル社会におけるリーダーに必要なこと

講師:小林 りん
インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 設立準備財団 代表理事
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2013年6月20日

2014年9月、次世代のアジアを担う子どもたちを育てることを目指して、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)という学校が開校する。今回はその代表理事である小林さんを迎え、次世代のリーダー像についてのセッションが行われた。

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キックオフ・スピーチ

グローバル社会におけるフロンティアを養成する

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 企業の海外進出が加速する中、グローバルな人材育成が急務となっている。加えて、将来的には多くの移民が流入し、普通に日本で働いていても上司や同僚に外国人がいるという状況が不可避な流れになっている。
 そんなグローバル社会で活躍できるリーダーを育成することがISAKのミッションだ。小林さんたちが考えるリーダーとは、新しい価値観を生み出せる人、今まで見えなかった視点を与えられる人なのだという。
 ISAKの教育で重視されるのは、多様性への寛容力と問題設定能力、そして失敗を恐れずリスクをとる力だ。さまざまな国から教師や生徒が集まるという国籍の多様性に留まらず、ジェンダー、経済的社会的格差、宗教観などあらゆる多様性が想定される。たとえば、家庭の経済力に関係なく参加できるよう、最大約半数の生徒に奨学金を給付する準備も進められている。また、すでにある問題を解くのではなく、「何が解かれるべき問題なのか」を見つける力を育てること、さらに、学校という守られた環境でリスクテイクによる小さな失敗体験を積むことで、チャレンジすることへの恐れを克服し、成功へと導いていける力を養っていく。
 同校は、国際大検とも言われる国際バカロレア・ディプロマが導入されるほか、United World College(UWC)という、ロンドンに本部を持つ国際的な民間教育機関への加盟に向けて協議している。このことは、質の高い生徒と教師を持続的に集められることにつながる。プロジェクトの持続性を重要視する小林さんの思いを反映したものだ。
 さらに、ISAKでは日本全国の同じような問題意識を持つ教育者を集めて、現場の経験やノウハウを共有するワークショップも始めている。「設立までにいただいた多くのご支援は、グローバル化に対応するために変化せざるを得ない日本の教育界に、小さな風穴を開ける存在としての、私たちへの期待感だと自負しています。それに応えるためにも、自分のプロジェクトの成功だけではなく、社会的支援を背負ったプロジェクトとしてより大きなインパクトを追求していきたいと考えています」。

 

対話と議論

 

 後半は、小林さんから出題されていた事前課題を中心に、リーダーシップについてのディスカッションが行われた。

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【田村さん】
まず、これからの時代に必要とされるリーダーシップとは、どのようなものだと思われますか?

 

【小林さん】
自己認識力、共感力、そして突破力の、三層からなると思います。自己認識力というのは、リーダーとして自分が何をやりたいか、何にパッションを持っているのか、何が得意なのか、そして自分は何ができないのか、何が苦手なのかを知ること。それがあって初めて、次の共感力につながっていきます。やりたいけれど自分ではできないことがある、だから人の手を借りるし、心からの感謝の気持ちが生まれます。そうやって人を巻き込んでいくには共感力も重要です。そして、すぐにあきらめてしまうのでは新しいことは成し遂げられないので、突破力も不可欠だと思います。

<事前課題1:リーダーシップとは先天的なものか、後天的なものか?>

 

意見1:先天的である

【塾生】
リーダーシップとは人間性だと思います。それは生まれ持ったものや幼少期の経験が大きく左右すると思うので、どういう環境に生まれるかという運も含めて、先天的な要因が強いのではないでしょうか。

 

意見2:後天的である

【塾生】
いろいろな環境の中で育つ過程で、出会う人によって育てられるという部分も大きいと思います。立場が人を作るとも言えるのではないでしょうか。

 

意見3:先天的、後天的の両方である

【塾生】
人間的というベースの部分では先天的なものがあると思うし、いろいろな経験を積む中で人を引き付ける共感力を身に着けるという意味では、後天的な要因もあると思います。両者が有機的に結びついた総和がリーダーシップなのだと思うので、両方とも絶対必要だと感じます。

【塾生】
リーダーに必要な共感力は、遺伝的な性格によると思います。ただ、自分が20代でリーダーを経験したときは完璧なリーダーを目指しましたが、30代になってからは、自分のできない部分を人に任せるというスタンスをとるようになり、むしろうまくいった実感がありました。ですから、先天的な部分と後天的な部分と半々なのだと思います。

 

【小林さん】
kobayashi_5.jpg性格という点でいえば、楽観力というのもありますね。新しいことを始めるときは、失敗や挫折の連続です。その中で、リーダーがうろたえていてはみんなが不安になります。リーダー自身が「何があっても絶対大丈夫」と信じれば、その背中を見てついてきてくれるのです。私は、楽観力こそ、チーム全体でどんな困難も乗り越えていける力になると思っています。ところで、「リーダーシップは後天的なものである」と考える皆さんにお聞きしたいのですが、それを培うにはどうしたらいいのか。自分の経験談でもいいので、何かアドバイスがあればシェアしてください。

 

【塾生】
自分が一番伸びたと感じているのは、大学4年生でNPOを立ち上げて活動していたときに、相談した方から、「そもそも君は何をしたいのか、5年後10年後のビジョンは何?」と真正面から突っぱねられたことです。そのとき、何をやりたいのか、世の中をどうしたいのか自分の中で再定義して、リーダーとして本質的なものを見つめることにつながりました。

 

【小林さん】
私も似たような経験があります。何度も転職を体験していますが、そのたびに大学時代の友人などに相談すると、いつも「何がやりたいの?」と聞かれました。今の仕事に就くときも、ある人が「これはお前の天命だ」と背中を押してくれました。直接の利害関係がない、自分の価値観を語り合える仲間は大事だと思います。そういう意味で、この文明塾のようにたくさんのバックグラウンドの方が集まっている場はすばらしいと思います。

 

【塾生】
社会人1年目に自分が得意としない分野でリーダーに指名されて、とても辛い思いをしました。でも、そういう挫折体験も役に立ったとは感じています。

 

【小林さん】
乗り越えたという事実が自信につながるということはありますよね。私も5つの職業を渡り歩く中で紆余曲折がありましたが、すべてが糧になっていると思います。今までで一番華やかでなかったときというのは、実は一番多くのことを学んだ時期だったなと振り返ると、人生の中で絶対に無駄はないし、そう信じて生きていれば必ず報われるのだと思います。そして、どこにいても何をしていても、120%、150%の力を出すこと。必ず見てくれている人はいます。その瞬間、やっていけないかなとか、これは理想じゃないと思っても、絶対に全力を出すことは大事だと思います。

 

<事前課題2:リーダーシープに東洋的、西洋的の違いはあるか?>

 

kobayashi_4.jpg意見1:西洋と東洋は違う

【塾生】
ビジネスの世界で自分が感じた印象だと、西洋のトップは、必要な部下の意見は聞いても、最後は自分の責任と権限で決めるのに対し、日本は調和的なところに落とし込もうとしているように感じます。

【塾生】
日本の高校とアメリカのハイスクールに通った経験がありますが、アメリカではカリスマ性のある子どもが主導権を握り、日本では今私たちがなぜまとまらなくてはいけないのか、というようなことを説得できる子どもがリーダーになっていました。

 

意見2:西洋も東洋も違わない

【塾生】
リーダーシップとは人の心を動かすということに尽きると思うので、西洋も東洋も関係ないと思います。ただ、なぜみんなが違うように感じるのかというと、それは西洋と東洋で組織が違うからではないでしょうか。

【塾生】
リーダーは、受け取る側がどう感じるかでそのリーダーシップのあり方を変えていかなくてはいけないと思うので、一つひとつ違うリーダーシップがあるのではないでしょうか。西洋・東洋と二極化するのではなく、一人ひとりに合わせたリーダーシップが、真のリーダーシップなのだと思います。

 

【小林さん】
日本的・東洋的なリーダーの特徴として、調整型であるということがよく言われます。揶揄される意味で使われることも多いですが、この混沌とした時代の中で今、調整型のリーダーは見直されてきていると私は考えています。実際、海外でも東洋思想を学ぶリーダーも増えてきています。ISAKをあえて日本に作る意義はどこにあるのか?と問われたとき、そのことを主張してきました。ところが、最近「いや、西洋でもそうだ」という意見も耳にし、実は私自身が分からなくなってきていたので、今回の課題に出させていただきました。

 

【田村さん】
日本では、あまりに個性的な人は鼻につくと言われてみんながついてこないことがあるけれど、西洋のように個性はすばらしいと評価されるカルチャーであれば、そう言う人こそリーダーになれるのかもしれません。このように、それぞれのカルチャーごとにリーダー像は異なるように感じます。ただ、今後多様性の中でリーダーとして認められるには、それぞれのお国柄でリーダーになれた人が、必ずしもリーダーになれるとは限らない。すると、世界のリーダー像というのはだんだん均質化してくるのかもしれませんね。

 

【小林さん】
日本には他人の気持ちを読んでいくというカルチャーがありますよね。多様性の中では、気持ちを読むという努力はこれまで以上に大事だなと思うので、ISAKはそういう感性を磨ける場所でありたいなと思います。プレゼンがうまくできればいいのではなくて、むしろ話す力よりも聞く力を養っていきたいですね。

 

クロージングメッセージ

 

楽観できる未来のために、意思を持って行動する


kobayashi_6.jpg フランスの哲学者アランの『幸福論』という本の中に、「悲観は気分、楽観は意思である」という一節があります。特に新しいことを始めるときは不安な材料ばかりですから悲観するのは簡単です。でも、楽観できる未来が目の前に広がっていくかどうかは、未来を作る当事者である自分自身が意思を持って決めていくことです。まじめな人であればあるほど、できない理由やリスクを考えて悲観しがちですが、もし何かをやり遂げたいのであれば、あるいは楽観できる未来を切望するのであれば、自分自身が意思を持って行動すること、これに尽きると思います。

 もう一点今日ぜひお伝えしたいのは、考えることはすごく大事だけれども、行動することの重要性はどれだけ強調しても足りないぐらいだということです。私はISAKを実現するまでに6年かかりました。その間、悩みに悩んで相談した友人の1人に言われたのが、「Early Small Success」、つまり、どんなに小さくてもなるべく早く行動を起こして結果を出すべきだということでした。いきなり学校を始めるのは危険だから、小さなところからまずやってみなさいと。それで2010年に初めてサマースクールを開いたのですが、これはすごく大きな転機になりました。単に夢や理想を語っていたときと、実際に2週間実践してみた結果こんなことができて、こんな風に生徒が変わったということが言えるのとでは、周囲の受け取り方がまったく違うのです。そこから急激にお金や人が集まり始めました。悩むことは大事だけれども、とりあえずどこかで手を着けて、Early Small Successを実現することが重要だというのは、私がこの5年間で学んだ一番大きな教訓だと思っています。

 

<編集後記>


「話すことよりも聞く力が大事」という自らの言葉を裏付けるように、塾生一人ひとりの話に謙虚に耳を傾け、幅広い意見を受け入れようとする姿勢が印象的だった小林さん。経験に基づく具体的なエピソードを交えつつ、「多様性」「持続性」「楽観力」など、簡潔なキーワードで語られるリーダー像は、現実的にイメージしやすい形で伝わったに違いない。

 

 

塾生の振り返りより(コミュニティサイトより抜粋)

「『次代を創る100人』に選ばれるような人物でありながら、講演者の立場であるセッション中にも、何かを得よう・自分を変えようとしていた姿勢(自分にはそう見えました)に、ただただ感動しました。(20代 男性 学生)

 

「私にできないことがあれば仲間の誰かが助けてくれるし、仲間と一緒に解決していけばいい」という言葉は胸に突き刺さりました。一匹狼になりがちな自分にとっては非常に強く響いたし、何よりもそこまでの信頼関係を築けている仲間がいることが羨ましかったです。いつか自分も!! そう思わされたセッションでした。(20代 男性 学生)

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