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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第8期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
グローバルな時代を生きる若者に必要なもの

講師:黒川  清
政策研究大学院大学アカデミックフェロー・教授
特定非営利活動法人日本医療政策機構代表理事
インタビュアー:田村 次朗
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2012年12月6日

このセッションが行われた当日のほぼ1年前にあたる2011年12月8日、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)が発足した。独立性と中立性を重んじ、行政府から独立した民間の専門家でこのような事故調が構成されたのは、日本の憲政史上初めてのことだった。その委員長を務めたのが、今回講師にお招きした黒川清さんだ。その貴重な経験も踏まえ、これからの時代を担っていく若者たちへの熱いメッセージを語っていただいた。 

 

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初の国会事故調は、民主主義を進めるステップ

 福島の原発事故は、世界第三の経済大国、しかも科学技術やエンジニアには定評のある日本という国で起こったという点で、世界に大きな衝撃を与えた。日本で起こるなら自国でも起こるかもしれないと、ドイツやスイス、イタリアなどが相次いで脱原発の方針を決めた。「それほどのインパクトがあることだったのに、事故当時テレビで毎日流れていた官邸の記者会見は、何を言っているのかさっぱり分からない。何かかくしていのでは?テレビに出てくる専門家も政府の公式見解以上のことは言わない。東京電力の記者会見をもっとなんとかしろという発言も財界からも公には出てこない。結局、政府もダメ、学者もダメ、大企業もダメということで、海外からの日本の信用がメルトダウンしてしまった」。

 このような世界に影響のある大事件のときは、独立した国際的な委員会を、政府、特に立法府である国会が立ち上げない限り、信用の低下は止まらない。国会議員の中にもその重要性を唱える動きがあり、この国会事故調が設けられた。注目すべきは、日本において国会の独立した事故調ができたのは初めてだということだ。欧米などでは、大きな問題が起きると立法府、行政府などが、公聴会や、独立した調査委員会などが当たり前のように行われている。しかし、日本では今まで存在せず、常に内輪のグループだけで問題を解決するという仕組みになっていて、国民もそういうものだと思い込んでいたのだ。

「日本は民主主義を導入したけれども、それを機能させるには、三権分立であり、立法、司法、行政が独立して牽制し合う必要があります。しかし、日本では、政策の立案もその遂行もほとんど省庁が行っているなど、三権分立が充分に機能してはいないのです。そういう意味で、立法府が行政をチェックするという国会事故調が設けられたのは非常に画期的なことで、民主主義を健全に機能させる重要なステップだと言えると思います」。

 この国会事故調の委員会はウェブを含めて公開で英語の同時通訳もあり、報告書も英語でも公開され、海外では高い評価を受けている。しかし、日本国内での反応はどうか? さまざまな問題について提言をしたにもかかわらず、先日の選挙で争点になることもなかった。

 「国民が権利を行使するという意味でも、『なぜこれをやってくれないのか?』とみんなが問いかけなくてはいけない。それにはメディアの役割もあるのに、記者クラブは行政に都合の悪いことはあまり書かない、世論も盛り上がらない。私は、自分たちの報告書がすばらしいということを言っているのではないのです。委員会の内容はすべてを公開し、報告書には各委員の解釈をなるべくそぎ落とし、できるだけ事実のみを書いています。大事な国家政策ついてはこのような独立した調査委員会を設置する、こういう透明性のあるプロセスを使う、そこの提言について国民が考え、評価し、自分たちの意思を議員に伝えることが大事なのです」。

 

「YOUの視点」を持つ

 国会事故調の「はじめに」という部分には、朝河貫一という人物について触れた箇所がある。彼は約100年前に日本人で初めて海外の大学教授(Yale大学)になった人だ。その著書『日本の禍機』では、日露戦争に勝利した後の日本国家のありように警鐘を鳴らし、日露戦争以後に「変われなかった」日本が進んで行くであろう道を、正確に予測していた。

「彼がそうした冷静な分析をすることができたのは、独立した個人として海外でキャリアを積んだことで、健全な愛国心を持ち、日本のありさまを外からの目で見ることができたから」と黒川さんは指摘する。海外にいて、日本が愛しい、日本のことをもっと知って欲しいという思いが、健全な愛国心を生むというのだ。「そして、世界から見た日本を理解することで、Iだけではなく、YOUの視点も持てるようになります。たとえば、今、竹島や尖閣が問題になっていますが、YOUの視点があれば、歴史は双方にあるのだから、向こうの立場から見てみると長期的にどんな戦略がありうるかということを、自然に考えられるようになります。今のようなグローバルな時代には、健全な愛国心を持ち、YOUの視点を持てる人がもっともっと出てこないと、日本は独りよがり(Complacent)になりがちで危ないと私は思っています」。

 グローバルな世界で活躍するにも、YOUの視点は欠かせない。世界の中の誰とパートナーを組めば自分の一番のバリューを引き出せるのか。相手から見た自分のバリューは何なのか。それらを知る手がかりとなるのが、まさにYOUの視点なのだ。

 視点を変えるという意味で、もうひとつ黒川さんが重要視するのは、謙虚さを知ることだ。「東大を出て財務省に入ったといっても富士山に登っただけ。それで満足している人は多いけれど、世界にはエレベストもヒマラヤもある。テレビで見て知ったような気になっていても、実際にそこへ行って見上げてみたら、全然違う感情が起こるのです。世界には、その山に登ろうとしている、あるいはすでに登った人もいる。あの山に登ったヤツには叶わないなと知る謙虚さが大事だと思います」。

 世界に飛び出して行って揉まれることによって、エベレストを目指すとはこういうことなのだと知る。「そこで初めて、自分の目標が大きくなってくる。そこまで達するかどうかはともかく、もっと高いところまで行こうというトレーニングをしておくことが必要なのです」。

 

ローリスクハイリターンを求めるな

 人間を保守本流、保守反主流、革新主流、革新反主流の4つのカテゴリに分けるとすると、自分がどこのポジションなのか。「私自身は生まれつき天の邪鬼なところがあり、革新主流と革新反主流の中間ぐらいかなと感じています。しかし、日本はkurokawa_2.jpg保守本流が異常に多すぎる国だと私は思います」。

 これまでの日本では、大企業や中央官庁に就職することが、いわゆるローリスクハイリターンな成功キャリアと考えられてきた。しかし本来は、ハイリスクハイリターンの道を行って、イノベーターになったり起業したりするような人が、エリートの中にもある程度は存在するのが健全なのだという。「それなのに、日本人はみんながローリスクハイリターンを目指してしまう。そういう非常に保守主流であるところが、今の日本が一番ダメな理由だと私は考えています」。この20年の世界の変わり方は激しい。そして、その変化のスピードは猛烈に速くなってきている。それにも関わらず、日本ではローリスクハイリターンで逃げ延びてきた世代が未だに大きな顔をして、既得権を守ろうとしている。この現状をなんとかしなくてはいけない。日本の将来を担うあなたたち若者の中から、出る杭となって反逆する人がもっとたくさん出てきてほしいのです」。

 

若いうちに、日本の外に出てみる

 自らが出る杭となって風を起こすには、自分の体験がないと説得力がない。何ごとも、実際に自分がその状況におかれないと、考えていることが本当のリアリティとして分からないからだ。それには、とにかく日本の外に出てみることだというのが黒川さんの持論だ。「若いうちに心の思うままに、アフリカでもムンバイでも大連でも、そういう世界に半年でも2か月でも飛び込んでみるといい。行った先で日本のことを聞かれ、答える。あるいは日本とは違うその国の問題を知る。一人ひとりが日本の大使になったつもりで、自分ができること、やりたいことを見つける。そういう実体験がないと、頭では分かっていても、心が動かないのです。アクションを起こすのは心。そういう感性を若いときに育む意味は大きいと思います」。

 世界の中で日本人は1.7%しかいない。積極的に外に出て行くことで、自分のやっていることの意味が分かるのだという。「外から見て、もっと大きな世界の中の日本ということを具体的に感じるためには、できるだけ若いうちに行った方がいい。この広い世界、皆さんにはすばらしい機会がたくさんあるのだから、狭い日本の中で活躍することにこだわる必要はまったくないのです。世界のどこへ行ったって日本人であることは一生変わらない。どこで活躍していても、世界の中で日本をつなぐ「ドット」になればいい。そういう日本人がもっともっとたくさん出てきて欲しいと思います」。

 大学を卒業せずに成功したビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは、まさにハイリスクハイリターンな人生だとも言える。「彼らをハイリスクハイリターンだというのは結果論であって、彼らは自分がやりたいことをやり遂げているにすぎないのです。あなたたちも、自分がやりたいと感じることは必ずある。それをまだ見つけていないだけ。世界の中にはたくさんの問題があり、外に行けば行くほど、これをやりたいと思うことが見つかる。その可能性は日本にいるよりはるかに大きいのです」。

 

質疑応答

 

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【塾生】

日本には保守派が多い中で、自ら風を起こして革新につなげていくための方法論を教えてください。 

 

【黒川さん】

10年、20年前と大きく違うのは、ネットにつながっていることです。既存の組織人や政治家、官僚は自分たちの守りたい世界があるから、彼らから始めることは可能性は低いけれど、今はネットの力で、下からのムーブメントを起こせる時代です。自分が思うことを、ツイッターやフェイスブックに書けばいい。ただし、せめて半分は英語で書いてほしい。そうすれば、「日本人でもそんなことをしているのか?」と、世界の人たち、だれかが関心を示してくれます。アラブの春もそれで起きてきたのだし、日本でもできないはずはないのです。日本人はなぜもっと怒らないのかと世界の人は不思議に思っています。日本のここがおかしいと思うなら、それを英語でも発信する。自分は英語が得意じゃないなら、フォロワーの中の得意な人に頼んでもいい。中国語でもやる。そういう発想を持って欲しいです。

 

 

【塾生】

非エリートの多くの人を動かしていくにはどうしたらいいですか?

 

【黒川さん】

他人のことはどうでもいいから、あなたは自分のやりたいことをやればいい。これをやりたいと思ったとき、できない理由を考えるより、どうやってやるかを考えて欲しい。自分が大事だと思うことを一生懸命やっていれば、必ず賛同してくれる人が周りに出てきます。見ている人はちゃんといるから、大丈夫。

 

 

【塾生】

今やりたいことが、必ずしも未来につながるのだろうか?という不安の中で迷う気持ちへのアドバイスをお願いします。

 

【黒川さん】

将来なんて分からないのだから、むずかしい方でもなんでも、とにかくやってみればいい。世界のどこにいたって死にはしません。ただし、海外に行ったら、英語が下手でもいいから、とにかく自分で話さないと意思は伝わりません。発音なんてどうでもいいから発言すること。英語は発音より発言です。

 

 

【塾生】

自分はある大企業に勤めているが、会社はハイリスクハイリターンな人の力を引き出せないでいるようなもどかしさを感じます。

 

【黒川さん】

そんな会社は辞めてしまえばいい。いざとなれば会社はあなたを救ってはくれない、会社はなくなるかもしれない。いままでは大企業に入って年功序列で15年ぐらいすれば、そこから後は年功序列で、基本的に横を見ながら上へのぼる制度。役所も同じ。そんな国は日本だけ。組織に入っているといつまでもそこにいるのが常識だと思ってしまうけれど、それは間違っている。若い人たちには、今までの常識で発言し、行動している人たちに対して、疑いの目で見ろと言いたい。

 

クロージングメッセージ

今まではロードマップを持つことが重要とされてきましたが、これからの時代はコンパスを持つことが大事です。自分のやりたいことが見つかれば、コンパスができます。障害にぶつかったとき、ビジネススクールで学んだセオリーは役立たなくても、コンパスがあれば正しい方向に進むことができるのです。そのとき自分が何をしたいのかを決めるのは、頭ではなく、心、気持ち、直感、信念です。いろいろ大変なことがあって苦労しても、自分がやりたいと思った心を忘れないでいることが大事なのです。若いうちに世界に飛び出してやりたいことを見つけて、自分の高い目標へのコンパスを手に入れてほしいと思います。

 

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挑発的ともいえる歯に衣を着せない力強い言葉の数々に、若干圧倒されているようにも見えた塾生たち。黒川さんの「日本の将来を担う若者をエンカレッジしたい」という愛にあふれた熱い想いは、強烈な刺激となって伝わったに違いない。

 

塾生の振り返りより(塾生専用のコミュニティサイトより抜粋)

私を含め、文明塾生はやる気はあっても燻っている、迷っている人もいます。その人たちに火をつけるというか、火をつけて油をぶっかけるという2時間であったと思いました(30代 男性 社会人)

 

黒川さんはまさにコンパスだった。傲慢な物言いと、細やかな気遣いと、若者への温かな眼差し。自ら切り開いてきた人の重みのある言葉。どーんと構えかつしなやかな本当に本当に大きな人。あこがれの対象がまた増えた。(20代 女性 社会人)

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次回予告

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「観光先進国日本の進むべき道」

    伊達美和子
    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

  • 第17期コア・プログラム
    ストラテジック・リーダーシップ
    「不確実な時代におけるリーダーシップ」

    鈴木健一郎
    (鈴与株式会社 代表取締役社長)

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