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第7期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
「為さざるの罪」~ヤマトグループのDNAと現場力を引き出すリーダーシップ

講師:木川 眞
ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長
インタビュアー:田村次朗(慶應義塾大学 法学部教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2012年6月7日

  2011年3月11日、東日本を襲った大震災。ヤマトホールディングスは、救援物資輸送に協力に加え、取り扱う宅急便1個につき10円という大胆な寄付を行うなど、その積極的な支援が大きな注目を浴びた。今回は、社長である木川氏をお招きし、そうした活動を可能にしたヤマトの社風と、グループ全体で約18万人もの社員を率いるリーダーシップについてお話を伺った。

 

 

「ヤマトは我なり」kigawa4.jpg

  今や日本人なら誰でも知っているほど身近になった、「クロネコヤマトの宅急便」。そのサービスを展開しているヤマト運輸のルーツは、1919年に車両4台で貸切トラック輸送を開始したことに始まる。
「歴史が古いこと自体には意味があるのではなく、その間、何度か苦境も体験し、度重なるイノベーションを経る中で、社員は何をどう感じてきたか。その流れの中で我々の会社のDNAともいうべき風土が醸造されてきたのだと思います」。
 現在では、グループ全体で約18万人もの社員を抱えるが、そのうち本社で働く社員は約400人程度しかいない。それでも機能している一因は、徹底的に現場に権限を委ねていることにあると言う。
「モノを作る製造業と違って、私たちのようなサービス業では、社員が自分の体を動かして荷物を運び、それで喜んでいただけるかどうかがすべてです。つまり、セールスドライバー一人ひとりが、ヤマトという企業の評価を決めてしまうのです。社訓にもある『ヤマトは我なり』というのは、自分自身が会社の代表者であるという自覚を持って働いてほしいということなのです」。

「褒める文化」を導入し、「為さざるの罪」を説く

 木川氏自身は、30年余の銀行勤務の後、2005年にヤマト運輸の取締役に招聘された。ヤマト運輸の社長、そして純粋持株会社として設立されたヤマトホールディングスの取締役などを経て、2011年に同社の社長に就任している。新しいヤマトとして成長を続けていくための持株会社移行にあたり、その実績が請われたのだ。
 社長就任後、同社の100周年に向けた長期戦略として掲げたコンセプトは、「お客様・株主・社員・社会の満足度の総和をダントツにする」ということだった。その柱となるのが、事業構造改革・業務基盤改革・意識改革だ。
 まず、事業構造改革の中心は、宅急便依存から脱却すること。業務基盤改革は、今後少子高齢化で労働力が不足することを踏まえ、業務を標準化し、ベテランも新人も同じ生産性を上げられるような仕組みを作ることである。
 そして、3番目の意識改革では、宅急便の産みの親でもある二代目社長、小倉昌男氏が言い続けた「サービスが先、利益は後」という精神を、仕事の中でどう活かすか考えさせることだ。
 木川氏が同社に入社して持ち込んだ言葉に「為さざるの罪」というものがある。「最近は、やれない理由を並べることが多すぎるのではないか。特に若い人には、正しいと思ったら失敗を恐れずにやってみろと言っています」。さらに、管理職に対しては「溢れんばかりの当事者意識」を持つことを求めている。「溢れんばかりの当事者意識を持って、本気であるという姿勢を見せる。大事なのは、失敗したときに怒らないこと。管理者がそうやって為さざるの罪を説けば、社員一人ひとりが、『やっていいんだ』と思えるようになるのです」。
 そうした意識改革のために、同社には「満足BANK」という制度が作られた。社員同士が、同僚を褒める投稿をイントラネット上に記名で行うのだ。褒めた人も、褒められた人もポイントが付き、ポイント獲得上位者は表彰される。「最初は、ヤマトの文化には合わないという反対もあったのですが、失敗したらやめればいいと始めてみました。今では約9割の社員がなんらかの形で参加してくれており、結果的に大きな意識変革につながったと感じています。」。

震災時に発揮された、ヤマトのDNA

 そんな青写真を描いて走り出したとき、あの大震災が起きた。同社でも車両が100台以上使えなくなり、営業拠点の6%を失うなど、大きなダメージを受けた。しかし、震災後10日目には営業を再開したばかりでなく、被災地の主管支店内に「救援物資輸送協力隊」を設置。救援物資の輸送業務に、全グループを上げて全面協力する体制を整えた。
「最初は被災地の複数の地域で、自らも被災者である社員達が自発的に始めたことでした。救援物資の輸送は自分たちがやるべきだと、通信手段が遮断された状況で本社の了解を得ないまま、自らの判断で行ったのです」。
 これを見た木川氏は、「ヤマトは我なり」という社訓、「サービスが先、利益は後」「為さざるの罪」という考え方が、社員一人ひとりにしっかり浸透していたことを実感したと言う。指揮命令しようにも伝達する術もない非常時において、日頃から徹底的に現場へ権限を委譲してきた成果が発揮されたのだとも言えるだろう。
 さらに同社は、「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」のスローガンの元、取り扱う宅急便1個につき10円の寄付を実施した。結果的に総額142億円を超える金額となったが、これは同社の年間純利益の4割にも相当する。
 これに対して、社員はもちろん、株主からも反対はなかったという。「我々の株主の3割は外国人投資家で、いわゆるヘッジファンドですが、今回は諸手を挙げて喜んでくれました」。
 震災後の同社の活動は、世間からも大きな賞賛を浴びている。「我々が褒めていただいたのは、多額の寄付そのものよりも、スタンドプレイではなく本気でやっているということが理解されたからだと思います。今、世の中では、社会貢献をしない企業には限界があります。『やるときはやった』という実績は必ずプラスになる。しかし、現実に今回それを認めていただけたのは、ヤマトという企業の風土がにじみ出ていたからだと思います。企業の風土にあったことを、思い切ってやれば、結果は後から着いてくるということを、今回のことで、ある意味検証できたのではないでしょうか」。

質疑応答

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【受講生】

ヤマトのDNAを、どうやって社員一人ひとりに浸透させているのでしょうか? 

【木川さん】

毎日社訓を唱和したり、研修を行ったりしていますが、もっとも大きいのは、たとえば「サービスが先、利益は後」というのはどういうことかを、具体的な形で見せることです。過去の例で言うと、スキー宅急便を開始した翌年、大雪で道路が遮断されてしまったことがありました。新幹線は動いているからお客さんはスキー場に着いているのに、荷物が届かない。そこで小倉昌男が下した決断は、届かなかった荷物の代わりとなるレンタル代や購入代を負担することでした。これによって、当時の年間利益の1割以上が消えたと思います。それでも、始めたばかりのこのサービスの信用を、ここで失うわけにはいきません。結果的には、迅速に誠意ある措置をとったことが好感を呼び、次年度以降スキー宅急便は成長を続けていきました。これだけの経費を使っても「サービスが先」を徹底すれば、利益は後からついてくるものだということを、社員にしっかり見せることができたのだと思います。 

 

【受講生】

年間純利益の4割にも相当する多額の寄付をすることを、社員はどう捉えたのでしょうか。

【木川さん】

正直、「そんなお金があるならボーナスを上げてくれ」と言われるかとも覚悟していました。しかし、この話を伝えたとき、社員は拍手を持って受け入れてくれました。このときの光景を思い出すと、今でも涙が出てきます。うちの社員は現地採用が基本ですが、今回の件では、家族から「ヤマトに勤めていて誇らしい」と尊敬されたり、お客さんから「おたくの会社はすごいですね」とほめられたりしたそうです。追い込まれた状況で社員のモチベーションアップにもつながり、ほとんどの社員が喜んで受け入れてくれたようです。

 

【受講生】

強いDNAを持つ個性的な会社に途中で入られた外様のリーダーとして、信頼を受けるために心がけたことは?

【木川さん】

社長に就任したときにやったことは、徹底的に現場に行くことでした。顔も売らなくてはいけないし、業務のことに詳しくないので教えてもらう必要もある。全国にある70箇所の主管支店(営業所を統括する拠点)をヤマト運輸の社長在任中に4年がかりで回りました。外様だからということではなく、現場と経営の距離を近くすることは大きな意味があったと思います。

 

【受講生】

リーダーとして社員を引っ張っていく上で、ぶれてはいけない軸とは何でしょうか?

【木川さん】

ヤマト運輸の社長をしていたときは、毎年キャッチフレーズを作り、1年間何を軸にしてやっていくのかを宣言していました。このように、毎年やることを宣言すると逃げようがなくなります。いわば自分を追い込む作戦です。やることが明確なら、ぶれることはないのです。方針を明確にして途中で変えない。そして1年たって見直すときは見直す。失敗したら社長の責任、ごめんなさい間違っていましたと言う。こういうスタイルを私は続けています。

 

クロージングメッセージ

   若い皆さんに伝えたいのは、「自信を持とうよ」ということです。日本はまだ捨てたものじゃない、日本の強さを再認識してほしい。3.11は悲惨な災害だったけれど、たとえば、世界中の自動車の生産が止まるような重要な部品が日本で作られていたことなど、日本の力を改めて知る出来事もありました。そして、最近の若者は無気力などと言われるけれど、ボランティア活動はじめ、あのとき出てきたエネルギーはすごかった。問題は、あのエネルギーをどうやって持続していくのかということです。そろそろ、そういうことを考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。

   我々はサービス産業ですから、これからはサービス業の時代だ、アジアにも出て行かなくてはと言っていますが、やはりサービス業だけでは国は成り立たない。モノづくりという産業は守らなくてはなりません。英米では今、製造業に対してものすごく力を入れています。それに引き替え日本では、製造技術やノウハウを全部外に出してしまっていて、これは本当にもったいないことだと思います。減反政策にばかりお金を使っている農業問題にしても、若者に閉塞感をもたらしている職の問題や年金問題にしても、何か仕組みを変える動きを、みなさんが声を上げてやって欲しいのです。

   今、必要なのはいろいろな仕掛けを作るデザイン力、発想力です。若い皆さんは必ずそれを持っているのです。自信を持って、ぜひ頑張ってください。

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   受講生たちは、事前課題として、同氏のインタビュー記事『ほぼ日刊イトイ新聞-クロネコヤマトのDNA』(http://www.1101.com/yamato/)を読み、同社の支援活動や、それを可能にした「ヤマトのDNA」に感銘を受けて臨んだ。途中入社でのリーダーでありながら、企業のDNAを見事に継承し、自分流の視点も融合させたその手腕。同時に、社員への想いを語りながら感極まり、言葉に詰まる姿からは、人間味あふれるリーダーとしての、ひとつの理想型が感じられたのではないだろうか。

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