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第7期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ「女性リーダーが活躍する社会へ」

講師:岩田 喜美枝
(株式会社資生堂取締役) ※ 2012年5月当時
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学法学部教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2012年5月31日

 1986年に男女雇用機会均等法が施行されて25年以上が経つ。しかし、管理職に女性が占める割合は、他の先進諸国で3~4割も珍しくないのに対し、日本では1割程度にすぎない。政府の男女共同参画基本計画では「2020年までに30%以上にすること」を目標としているが、今後日本で女性リーダーが活躍していくにはどんなことが必要なのか。旧労働省(厚生労働省)で同法の制定にも携わり、退官後は資生堂の代表取締役執行役員副社長などを勤められながら、働く女性の支援策・女性管理職の育成などを行ってきた岩田喜美枝さんが、その現状と未来像について語ってくださった。

 

 

 

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「一皮むける経験」と「異動」がキャリアをつくる

 

 

今回のテーマに関連して、冒頭で岩田さんが投げかけたのは「何のために働くのか?」という問いだった。岩田さんにとって、仕事は手段ではなく、人生の目的、人生そのものなのだという。しかし、仕事だけが大事なのではない。キャリアを作る、家庭を作る、社会と関わるという3つが人生の三大柱なのであり、優先順位を付けずにすべてを求めていくことが、自分にとって納得のいく人生なのだと語る。

では、その柱のひとつであるキャリアはいかにして作られるのか。「人を成長させるのは仕事経験です。それも、どんな仕事をするかが大事です。これまでの経験や自分の実力では無理だと思う仕事が回ってきたとき、不安を抱えながらもチャレンジする。それを乗り越えたとき、自分が一回り大きくなったことを実感できるのです」。

もうひとつ、キャリアを作るために重要なのが、「異動」の経験だという。「同じポジションに長くいると、能力は上がっていっても、いつか必ず頭打ちになります。ワンランク上の仕事、ちょっと違う仕事、別の土地での仕事などをすることが、成長につながるのです」。岩田さんが32年間在籍した労働省では、約2年に1回、合計17回の異動を経験した。「若い頃は、最初の1年で前任者のレベルに追い付けばいいとのんびり考えていました。しかし、40代を過ぎて課長クラスになり責任の大きさを実感してからは、1か月で前任者の水準まで追い着くことを自分自身に課しました。大変でしたが、あの経験によって、私はとても鍛えられたと思っています」。

強い意志があれば、育児と仕事は両立できる

今の日本では、第一子の妊娠・出産を機に約3分の2の女性が仕事を辞めてしまっている。その多くは育児が終わると再就職するが、正社員として復職することは非常にむずかしい。それが、日本の労働市場の特徴であり、企業の雇用慣行となっているのが現状だ。その結果、女性の再就職はほとんどが非正規雇用となり、所得格差に加え、いくらがんばってもキャリアアップにつながらないという問題が起きている。女性リーダーの数が少ないことの最大の理由はそこにあるのだと指摘する。

岩田さんは、激務をこなしながらも、結婚して2人の娘さんの子育てを仕事と両立してきた。「私が声を大にして言いたいのは、育児のために仕事を辞めては絶対にダメだということです。私の時代には企業の支援策も育児休業もありませんでしたが、それでもなんとかやってこられました。継続したいという強い意思さえあれば、どんな状況でも必ずできるはずです」。

仕事と育児は、どうしたら両立できるのか。「一時期は自分の給料のすべてをつぎ込むぐらいの覚悟で、育児や家事サービスを買うのです。夫や両親など家族の援助、企業の支援策、保育所や学童保育などの社会サービスなどをうまく組み合わせれば、両立は必ず可能だと私は確信しています」。その際、自分が持っている資源、すなわち気持ち・時間・お金を、一番大事だと思うところに思い切って集中させるのがコツだという。「私にとって一番重要なのは、子どもにとっての安全でよい環境でした。二番目は自分の仕事を続けられるだけでなく、キャリアップもしていけること。一方で、家の中をきれいにするなど、それ以外のことは全部切り捨てました」。

子育てとの両立で岩田さんが一番苦労したのは、長時間労働と転勤だった。「今の日本の企業は、社員には専業主婦の奥さんがいて、その妻が全面サポートをしてくれることを前提としています。私自身は、そうした『男性型スタンダード』に合わせるために相当な無理をしました。ですから、資生堂に来てからは、長時間労働問題などの解決策を一生懸命盛り込んだつもりです」。


育児をしながら、キャリアアップできる時代へ

女性の社会進出が進むプロセスを考えたとき、子育てを理由に女性が退職せざるを得ない状態を第一段階とすると、仕事を辞めずに子育てと両立できる状態は第二段階といえる。さらに、単に仕事を続けられるだけではなく、育児や家事をしながら、キャリアアップもしていけるというのが、岩田さんの目指す第三段階だ。

子育てに携わる30代は、本来なら仕事上でも多くの経験をして成長する時期にあたる。この期間に育児休業や短時間勤務などを利用すると、男女間で仕事の体験量に大きな差がついてしまう。それが、その後の能力差・キャリア差にもつながっていく。「今までは、育児期には仕事を免除する支援策を実施してきました。しかし、今後は、育児をしながらも普通に仕事を続けられることを支援する会社を目指したいと考えています」。女性も、男性と同じように活躍できる社会を実現するためには、現在の『男性型スタンダード』を見直して、社会全体の働き方を変えていくことが不可欠だという。

女性リーダーの存在は、企業の成長や活性化にもつながる

女性もキャリアアップを重ね、リーダーとして活躍することは、企業の側にはどんな意味を持つのだろうか。まず挙げたのは、人材の完全活用だ。「人は、会社の重要な経営資源のひとつです。本来もっと活躍できるはずの社員が、小さい子どもがいるという理由で活躍できないとしたら、それは企業にとっても大きな損失なのです」。採用した社員は男女に関係なく、しっかり育成し、その能力を発揮してもらうべきという考えだ。

iwata-02.jpgさらに、社員の構成が多様なほど、企業の力は強くなるという。「男性だけのモノカルチャーな集団は、同じベクトルで走っているときは強いのですが、変化への対応が苦手という弱点があります。経営環境の変化に合わせて企業も変わっていかなくてはならないときに、うまく対応できない。その点、女性を含むさまざまな価値観の人が混在している集団の方が、柔軟な対応が可能になります。また、価値観の対立はギクシャクした関係を生み出すこともありますが、それが融合されて初めて、今までとはまったく違うもの、新しいものが生み出されてくるのではないでしょうか。多様な社員が活躍する会社は、新しい価値創造の土壌があると思います」。

女性リーダーの活躍は、女性だけの問題ではなく、企業や経済全体にとって大きな可能性を秘めているのだといえるだろう。  

 

 

 

 

質疑応答

【受講生】
女性の管理職を増やすための数値目標は、その数字を達成することが優先されて適材適所にならないなどの矛盾が出てきませんか?

【岩田さん】
数値目標には二種類あって、その結果を義務にしてしまうと、能力や適性に劣る女性を登用しなければならなくなります。取り組みの成果を早く達成するためにはそれでもいいと言う人もいますが、私は反対です。組織の力は、最適任の人を選ぶことで最大化されるので、数値目標を達成するために無理に女性を選ぶのだとしたら、経済合理性に反するでしょう。資生堂の場合はそうではなく、努力目標とし、そこを目指して女性の育成を急ぐということを行っています。また、管理職を選ぶときには、男女問わず若い層から抜擢するようにすることで、結果的に女性の比率が上がることにつながります。育成のためのポジティブアクションは行いますが、評価や登用の段階では、数値目標のために女性を優遇するようなことはしていません。

 

【受講生】
育児休暇をとると、その間仕事を離れていたことで、復職後にそのギャップを埋めるのが大変だという話も聞きます。資生堂では、育児休業中の女性に対する職場復帰へのサポートとして、どんなことを行っていますか?

【岩田さん】
育児休業中を、単なる休みではなく、ステップアップの期間に当ててもらおうと考えています。そこで、オンラインシステムを活用し、財務やIT、語学などの勉強ができるようなEラーニングコンテンツを用意しました。プログラムは15分単位にし、赤ちゃんが寝ている間の隙間時間に学べるよう配慮しています。同時に、このシステムでは、上司と対話できたり、会社情報をとれたりすることで、育児休業中も会社との関係が途切れないようにしています。

 

【受講生】
今後、理想とする社会の未来像を教えて下さい。

【岩田さん】
男性も女性も、子育てをしながら仕事をずっと続けていくことが当たり前だと思われる社会を目指したいと思っています。今は、夫が働き、妻は専業主婦、もしくはある水準の年収以下で働くことが「普通」となっています。企業内の問題だけでなく、税制や社会保障制度などの仕組みにも、それを前提とした不都合な部分も多いので、それをなくしていきたいですね。

本当はいろんなことをしたいのに、仕事か家庭か、どちらかひとつだけを選択しなくてはいけない、そんな状況を変えるには、働き方の価値基準を変えなくてはなりません。最近、よく「ワークライフバランス」ということが言われますが、長時間働くことから、時間あたりの生産性の高い働き方に変えていき、もっと仕事以外のことに時間を使うことが当たり前にならなくてはなりません。その実践によって、企業も今よりもっと成長できる、そういう、個人にとっても企業にとっても望ましい解を見つけていく必要があると考えています。

 

岩田さんからのメッセージ

男女を問わず、これからリーダー=管理職になる人へ

男性も女性も基本的には同じです。仕事の内容を、女性向け・男性向けと区別することはやめてください。男性同様、女性にもチャレンジングな仕事をアサインし、異動の機会を与え、成長する場を用意してほしい。育児との両立のための配慮は必要ですが、それ以外の配慮はまったく不要で、人材の育成については同じように接してほしいのです。どんな配慮が必要なのかはケースバイケースですから、よく面談をして、その人にジャストフィットした配慮(配慮が大きすぎると成長を阻害する、配慮が小さすぎると仕事の継続ができない)をすることがとても大切です。

女性のみなさんへ

夢を捨てないでください。女性の力を企業の成長戦略として活用していこうと本気で考える企業が増えつつあることを、ここ数年特に実感しています。今は自分のまわりにはないと思えるチャンスが、これから先、必ずやってきます。時代の力が皆さんの背中を押してくれると信じて、あきらめないことです。また、自分のためにがんばるだけではなく、自分に納得のいく生き方を次の世代の女性部下や後輩たちにも見せてあげてください。時には相談に乗るなど、皆さんの「妹」「娘」たちの力になり、世代から世代へ経験をつないでいってもらいたいなと思います。

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この日のテーマは、特に女性にとっては、今後の自分の人生で避けては通れない問題だ。「就活時の会社選びのポイントは?」「女性でよかったと思える体験は?」「出産は何歳ぐらいがベストか?」など、切実な質問も多数寄せられた。女性らしいソフトな語り口の中にも、芯の強さを感じさせる岩田さんから発せられた、「決して仕事を辞めないで」というメッセージは、強く心に響いたことだろう。

同時に、男性にとっても、配偶者や同僚、部下の問題として、あるいは社会全体のニーズという意味でも、他人事ではない。「男性型スタンダード」から脱却し、男性も女性もその能力を発揮できる社会を実現する、そこに向かう意識改革の一助となったのではなかろうか。

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