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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第7期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ
これからのリーダーに問われるものとは

講師:近藤正晃ジェームス
Twitter Japan 株式会社 代表
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学 法学部 教授)
ライター:永井 祐子
セッション開催日:2012年6月14日

今回の講師は、Twitter JAPANの代表を務める近藤正晃ジェームスさん。現代の最先端メディアを率いるリーダーに留まらず、ビジネス、政策立案、社会事業など多様な分野で活躍されている経験を元に、これからの時代に求められるリーダー像を語っていただいた。

 冒頭、これからの時代のリーダー像について、近藤さん自身の人生経験から得た3つの気づきが提案された。

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1.マルチステークホルダーとして問題解決に関われる

 

 「25歳の頃、自分がどんな人物に惹かれるのかと考えてみたことがあります。そのときに頭に浮かんだのが、福沢諭吉とベンジャミン・フランクリンでした」。
 福沢は、知の基盤である慶應義塾、メディアとしての時事新報、社交クラブとしての交詢社など、時代の大変革期においてさまざまな新しい制度を作った。一方、ベンジャミン・フランクリンも、ビジネス、政治家、外交官、物理学者など、多彩な実績をもつ人物だ。「二人に憬れを抱きつつ思ったのは、ひとつの分野にとらわれず、さまざまな分野で活躍した人というのは、非常に大きな仕事ができるのだということでした」。
 そこから思い至ったのは、世の中の課題はひとつの機関で解けるものなどなく、民間企業、大学、政府、NGOなどいろいろな立場の人がそれぞれの役割を担って進めないとできないことばかりなのだということだった。「それならば自分自身のキャリアも、何かひとつのことを究めるよりは、さまざまな機関を経験してみたいと考えるようになりました」。
 すなわち、今後社会を大きく変えていける人材というのは、マルチステークホルダーとして社会問題の解決に当たれる人なのではないか。ひとつのことで規模を取るよりも、分野横断して範囲を取っていかないと、複雑な世界では結果が出せないのではないかというのが、近藤さんの第一の提案だ。

 

2.苦しむ人への慈しみと優しさを持つ

 

james_4.jpg 二点目に挙げたのは、誰のために尽くすリーダーシップなのかという視点だ。きっかけは、40歳のときに対話する機会を得たダライ・ラマからの教えなのだという。それは、「自らの夢を叶えることを考えるのではなく、世の中で苦しんでいる人を、慈しみと優しさをもって助けること、そのことに一身に取り組みなさい」という言葉だった。「仕事というと、自分のキャリアとか、自分が何を達成するのかということを考えがちですが、そうではなく、世の中で苦しみを抱えている人を助ける、そこに焦点を絞ることが重要なのだと教えられました」。

 

3.みんなの善意を引き出して結集する

 

 東日本大震災のとき、電話やメールが繋がらなくなる中で、安否情報をはじめ、さまざまな最新情報が刻々とTwitterに書き込まれた。Twitterというシステムの中で、一市民が一市民を助けるという連鎖ができ、ものすごい規模で展開されていった。近藤さんがTwitter JAPANの代表になったのは、まさにその年の4月のことだ。「私は前年まで政府にいたこともあり、問題解決には、結局は大きな社会機関が動かないとダメだという先入観を持っていました。しかし、今はこうしたテクノロジーにより、世界中の人が個人として、その問題解決をリアルタイムに秒単位に主導できる、そういう時代が来たのだと実感しました」。
 その経験を経て近藤さんが感じたのは、「リーダーとして今重要なのは、いろんな分野を巻き込めて、みんなの力を結集できるキャリアを持った人、言い換えれば、多様性を理解し、それを包含できる力を持った人なのではないか」ということだった。「一人ひとりが持っている『自分が問題を解決するんだ』という気持ちを結集できるような仕組みを作れる人、みんなの善意を引き出せるようなリーダーシップが、これからは大きな力を発揮するのではないかと、私は考えています」。

 

インタビューセッション


続くインタビューセッションでは、学生時代から現在に至るまで、近藤さんが歩んできた道、そしてその経験から得たものについて語っていただいた。

 

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●学生時代の経験で、今につながっていると感じるのはどんなことですか?


 アメリカのブラウン大学への留学中に、ハンガーセンターという研究所の講演会を聞きに行ったことがありました。飢餓という地球規模の問題を、若い人たちが集まって本気で解決しようとしているという事実にとても興奮し、自分もこの問題に取り組みたいと強く感じました。マッキンゼーに就職したのもこの問題を解きたいという思いからですし、その後「Table for two」という世界の飢餓と肥満という食の不均衡を解消するためのNPO法人の創立に関わったのも、原点はこの体験にあると思います。

 

●マッキンゼー入社後、ハーバードでMBAも取得されていますが、そうした海外体験から得たものは?


 世の中には能力のある人がとてもたくさんいるということを知り、こういう人たちを巻き込んで、彼らの強みを活かしながらいっしょにやっていくことを考えるようになりました。世界中の多彩な才能を持っている人を理解できれば、自分自身のパワーにもなりますし、彼らを巻き込むことで自分の仕事の可能性も広がると気づいて、とても自由な気持ちになりました。

 

●多彩なキャリアを重ねていますが、近藤さんなりの「選択と集中」とは?


 何かを成し遂げるにはとても時間がかかります。人生の限られた時間でやっていくには、社会機関はともかくとして、テーマ自体は集中しないとむずかしいと思います。私自身は、一番重要なのは命に関することだと考えてきました。医療の問題から取り組んでそれを突き詰めるうちに、人間が生きていくことは食、水と切り離しては考えられない問題だとして関わってきました。そして、最初は医療制度の持続性やシステム論、財政などに興味があったのですが、ダライ・ラマに会った後は少し考えが変わって、ガン患者の薬、アフリカで医療のない地域で苦しんでいる人など、ミクロな問題に集中することにやりがいを感じるようになりました。

 

●Twitterに入社してから、何か変化はありましたか?


james_2.jpg 自分が変わらなければいけないと感じ、すごく変わりつつある日々を過ごしています。すごいなと思うのは「自分が世界を変えるんだ」と、みんなが真剣に考えていることです。そして、目標を建てるときのスピード感、規模感に驚きました。たとえば、ある目標を立てたとき、日本の企業なら5年ぐらいのスパンで考えるところを、来年の夏までにやろうと言う。そして、ユーザー数で次の1億人、その次の3億人を増やすには……というように、億人単位で話が進みます。

 重要なのは、「できる」というマインドセットなのです。「そんなことは無理だ」という先入観がそれを不可能にしているだけで、世界の人を巻き込めば、実はいろんなことが可能なのです。世界を変えるためのテクノロジーがあって、その技術基盤の上でみんなが世界を変えてくれるものを作る支援をする。そのチームを運営するために会社があるというイメージです。そこでは、市民を主役にすることができるリーダーというのが必要となるでしょう。一番重要なのは、本当の意味での高い志と、無理なことが「できる」と理不尽に思える、そういう気持ちなんだということを、今、学んでいるところです。

 

 

質疑応答


セッション後半では、塾生からの質問タイムが設けられた。

 

【塾生】
自分が今やりたいことがあるのだが、それを職業とするべきかどうか悩んでいます。


【近藤さん】
私自身は、職業として関わるのが一番いいと思っています。それは、仕事にすると学べることが一番多いからです。比率を変えながらいくつもの仕事に関わってきましたが、今、Twitterに多くの時間を割いているのは、アラブの春や震災時の経験から、これまでは想像できなかったような大きな変革を産めるテクノロジーの基盤のヒントが、Twitterにはあるのではないかと思うからです。今はそれをすごく学びたいのです。

 

 

【塾生】
最先端の情報をどこから得て、いかにして自分の中に取り込んでいますか?

【近藤さん】
最先端の情報を得るためには、一次情報に触れることです。二次情報になっているものは、ほとんどあてにならないし、圧倒的に遅いのです。そして、誰にでも会うこと。それには社交性も重要だし、裏を返せば会ってもらえるだけのものを、自分も持つことが必要かもしれません。実際に会ってコーヒーブレークをしたり、いっしょに何かをしたり、そうやってつながった人との蓄積が役に立つのだと感じています。

 

 

【塾生】
会う人の選び方や、人と会うときに具体的に気をつけていることがあれば、教えて下さい。

【近藤さん】
どんな立派な人でも課題を抱えているものですが、その人に頼みごとする人はいても、手伝おうという人はほとんどいません。しかし、手伝わせていただく経験からは、非常に多くのことを学べます。ですから、学びたいと思う人がいたら、自分から手伝わせていただくというのは一つの方法です。私の場合は、マッキンゼー時代の上司であった大前研一氏の秘書を1年間住み込みでやったことで、多くのことを学んだと思っています。

 

【塾生】
人を巻き込んでいくというお話がありましたが、どのようにすると巻き込んでいけるのでしょうか?

【近藤さん】
強い問題意識を持って、自分が動くことが大事です。その姿そのものが、人の心を打ち、人を巻き込んでいくのです。自分のやりたいことに汗を流していれば、寄ってくる人、手をさしのべてくれる人が出てきて、自然に人を巻き込んでいきます。そして、本当に夢があって、みんなが疑いなく「いい」と思えるようなアイディアを突き詰めることも、大事なのかなと思っています。

 

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クロージングメッセージ


今回、事前課題として「21世紀の現代に、あなたならどんな社会装置を作りますか?」という問いを投げかけました。現代は人類規模の課題が深刻化している時代ですが、みなさんの回答には人類規模の課題というのは少なかったようです。食にしても、高齢者の問題にしても、もう少し人類規模の問題としてのとらえ方が出てくるといいなと思いました。

福沢はさまざまな偉業を成し遂げましたが、その周りには立役者や多くの仲間がいました。この文明塾もまさに仲間の集合体です。ここから結合して大きなうねりになって、人類規模な課題のとらえ方で進んでいってくれるといいなと思います。日本を、人類を、変えるようなコミュニティになってくれることを大いに期待しています。

 

編集後記


明快な語り口で、具体的なエピソードも豊富に交えながら語られたお話は大変分かりやすく、一方で、華麗なキャリアを持ちながらも一切傲ることがない謙虚な姿勢も印象的だった。塾生の質問一つひとつに丁寧に向き合って答える若きリーダーの言葉は、塾生たちにとっても身近に感じられ、自らの将来像を描く上での大きな道しるべとなったのではないだろうか。

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次回予告

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    (森トラスト株式会社 代表取締役社長)

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