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福沢文明塾 コア・プログラム講義録

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第6期 コアプログラム
特別セッション「リーダーシップからフォロワーシップへ」

講師:中竹竜二
日本ラグビー協会 コーチングディレクター  ※ 2011年12月当時
早稲田大学ラグビー蹴球部前監督
インタビュアー:針谷和昌(コア・プログラム 第1期 修了生)
ライター:永井祐子

今期の最終セッションは、現日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二氏を迎えて行われた。カリスマと称された清宮前監督の後任として、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任した中竹さんは、自称「世界一オーラのない監督」でありながら、大学選手権2連覇という実績を残している。今回は、そこで実践した「フォロワーシップ」という理論について語っていただいた。

 

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経験ゼロでもマネジメントできる

中竹さんが早稲田大学のラグビー部監督に就任したのは、32歳のときのことだった。前任者の清宮監督は、低迷していた同チームを復活させた強力なカリスマ指導者として知られる人物である。「それに比べて私は、現役時代は3年生までレギュラー経験がありませんでしたし、卒業後10年空いたブランクの間、一切指導経験のない素人監督です。そんな人間が、専門的能力を発揮できなくてもやっていくためには、リーダーとしてチームを引っ張るのではなく、選手やコーチなどフォロワーに引っ張って行ってもらう『フォロワーシップ』を導入するしかないと考えたのです」。
フォロワーシップとは何か。「組織はリーダーで動く」というリーダー中心の考え方に対し、フォロワーシップで中心となるのはチーム全体だ。リーダーの示す「こうすればうまくいく」という正解に従うのではなく、メンバーみんなの意見を集約して答えを選択していく。「これからの時代は、そう簡単に答えは見つかりません。どこかにあるたった一つの正解を求めるのではなく、今まであったものを組み合わせて、未来に向かう答えを選んでいくことの方が重要になります。つまり、たった一人のリーダーの考えというよりは、みんなの意見を集約することが必要となってくるのだと思います」。
また、従来のリーダーシップにおいては、リーダーとメンバーは「先生」と「生徒」のような縦の関係であり、上が下を指導するという一方通行が基本だ。一方、フォロワーシップでは、基本的には1対1のパートナー同士、すなわち横の、かつ双方向の関係を築いていくという点も特徴となる。

フォロワー一人ひとりに合わせたアプローチ

フォロワーシップを実践する上で、リーダー自身はどうあるべきか。中竹さんは、背伸びせず身の丈にあった姿勢を自覚することを心がけたという。できないことはハッキリとカミングアウトして、フォロワーにやってもらう。「自分は清宮さんのようなリーダーシップで引っ張っていくことはできないから、選手自らが考え、課題を解決し、練習も試合も自分たちでコントロールして、それで勝つチームを作りたいのだと話しました」。

監督就任後初ミーティングでこう話した中竹さんに対し、学生たちの反応は冷ややかだったという。「ネットでひどい悪口を書かれたこともありました。それでもあきらめずに、口癖のように何度でも言っているうちに、仕方ない自分たちでやるしかないかという雰囲気になってきました。それを我慢強く待つことが大事なのです」。

ここで重要なのは、こうした意思伝達は一斉指導では行き届かないということだ。フォロワーは一人ひとりが全員違うということを理解し、それぞれに合わせて伝え方を変えなくてはならない。「フォロワーシップとはこういうもので、君にはこういうものを望んでいる、こういうことをしてくれると僕はうれしいんだよということを、個別にアプローチするのです」。

 

一人ひとりの「スタイル」を確立させる

フォロワーシップのゴールは、個々の力を最大限に発揮させることにある。どうやったら、彼らは自然と成長してくれるのか。そのためにリーダーがすべきなのは、一人のフォロワーの視点に立ち、そのフォロワーになりきることだ。具体的には、選手のことを考える時間を物理的に増やす。あらゆる角度から選手を観察し、選手本人以上にその選手のことを深く考える。「学業や恋愛などプライベートな問題を抱えているのではないか、プレッシャーがかかっているのかなど、相手が自分の目の前にいない時間のことまで考えて、その選手になりきることが必要なのです」。

その上で中竹さんは、130人の部員に対し、一人30~60分の面談を年間2回ずつ行った。選手それぞれの「自分らしさ」を追求し、自分だけのビジョン(V)、そこにたどり着くまでのストーリー(S)、想定できる壁とそれを乗り越える方法などのシナリオ(S)を、選手と一緒に考える。この「VSSマネジメント」によって、それぞれのスタイルを構築し、発揮させていく。「どうやったらパスやキックが上達するかというスキルの問題ではなく、個人としてどういうスタイルを持てるのか。一流は一流らしく、三流は三流らしく、土壇場でそのスタイルを貫くことを忘れてはいけないのです」。逆境に追い込まれたときこそ、その人の真価が問われる。そこで発揮できるものこそが、「自分のスタイル」なのだ。

ヒトの思考科学を応用する

フォロワーシップを実践するにあたっては、人間がどのように思考・行動するかということを知っておくといいという。「ヒトの思考というのは基本的にQ&Aでできています。ですから、リーダーは正しい答えを探すのではなく、適切な質問を探して、相手に答えさせる方が、より効果があるのです」。その例として中竹さんが推奨するのが「対極の視点」だ。「どうしたら最高のリーダーになれるかを知りたければ、どうしたら最悪のリーダーになれるかを考えてみるのです」。最高と最悪の境界には、ヒントも落とし穴もたくさん詰まっているという。「最悪を想定することで、やるべきことが整理されてきます。ネガティブに準備し、ポジティブに実行する、これが理想です」。さらに、人間の記憶力はインプットよりアウトプットにより、効果的だという点にも注目した。たとえばラグビーの戦術について伝えたいことがあるときは、戦術ミーティングのプレゼンテーションを、あえて選手にやらせる。選手の側が自ら伝えようという立場になることで、より戦術が深く理解される。「伝えたいことは、伝えたい人に伝えさせる、これが有効です」。

フォロワーの成長を信じて待つ

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さらに、「フォロワーは必ず成長する」という信念を持つことも重要だと中竹さんは指摘する。「疑う気持ちがあると相手にも伝わってしまうし、リーダー自身も辛いものです。どんなに嫌われても無視されても、必ずいつかはうまくいくと信じるマインドセットのスキルも、リーダーには必要です」。
実際、中竹さんの試みは、最初は冷淡だった選手たちにも次第に浸透し、やがては大学選手権2連勝という結果に結びついた。フォロワーの自主性に任せるとはいえ、最終的な責任はリーダーが取るべきだと考える中竹さんは、「負けたら俺の責任だから思い切ってやってこい」と言って選手たちを試合に送り出した。それに対し、キャプテンをはじめ、何人もの選手がそれぞれの立場で「自分の責任」を口にしたという。「こうした自立貢献と責任共有の精神は、フォロワーシップの理想です。選手たちからそういう言葉を聞ける経験をできたことは、とても幸せだと思っています」。

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質疑応答


【受講生】
監督就任当初、選手からネガティブな反応を受けたとき、どう克服したのでしょうか?

【中竹さん】
あらかじめ、相当の反発があることは想定していたので、むしろ当たり前に思えたし、自分がもし選手の立場だったら?と考えれば、同じことをするだろうなと考えました。むっとすることもありましたが、私自身のスタイルとして「怒らない」と決めて、それを貫きました。結局は、一つひとつ積み重ねていくしかないのだと思います。

【受講生】
フォロワーに協力してもらうには、どんなことが必要ですか?

【中竹さん】
うまくいかないときは、頼み方が悪いのか、タイミングが悪いのか、その理由はケースバイケースです。相手にはそれぞれの事情があるということを配慮して、綿密に考えます。そして、いつかは成長してくれるとマインドセットし、最後はよかったと言える結果になるように、しつこく続けることですね。

【受講生】
自分の短所や強みはどうやって見つければいいのでしょうか?

【中竹さん】
自分の弱みと強みというのは、表裏一体になっていることが多いものです。私の場合、面倒くさがりでいい加減、ドライ、夢がないというのが短所なのですが、マネジメントするにあたっては、そこが逆に、人に任せる、細かいことは気にしない、身の丈を知るという強みとして作用したのかもしれません。

【受講生】
フォロワーシップは、早稲田のラグビー部というエリート集団だからこそ成功したのではないでしょうか?

【中竹さん】
いえ、むしろそういう集団だったからこそ、この考えが浸透するのに時間がかかったのであって、まっさらの状態の方が早く導入できると思います。しかし、弱小野球部を短期間で甲子園に連れて行くというような状況では、トップダウン式のリーダーシップの方がうまくいくかもしれません。フォロワーシップはどんな場合でも最適な方法というわけではなく、その組織のゴールにあった方法を選ぶべきということですね。

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「自分はリーダーに向いていると思うか?」「リーダーとして成長するとはどういうことか?」
そんな問いかけから始まった、この日のセッション。ラグビー部での具体的なエピソードもふんだんに交えつつ、フォロワーシップの概念と実践方法について語られたその内容は、とても分かりやすく伝わったことだろう。
リーダーとなって組織を引っ張っていくには、それなりの資質が必要だと考えがちだ。しかし、「専門知識がなくてもマネジメントはできる」というフォロワーシップの理論は、新たな視点を与えてくれた。同時に、苦しいときほど「自分のスタイル」を貫くことが重要であり、そのために「自分らしさ」をとことん追求するべきであるという考え方は、リーダー論以前の、一人の人間としての心の持ちようとして、大いに参考になったのではないだろうか。


 

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このセッションを最後に、いよいよ受講生は最終発表を残すのみとなる。質疑応答後には、中竹さんの実践指導の下、参加者全員で円陣を組んで、互いの健闘を誓い合い、幕を閉じた。

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次回予告

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