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第6期コア・プログラム
ストラテジック・リーダーシップ「日本の成長・復興を牽引する企業経営者のリーダーシップについて」

講師:長谷川 閑史
(武田薬品工業株式会社 代表取締役 社長)
インタビュアー:田村 次朗(慶應義塾大学法学部教授)
ライター:永井祐子
セッション開催日:2011年10月15日

今回の講師は、先頃スイスの製薬会社を買収したことでも話題になった、武田薬品工業の長谷川社長。同社は、この買収により新興国の販路を拡大し、さらなるグローバル企業としての発展が期待されている。そのトップ経営者である長谷川さんに、世界経済が激変する今、企業のリーダーであることの条件を語っていただいた。

 


 

世界経済のパラダイムはシフトしている

リーマンショック以降、特に日本経済の停滞が著しい一因は、「成功のパラドックス」にあると、長谷川さんは指摘する。従来日本は、先進諸国の富裕層や中間層を相手に電気製品や自動車など耐久消費財を売り、高収益を上げてきた。しかし、世界の市場の中心は先進国から新興国へとシフトしている。しかも、日本の主要輸出品である耐久消費財は、食料品などの生活必需品に比べ、経済状況が悪化すると真っ先に抑制され、その影響をまともに受けてしまう。「日本がこれまで成功を収めてきた効率のよいビジネスモデルは、もう通用しなくなってきています。それに対して、日本の国家や企業の対応が遅れているというのが現状です」。

ダイバーシティ(多様化)は避けて通れない

マーケット規律の整った先進国相手に、効率のよいビジネスで成長を続けられる時代は終わった。今後は、常に何が起きるかわからないという前提で、ものの考え方や人材の多様化を図らなくてはならない。「進出先で生まれ育った人の考え方を受け入れて、研究開発やマーケティングを行うことで、その市場でのビジネスを勝ち取る。そういう発想が不可欠な時代となっているのです」。
人材の多様化を進めるため、武田薬品では定期採用を通年採用に切り替えただけでなく、国内の新卒に限らず、シンガポール、中国、インド、韓国などの主要大学からの直接採用も行っているという。「異なる考え方をする人たちがぶつかり合うことで、創造性が刺激され、新しいものが生まれると期待しています。今やダイバーシティは避けて通れないものであり、経営者がそれを進めていくことで企業は強くなると考えています。日本人の大学生諸君も、アジアの優秀な人材と常に競争しているのだという意識を持って欲しい。彼らに対して競争力のあるように自分を磨いておかないと、これからの就職は大変だと思います。今や、自分が国内にいるとしても、グローバル化は外から押し寄せてきているのです」。

変革期には強いリーダーシップが求められる

現在のような変革期においては、リーダーの役割が特に重要になるという。以前は、まわりに負けないように同じことをしていればよかった。しかし、日本が先頭集団にいる今は、誰を目標にすればいいのかが見えにくく、どうすればいいのかを自分たちで考えなければならない。「このような状況では、強いリーダーシップで組織を引っ張っていける人がいないと、乗り切るのはむずかしいでしょう」。
では、リーダーの役割とは何か。その一つは、与えられたミッションを達成するためのビジョンを設定することだ。「ビジョンには、ビジネスのビジョン、組織としてのビジョン、そしてカルチャーのビジョンという3種類があります。たとえば、10年後にはビジネスとしてはこうありたい、組織としてはこうありたい、カルチャーはこうありたいというように、ビジョンを設定する。そして、それによって組織のベクトルを合わせ、ミッションの達成に向けて最大限の力を引き出し、最高の結果を継続してもたらす。これがリーダーの役割だと思います」。

リーダーは畏怖されることも必要

リーダーに求められる資質は、高い倫理観、ゆるぎない価値観、判断力、決断力、勇気などさまざまな要素がある。「その中でも特に重要なのは、公私を混同せず、個人の利益よりも組織の利益を常に優先させる高い倫理観です。リーダーは社員から見て、常に良きモデルであらねばなりません」。
尊敬され慕われると同時に、リーダーは畏怖されることも必要だというのが、長谷川さんの考えだ。「全員のベクトルを同じにすることはむずかしいものです。説得してもアドバイスをしてもダメなときは、強制してついて来させるだけの求心力が必要となります。それにはauthorityではなくdignity、つまり畏怖させる部分がないとダメだと思うのです。通常の組織では、場合によっては厳しい対応を取らないとみんながたるんでしまって、易き方に流れてしまうこともあります。慕われる部分と畏怖される部分を使い分けていくことも、リーダーには求められるのではないでしょうか」。

 

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内省する時間を持つための瞑想のすすめ

リーダーに求められるナレッジ・スキルは、どうしたら身につけることができるのだろうか。「一般的には、出会った人や、読んだ本から求められることが多いでしょう。できる限り多くのネットワークを作り、多くの人と話をすること。そして、本と対話することで、自分の考え方を磨き上げていくのです」。
また、リーダーには精神的・肉体的鍛錬を継続して行うことが望ましいという考えに基づき、長谷川さんは毎日エクササイズと瞑想を欠かさないという。「人生の目標は何なのか、自分は何のために生きているのかを考えるために、自分を内省して振り返る時間を持つことは大事です。私の経験では、それには瞑想が最適だと思っています」。
自分自身を内省するためには、よきメンターを見つけたり、コーチングを受けることも有効だ。「私自身も、1年ほど前からエグゼクティブ・コーチングを受けています。この年になって、社長も9年目になり、ある程度は成熟した経営者になれているかと思っていましたが、実は、いかに欠陥の多い未熟なCEOであるかに気づかされ、深く反省しています。しかし、それは、まだまだ改善の余地があるということだと受け止めています」。

目標を設定して努力すれば、壁は破れる

ところで、一流の人間というのは、生まれつきなのか、それとも努力してなれるものなのか。この問いへの長谷川さんの答えは、「努力7割、運2割、才能1割」だ。「多くの人が、うまくいかないのは自分に才能がないからだと逃げてしまいがちですが、まずは自分の努力が足りないのだと考えるべきです」。壁にぶつかったとき、才能がないからここまでだと思うのか、今は停滞期だが、来るべき成長期が来るまで力を蓄えておこうと思えるか。能力の限界を決めるのは自分自身なのだ。
人間は、目標を設定して努力を続けることで、自らの壁を破る能力を持っている。地球上で唯一与えられたこの資質を最大限に発揮するために、常に目標を設定して努力をする義務が人間にはあるのだと、長谷川氏は説く。「私たちはそういう存在として生を受けたのだということを、皆さんにもぜひ考えてもらいたい。今まで考えていなかった人も、今日からは人生観・生活習慣を変え、自らの能力を最大限に発揮できるよう努力して欲しいと思います」。

質疑応答

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【受講生】
尊敬するメンターやライバルに出会ったときにどんなことを感じ、そしてリーダーになるために、それをどのように活かしてきましたか?

【長谷川さん】

メンターやロールモデル的な人に出会ったときには、彼らのいいところを自分も取り入れように、そして自分もそれに近づけるように、努力をしてきました。さまざまな出会いの中から見つけたヒントを活かすよう努めながら、日々自分を磨き上げてきたつもりです。

 

私の経験からいうと、自分が大きく伸びるのは、きわめてタフなアサインメントをなんとかもがき苦しみながらこなしたときです。自分が成長できるためのチャンスはいつ回ってくるかわからない。それを逃さないよう、準備を整えておくことも大事です。チャンスが訪れたときに、うまく捕まえて最大限に活かすためには、常にはりつめて努力をしている必要があるのです。

【受講生】
リーダーには「畏怖」されることが必要というお話がありましたが、たとえば失敗したときには、どうやってメンツを保ち、畏怖を挽回するのでしょうか。

【長谷川さん】
メンツを保とうとはしないことです。メンツを保とうとしてウソの上塗りやごまかしをするのは、リーダーとして最低です。自分が間違っていたなら、それを素直に認めないと組織は腐っていきます。誤った判断を押し通して会社に損失を与えるのは、社長失格だと思います。

【受講生】
逃げ出したり、限界を感じたりという経験はありますか? あるとしたら、どうやってそれを消化してきたのでしょうか?

【長谷川さん】
私が心がけてきたのは、全部本当のことは言えないまでも、決してウソは言わないということです。ウソを言えばごまかせることもあります。それを言わないのは苦しいし、逃げ出したくなることもあります。しかし、最後は妥協しない、逃げないという縛りを、自分自身で持っていることが重要なのではないでしょうか。

【受講生】
社員との距離の取り方で、心がけていることはありますか?

【長谷川さん】
どうしても相性の問題はありますし、誰にでも同じように接するのはむずかしいことです。私もときどきやってしまって反省するのは、自分がやろうとしていることを理解してもらえないとき、うまくいかないときに、ついイライラして感情的に爆発してしまうことです。これは絶対にやってはいけません。感情的になったらそこでおしまい。部下は納得しなくても引き下がるしかなくなり、必ずしこりが残ります。上司というのは部下に対して、親が子どもに接するように、「常にあなたのことを気に掛けている」というメッセージを送れるようであるのが理想だと思います。

【受講生】
グローバルなフィールドで活躍できるのは、どういうマインドを持った人材だと思いますか?

【長谷川さん】
好奇心が強くて柔軟性がある人。どんな環境でも、自分の興味があることを見つけて楽しめる人が一番望ましいです。その国のことが好きになり、文化に興味を持ち、ネットワークを作ることに価値を見いだせるような、そういう人間であってほしいと思います。

【受講生】
自分を振り返るために瞑想をされているそうですが、それによってどんな風に自分を律することができるのでしょうか?

【長谷川さん】
瞑想を始めてから、自分が信じる価値観とは何だろうと考えるようになりました。私が部下の昇進を考えるとき、能力がそう変わらないとすれば、価値観のしっかりしている人を優先して選びます。しっかりした価値観があれば、判断がぶれないのです。むずかしい判断に迫られたとき、自分の価値観がしっかりしていない人は、安易な方向に流れたり、目先の利益を狙う方を選んだりして、結果として、長い目で見るとネガティブな判断をしかねません。それは非常に危険なことです。どんなときでもぶれずに正しい判断をするためには、自分自身が譲れない価値観をしっかり持っていることが、とても重要です。そのためには、「自分自身が信じるものは何か」ということを、常に自分の中でしっかり見つけるよう努力をしなくてはいけません。皆さんも、自分なりの判断基準、価値観をしっかりと持つことをおすすめします。

 

●セッション後の、受講生の「振り返り」より(受講生コミュニティサイトより抜粋)


・リーダーたる者、特に組織のトップに立つ者は、並の覚悟でいては組織を成功に導くことはできないという事実を、日本が誇る偉大な先導者から直接聞けたことは非常に刺激となった。

・長谷川さんの一つひとつの言葉には、きれいごとを言っているだけでなく、そこに想いが込められていると感じた。そういう言葉は、膨大な思考と、それに裏打ちされた確固たる信念がないと出てこないものだと思っている。

・リーダーになる人は、当たり前のことをしっかりできる人。そして、その当たり前のハードルを上げることが大切なのだと気づきました。


トップ企業の経営者としての豊富な経験に基づく話は、非常に説得力のある言葉として受講生の心に刻まれたようだ。そして、その話の内容以上に、長谷川さんの凛としたたたずまいから発せられるオーラは、一流のリーダーとはかくあるべきという実例として、大きな感銘を与えたことだろう。後半の質疑応答では我先にと多数の手が挙がり、セッション後の感想でも「時間が許せばもっと聞きたかった」と残念がる声が聞かれるなど、一流のリーダーからの教えをどん欲に求める姿勢が感じられたセッションだった。

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